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素人童貞転生  作者: 山口遊子
ダンジョン編
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第43話 ケイ・ウィステリア3


 まずはケイちゃんの主力武器である弓を買おうと、俺たちはギルドの裏手に回って工房街の方に歩いて行った。


「ところで、ケイちゃんはどんな弓を考えている?」

「ダンジョンの中は坑道ということなのであまり大きくない弓を考えています」

 なるほど、いわゆる長弓ロングボウは威力はあるかもしれないが、超遠距離を狙う必要などないのは確か。近づいてくるモンスターに確実にダメージを与えることが最重要だ。


 ギルドから一番近い、俺とエリカが剣を買ったミュラーさんの武器工房では確か弓は扱っていなかったので、その先の工房を当たってみることにした。先にケイちゃん用の短剣をそこで見てもよかったのだが、俺もエリカもそこで買った剣を今では使っていないうえ、今現在どう見てもすごい剣を腰から下げているので、ちょっと遠慮しておいた。エリカも同意見だと思う。聞いてはいないけど。


「エド、この前の工房でケイちゃんの短剣を選んだ方がいいんじゃない? 弓を扱ってる工房のことをそこで聞けばいいし」

 エリカは俺とは違ったようだ。俺の感覚は日本的感覚なのだろう。俺は転生者としてこの感覚を忘れないようにしよう。何の意味もないけれど。


 エリカさまには逆らえないので、俺は先頭に立ってミュラーさんの工房に入っていった。店先には前回同様誰もいなかったので、奥に向かって大きな声でミュラーさんを呼んだ。


「おっ! この前の二人組にもう一人か。で、今日は何だ?」

「こっちは今日から俺たちの仲間になったケイ・ウィステリアです」

「ケイ・ウィステリアです。よろしく」

「おう。これはどうもご丁寧に。俺はハンス・ミュラーだ」

「それですね。ウィステリアは俺たちの新しいチームメンバーなんですが弓がメインなのでサブに短剣を用意したいと思ってここにうかがったんです」

「わかった。

 短剣ならこっちだ」


 ミュラーさんに連れられていった先で台の上に並べられた鞘に入った短剣をケイちゃんが一本一本鞘から抜いて軽く振ったりして具合を確かめていた。

「それはそうと、おまえさんたち二人、いつの間にか大層な剣を下げてるじゃないか」

 見つかるよな。相手はプロなんだし。

「どちらもダンジョンの中で見つけたものなんです」

「お前さんたち、見た目通りの新人だよな?」

「運よく浅い階層で見つけられたんです」

「そんなことがあるんだなー。よかったら見せてくれないか?」

「いいですよ」

 俺は剣帯からレメンゲンを鞘ごと外してミュラーさんに渡した。

 レメンゲンを鞘から抜き出したミュラーさんが妙な声を出した。


「ウヒャー! なんだこの剣は!? 見たこともない素材でできている。ダンジョン産ということは何か特別な力があるんだろうが、すごい力を持ってそうだな」

 

