第60話 休日2
ハインツ防具店でブーツを買って店を出たら雨は止んでいた。
空を見上げたらチラホラ青空ものぞいている。
時刻はまだ10時半くらいなので、俺も食料の買い出しにいくことにした。
いつもの乾物屋に行く前に、俺は食べ物用の布袋を何枚かとボロ布を補充しようと雑貨屋に向かった。
雑貨店はギルドから歩いて5分ほどなのでハインツ防具店からでも10分もかからずに着いてしまった。
店の中に入ってタオルやボロ布を売っているところまで歩いていったら、エリカとケイちゃんがいるではありませんか。
「二人とも、雑貨屋に来てたんだ」
「その通りだけど、エドはブーツどうしたの?」
「これ。さっき買って慣らすためにはいてるんだ」
「ほんとだ。わたしもそろそろ買い替えないといけないと思ってたんだけど、それ買ったのはケイちゃんがこの前防具を買った確かハインツ防具店よね?」
「うん。そう」
「わたしも昼からにでも買いにいってみようかしら」
「いいんじゃないか」
「それで、エドは何を買いにきたの?」
「食料を入れる袋とボロ布を買いにきた」
「わたしたちも袋を買いにきたんだけど、ここの買い物が終わったら食料を買いに行くんだけどエドも一緒に行く」
「うん。俺もここの買い物が終わったら食料を買いに行こうと思ってたところ」
「あれ? 今度はなんでケイちゃんが笑っているの?」
ケイちゃんの場合、俺と違ってニヤニヤ笑いとは言わないようだ。女子同士でそんなこと言っちゃまずいもの当然だな。
「相変わらず、二人は仲がいいなーって」
「仲は悪くないけど。いつも言ってるけど、それ以上じゃないから誤解しないでよ」
何もそこまで言わなくてもだれも誤解なんてしやしないから。
雑貨屋での買い物を終えた俺たちは、食料の買い出しに揃って乾物屋に向かった。
大通りから1本裏通りに入りしばらく進んで乾物屋に到着した。
俺も含めて3人とも買うものは決まっていたようなのですぐに買い物は終わった。
「何かまだ用事がある?」
「わたしはお店に洗濯物を持っていかなくちゃいけないの、二人とも暇なんでしょうからついて来る? お茶くらい出してくれると思うわよ」
「お邪魔じゃなかったら行ってみるかな。ちょっと興味があるし」
「全然邪魔じゃないから」
「じゃあ、わたしも行きます」
今回はエリカが真ん中で俺がエリカの右側、ケイちゃんがエリカの左側になってギルドから離れる方向に歩き始めた。
「エド、そういえばわたしたちが最初に『サクラダの星』を作った頃方向は今と違うけどこの通りを歩いていたら変な連中につけられたじゃない」
「そういうこともあったなー」
「あとで、うちの店の人に聞いたんだけど、この辺り一帯を仕切っているヤクザだったんじゃないかって」
「そんな物騒な連中がいるんだ。一人二人なら何とかなるかもしれないけど数でやってこられたらどうしようもないよな」
「そうなのよ」
「官憲は取り締まらないんですか」
「それがどうもそのヤクザはよその領からやってきたならず者たちを集めているみたいで、下手なちょっかいをかけられないんだって」
「ヨルマン辺境伯領は王国の中でも治安がいいって父さんが言っていたけど、父さんの時代と今は変わってるんだろうしなー」
「わたしたちダンジョンワーカーには直接は関係ないんだけど、うちのお店もかなり迷惑を受けてるみたい。ここらの店も一緒じゃない?」
「いやな話だなー。
将来俺がトップダンジョンワーカーに成ったら、そういった連中をこのサクラダからたたき出してやるんだがな」
「エド、期待してるわよ」
「その時はエリカも手伝ってくれよ」
「その時がくればね」
そんな話をしながら通りを歩いていたら、エリカが立ち止まった。
「そこがうちの支店」
エリカの示した建物は3階建てで、思ったほど大きくはなかった。ギルドが特別大きな建物なので大きく感じないのかもしれないが、支店なんだしこんなものなのだろう。
