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素人童貞転生  作者: 山口遊子
ダンジョン編
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第48話 新生サクラダの星3、短弓2




 昼休憩を1時間ほど取った俺たちは、装備を整え、リュックを背負っていったん側道から本坑道に戻り、そこからさらに奥に向かって歩いて行った。


 ケイちゃんの今までの弓はケイちゃんの背負ったリュックに付いていた紐に括り付けている。


「モンスターが現れればいいなー」

「普通ならこういう時に限って現れないものだけど、わたしたちは普通じゃないから、すぐにモンスターに出会えると思う」

 エリカがそう言うとなんとなくそんな気がしてきたような。ただ、それがたとえ事実だとしても、自分たちのことを普通じゃないと言い切るのはどうかと思う。


 エリカがそんなことを言って3分も歩いていないのに前方からモンスターの気配が漂ってきた。もちろん距離も分からなければ、モンスターが何なのか? 何匹いるのかそういった諸々は分からない。


「モンスターが前方にいるようだ」

「まだ見えない」

「いました。大きなムカデです」

 俺が後ろを歩くケイちゃんを振り返ったら、ケイちゃんは例の短弓に矢をつがえ、そして無造作ながらも流れるように矢を放った。


 (つる)が元に戻る鋭い音と同時に矢はほとんど山なりになることなくスゴイ速さで俺の近くをかすめて飛んでいき何かに命中した。しばらくモンスターがうごめくような気配がしたが、そのうち気配は消えてしまった。


 また一撃でたおしたようだ。


 俺の目をしてもモンスターが何だったのか判別できなかったが、歩いて行くとケイちゃんの言った通り大ムカデが額の真ん中に矢を生やして路面に転がっていた。

 

「ケイちゃんの弓、すごいね」

「だな。

 それで、ケイちゃん。モンスターに矢を射て感想はどうだった?」


「いつもと変わらないというか、弓を引いた感じは強いとは思いませんでした。

 それで的を見ながら構えたら、外すはずないって思えてそれで矢を放ったら思ったところに命中しました」

「俺もエリカもモンスターが見えないうちに、ケイちゃんだけモンスターが見えたこと。矢が思い通りの場所に命中したこと。この二つはこの弓の力なんだろうな」

「でしょうね」

「やはり、ダンジョン産ってことだな」

「この調子だと、ケイちゃん一人でたいていのモンスターたおせちゃうね」

「深く潜っていけば一度に現れるモンスターの数も増えていくだろうから、その時まで俺は荷物運びでも構わないぞ」

「それもそうね」


「それじゃあ、矢を抜いてムカデの頭を回収して帰ろうか。

 いちおうケイちゃんに説明しておくと、ムカデの頭にも毒腺があってこれも薬の素材として売れるんだ。クモの頭よりこっちの方が少し高く買い取ってもらえる」

「そうなんですね。ありがとうございます」


 俺はムカデの額から矢を抜いてケイちゃんに渡し、それからナイフでムカデの頭を切り落としてエリカに渡した。


 いちおうこれでケイちゃんの新しい弓の力は分かったので予定通り俺たちはそこから引き返した。



 帰りの道中何事もなく、俺たちは渦を抜けてギルドホールに帰ってきた。

 明るい光の中でケイちゃんが手にした弓を見たら、真鍮がくすんだような感じの色合いだった。軽さからいって真鍮ではないのは確かなので、今のところ謎金属。鑑定してもらえば何かわかるだろう。