 ミュラーさんの声で短剣を見ていたケイちゃんも俺のレメンゲンに注目したがすぐに短剣の品定めに戻った。


 ミュラーさんがレメンゲンを鞘に戻して俺に返し、今度はエリカの白銀の双剣に目をやった

「そっちの白いのも見せてくれるかい?」

 エリカも剣帯から2本とも外してミュラーさんに渡した。

「ほう。これは白銀の剣だな。これだけで一財産だ。お前たち、信じられないくらい運がいいんだな。とにかく盗まれたりしないように気を付けなよ」

「「はい」」

「いい物を見させてもらった。

 ところで、短剣の方はどうだ」

 ケイちゃんも短剣の品定めを終えたようだ。

「この短剣をお願いします」

「お前さんも見る目があるようだな。そいつの値段は金貨2枚だが、いいものを見せてもらった礼で金貨1枚と小金貨1枚だ」

「ありがとうございます」

 そう言ってケイちゃんは小袋をポケットから取り出して代金をミュラーさんに渡した。

 ケイちゃんの小袋の中には金貨がそれなりの数は入っていた。

 意外とお金持ちのようだ。キャバクラの契約内容といい、ケイちゃんはタダの女子ではないのかもしれない。


「剣帯もいるんだろ?」

「はい」

「そっちもサービスしてやろう。ちょっと待っててくれ」



 ミュラーさんが奥に一度引っ込んで剣帯を持って帰ってきた。

「これだ」

「ありがとうございます」

 ケイちゃんは剣帯を腰に締めて、短剣を左側に下げた。


「そういえば、弓を扱っている工房をご存じありませんか?」

「斜め向かいのホフマンのところで弓矢を扱ってる」

「「ありがとうございます」」


 俺たちもミュラーさんに礼を言って店を出て、斜め向かいの店に入っていった。


 そこはミュラーさんのところとは違って、店先が作業場を兼ねていてホフマンさんらしきおじさんが弓と思われる木を削っていた。

 壁際には長弓から短弓がずらりと並べられ、矢筒、矢、弓のつる。射手用の胸当てやブレイサー (コテ)なども置かれていた。ここは弓矢の専門店のようだ。


「作業中済みません。短弓を見せてもらっていいですか?」

「適当に見てくれて構わない」


 ダンジョン用の弓が主なようで、短弓の品ぞろえが豊富だった。

 その短弓をケイちゃんが真剣な目をして、たまに手に取って様子を見ていた。

 見た感じ、コンポジットボウ的な仕掛け弓は置いていないようだった。ロジナ村でも見たことはなかったからそもそもこの世界にないのかもしれない。ただ、あったとしても威力はあるのだろうがメンテナンスも大変そうだしダンジョン使いを前提とした場合、長持ちしそうにないものな。


 そんなことを考えていたら、ケイちゃんは弓の品定めを終えたようで、短弓を一張り手にしてホフマンさんのところに行った。

「この弓をお願いします」

「裏に的があるから試し射ちして見ろ。今(つる)を張ってやる」


 ホフマンさんがケイちゃんから手渡された短弓に弦を張って返してくれた。


 矢が数本入った矢筒を持ったホフマンさんに連れられて、店の奥の扉から裏に出たらかなり長細い広場になっていて、その先に的が置かれていた。


「コテと胸当ては必要か?」

「一本射ればわかりますから大丈夫です」

「分かった」


 ホフマンさんが矢筒から矢を1本抜き出し、ケイちゃんに渡した。

 傍目で見た感じ、矢尻に返しが付いていなかった。

 敵兵にダメージを与えるなら矢尻に返しが付いていた方がいいのだろうが、ダンジョンでの相手はモンスターなんだから、仕留めた後抜きやすいように矢尻に返しが付いていない方が合理的ということなのかもしれない。


 矢を受け取ったケイちゃんは弓につがえ、20メートルくらい離れた的に向かって無造作に構え、そして無造作に矢を放った。

 矢はわずかに放物線を描いて的に向かって飛んでいき、見事に命中した。

 見れば、矢は的のど真ん中に命中していた。

 おいおいおいおい。大変な逸材じゃないか!?

 エリカも半分口を開けてみていた。


 ケイちゃんはハーフエルフだが、エルフ、弓最強ってことだろうか?

 ケイちゃんも既に俺のチームメンバーなわけでレメンゲンの力が及んだ可能性が高いが、いきなり弓矢がうまくなったのなら自分でも驚くだろうがケイちゃんはいたって当たり前の顔をしている。すなわち、ケイちゃんはもともと弓の名手だったということなのだろう。


「すごいな。その若さで見事な腕前だ。うわさに聞くエルフ並みってところか」

 今のホフマンさんの物言いからすると、この世界でもエルフは弓がうまいというのはエリカが知っていたというだけでなく定説のようだ。そしたらエルフが長命であるという設定もこの世界だと本当のことかもしれない。


「この弓をいただけますか?」

「そいつは金貨1枚だ」

「あと、コテと胸当て、予備の弦。矢筒2つと、この長さの矢を矢筒2つ分お願いします」

「矢筒は太いのと、この大きさのものがあるがどうする?」ホフマンさんが手にした矢筒を持ってそう聞いた。

「その大きさの矢筒でお願いします」

「となると、矢の数は20本だな」


「それじゃあ店の方に戻ろう」

 店に帰ってホフマンさんがてきぱきと台の上にケイちゃんの注文した物品を並べていった。

「コテははめてみてくれ」

 ケイちゃんが台の上に置かれたコテを自分の手にはめてグーパーしてそれから台にいったん置いた先ほどの弓を握って調子を見ていた。

「はい。これでお願いします」

「胸当ては紐で調整できるから問題ないな」

「はい」

「それじゃあ、代金は締めて、……、うーん。金貨1枚と小金貨1枚だ」

 それを聞いてケイちゃんが小袋から代金を払った。

「ホフマンさん、ちなみに矢は一本いくらなんですか?」

「1本大銅貨5枚だ」

 20本だから大銅貨100枚=小銀貨10枚=銀貨5枚か。後でケイちゃんに渡しておこう。

 全部で銀貨7枚だな。


 ケイちゃんは受け取った品物のうち、弓以外はリュックに詰め、弓は手に持った。


 あと必要な物は、しっかりしたブーツとヘルメットくらいかな?

 ホフマンさんに防具を売っている工房を聞いたら、斜め向かいの工房を教えられた。名まえはハインツ防具店。直しなどしてくれるが仕入れたものを売る純粋な店だそうだ。



ホフマンさんの会話でちょっと違和感のある表現があったと思います。

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