「1階と2階がお店の諸々で、店の人とかおじさんが3階に住んでるの。わたしも最初はここの3階に住んでたの」
「おじさんというのは?」
「ここの店長で、わたしのお父さんの弟。わたしの叔父なの。
それじゃあ入りましょ」
エリカを先頭に店に入った。
中から見ると結構広い。
物を売っている店ではないようで、玄関を入ってもホールがあるだけで受付のようなものはなく、玄関ホールの先はすぐ事務室のようになっていた。
「今まで聞いていなかったけど何を売ってる店なの?」
「ここの支店では、うちのあるオストリンデンからの物品をサクラダのいろんなところに卸したり、サクラダの物品を領内の各所に運んで卸しているの。ここの裏手は結構広くて倉庫も並んでいるし、馬車の操車場になってるのよ」
物流兼卸業って感じの店か。なるほど。
俺たちは玄関ホールの脇にあった階段で3階まで上った。
そこでこの店の人に会った。
「お嬢さま」
「こんにちは。汚れ物持ってきたの」
「お預かりします。洗濯したものはいつものようにお嬢さまのお部屋に置いています」
「ありがとう。お願いね」
エリカがリュックを下ろして中から膨らんだ布袋を取り出して店の人に渡した。
「おじさんいる?」
「はい。お客さまもいらっしゃるようですから応接室にどうぞ。お呼びしてまいります」
「お願い。それと洗濯したものは応接室に持ってきてちょうだい」
「はい」
店の人は2階に下りていき、俺たちもエリカの案内でまた2階に下りて、階段から一番近い部屋に通された。
その部屋は応接室というより会議室のようで、真ん中にテーブルが置かれ、椅子が3脚ずつ向かい合って並べられていた。
「二人ともリュックは壁際にでも置いて座って。すぐに叔父さんがやって来るから」
俺たちは壁際にリュックを置いて、剣帯ごと武器をリュックの上に置いた。
奥の方から俺、エリカ、ケイちゃんの順で椅子に座っていたら、それほど待つことなく扉が開いて40代前半くらいの男の人が現れた。この世界の人は俺の前世の人たちと違って結構早く老けるからまだ30代かもしれない。
確かにエリカに何となく似ている。イケメンでヤリテ風。さんざん素人を泣かせたのではないか? おっと、これは俺のひがみから出た妄想だ。
俺たちは椅子から立ち上がってその人を迎えた。
「エリカ、元気にやってるようだな」
「まあね。おじさん、わたしの仲間を紹介するわ。
こっちがエドモンド・ライネッケ、わたしたちのチームのリーダーで、こっちがケイ・ウィステリア、わたしの同僚」
「エリカの叔父のマルコ・ハウゼンです。姪がお世話になっています」
「「こちらこそ」」
「どうぞ座ってください」
エリカの向かいの席にマルコ・ハウゼンが座って俺たちも席に着いた。
そしたら、扉が開いて先ほどの女性がお盆を持って入ってきて、テーブルの上にお茶を置いていった。
そこからお茶を飲みながらしばらく雑談したところで。
「おじさん、そろそろ行くね」
「エリカ、お父さんに手紙くらい書いてやれよ。わたしからは元気にやっていると知らせてはいるが。オストリンデンへは毎日荷馬車が出ているから手紙も7日もあれば向こうに届くんだからな」
「はーい。今度ね。
それじゃあ、行こう」
「「失礼します」」
俺たちは壁際のリュックの上に置いていた武器を装備してリュックを背負い部屋から出ていった。
とりあえず、エリカの叔父さんと会ったことで顔つなぎにはなったはず。この顔つなぎがダンジョンワーカーの俺やケイちゃんに何か際立ったご利益がこれからあるとは思えないけれど、悪いことじゃないのは確かだ。
それはそうと、俺も手紙くらい書いた方がいいよな。確か、ロジナ村に一番近い駅舎。俺が最初に乗合馬車に乗り込んだ駅舎にロジナ村の私書箱のようなものがあって、何日かおきにロジナ村の人がやってきて村に持ち帰ってくれたはず。サクラダからなら10日くらいあれば手紙は届きそうだ。