 買い取りカウンターに向かっていたらちょうど4時を知らせるように街の鐘が2度鳴った。


「お願いします」

「お前たちか。今日は3人だな」

「はい、新しくうちのチームに入ったケイ・ウィステリアです」

「ケイ・ウィステリアです。よろしくお願いします」

「これは、ご丁寧に。俺はハンス・ゴルトマン。ハンスと呼んでくれ」

 そういえば、俺とエリカは名乗っていなかったような気がする。

「俺たちも名まえを言ってませんでしたね。俺はエドモンド・ライネッケ。よろしくお願いします」

「わたしはエリカ・ハウゼン。よろしくお願いします」

「こっちこそ、よろしくな。まあ、二人の名まえは受付のショーンから聞いてたんだけどな。

 それで今日は?」


 ……。


 買い取りカウンターで今日の成果を買い取ってもらい、代金を受け取った。


 いったん買い取りカウンターからズレて、ケイちゃんにお金の分配について説明した。

「ケイちゃん。ダンジョンでの消耗品はチームで買おうと思うんだ。今まで俺とエリカだったのでチームでの消耗品なんてなかったけど、ケイちゃんは矢とか消耗していくから。

 それで、さっき受け取ったお金から銀貨1枚をチームの資金として取っておいて、残りを3等分しようと思うんだけどそれでいいかな?」

「それだと、わたしばかりがチームのお金を使うことになりませんか」

「だって、必要な物は必要な物だから」

「わたしとしたらありがたいですが、ホントにいいんですか?」

「「もちろん」」

「それでは、それでお願いします」

「じゃあ、銀貨1枚は俺が預かっておく。いま適当な入れ物がないからポケットに入れておくけど後でちゃんとしたものを用意しておく。

 それじゃあ、残りを3等分してしまおう。今日は端数は出ないはずだけどこれから端数が出たらチームの分でいいな?」

「うん」「はい」


 そこで俺は残ったお金を3等分して、エリカとケイちゃんに渡した。3人になった分、分け前は少し減ったがもちろん黒字だ。

「それじゃあ、今度はケイちゃんの弓を鑑定してもらおう」

「うん」「はい」


 今度は窓口カウンターのエルマンさんのところに移動した。


「エルマンさん。また鑑定を頼みたいんですがよろしいですか?」

「もちろんですが、ということは、またアイテムを見つけたということですか?」

「はい」

「分かりました。今そのアイテムをお持ちですよね?」

「はい」

「それでは」


 先導するエルマンさんについて2階に上がり、前回と同じ部屋に通され、エルマンさんが部屋から出て行ってしばらく待っていたら、ゼーリマンさんが部屋に入って来た。


「どうも」

「また何か見つけたとか」

「はい。

 ケイちゃん」

「ケイ・ウィステリアです。よろしくお願いします。

 それで、見ていただきたいのはこの弓なんです」

 そう言ってケイちゃんは手にしていた短弓をゼーリマンさんに手渡した。


「ほうー。これはまた珍しい。軽金の短弓ですな」

「軽金というのは?」

「金と同じく錆びず、何物にも侵されず、しかし鋼よりも硬く、そして軽い。弓の素材としては最高の素材ですな。

 同じ大きさの金の値段の2倍から3倍の価値があるとか。軽金は出回ってはいませんからオークションにかければそれ以上値が付くでしょうな」


 なるほど。金属として売るって選択肢はないけど相当高価なものだということは確かなようだ。

 今の話を聞いて、エリカもケイちゃんも目を丸くしていた。


 そうそう、弓に刻まれた文字のことを聞いておかないと。


「表側に文字みたいのが刻まれているんですが、なんて書いてあるんでしょう?」

「これも古代文字ですな。えーと。『ウサツ』と読めますが、言葉の意味は分かりません」

「そうですか」

 ウサツか。言葉の意味が分かるに越したことはなかったが専門家でも分からない以上どうしようもない。この弓の名まえが『ウサツ』ということがわかっただけでもありがたい。

 だいたいこんなところかな。


「ケイちゃんはゼーリマンさんに何か聞くことはない?」

「いいえ、ありません」

「エリカは?」

「わたしもないけど、エドは指輪のことを聞いてみたら?」

「すっかり忘れてた。

 ゼーリマンさん、俺のこの指輪なんですが、スライムをたおしたら出てきた指輪なんです。試しにはめたら抜けなくなっちゃったんですが、何か分かりますか?」

 ゼーリマンさんは弓をケイちゃんに渡して、俺の左手の指輪をじっと見てひとこと。

「ただの指輪としかわかりません。抜けなくなったということはなにがしかの力が働いているのでしょう。指輪をして何か不都合がありますか? 痛いとか」

「いえ、全然痛くもありませんし、今では着けていることも忘れている方が多いです」

「なるほど。呪いの指輪ではないみたいですから、きっとなにがしかの良い力を持っていると考えていいでしょう。大事にしてくださいと言いたいところですが、抜けないわけですから同じでしたな。フォッフォッフォッフォ」

 やっぱり呪いの指輪ってあったんだ。とにかく呪いの指輪じゃないのなら俺も一安心。


「それではゼーリマンさんありがとうございました」

「「ありがとうございました」」

「今日も良いものを見せていただきました。

 それではこれで」


 ゼーリマンさんが部屋を出ていったあと俺たちも部屋を出ていった。




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なお、ウサツを漢字表記すると烏殺となります。

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