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素人童貞転生  作者: 山口遊子
ダンジョン編
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第4話 迷宮都市サクラダへ2、関門2


 父さんが手加減してくれない以上、俺には俺の前に立ちはだかる関門を突破するすべはない。

 地面の砂を足でけり上げてやるか?

 そんな小細工が父さんに通用するとは思えないし、まかり間違って父さんを怒らせてしまったらそれこそこの話(***)自体がなくなってしまう。


「エド、大丈夫?」ドーラが笑いながら俺に聞いてきた。

「大丈夫」

「それじゃあ、5本目」


「エドがんばるのよ。

 そろそろ夕食だからカールも早く済ませてよ」と、今度は母さん。



 早く済ませられてはたまったものではないのだが、気付けば6本目も取られていた。

 後4本しかない。

 いかん。あと4本しかないと考えるのは敗北前提の思考だ。


 待てよ。試合が長引けば夕食の時間に食い込んでいく。つまり、試合途中でも終わるんじゃないか。それって引き分けだろ?

 負けるより100万倍良いような。

 要は父さんに10本取らせなければいい。すなわち逃げの一手だ。

 俺はさっきまで立っていた位置より5歩くらい後ろに下がって剣を構えた。逃げ込み先は納屋の二階だ。梯子で上に上がってから梯子を引き上げてしまえば逃げ切り確定だ。


「次7本目。ゴメン。エドにとっては1本目だった。アハハハ」

 なにげにドーラのヤツ性格悪いな。いったい誰に似たんだ?

「それじゃあ、7本目と1本目、見あって、見あって、始め!」


 ドーラの始めの合図と一緒に俺はくるりと回って納屋に駆けこんで、梯子を上って2階に上がった。

「こら、エド。何のつもりだ!?」

 父さんが歩いて追ってきた。俺はかかっていた梯子を引き上ようとしたところで父さんが納屋に入ってきた。

 これはマズい。

「エド、下りてこい!」

 上から見てたら父さんが梯子に手をかけた。

 父さんは木剣を下に向けて柄を右手の親指と人差し指で挟んで両手で梯子を上り始めた。

 これはチャンスだ。父さんの頭が2階の床の高さから少し出たところで俺は父さんの頭目がけて木剣を軽く振り下ろした。


 コツン!


「エド、俺の負けだ」

 何か言われるかもしれないと思ったが、父さんは素直に負けを認めてくれた。その父さんの顔が笑っている?

 なんだ。父さんは最初からわざと負けるつもりだったのか?

 笑っている父さんの顔が仏さまに見えてきた。人ってどうしてこんなに現金なのだろう?


「えーと、エドの1本勝ち?」

 あとから母さんと一緒に納屋に入ってきたドーラがきょとんとした顔をしながらも俺の勝ちを宣言してくれた。


「エド、良かったわね」

 母さんがそう言ってくれるとは思ってもいなかった。


「みんな手を洗って着替えて食堂にいらっしゃい」


 母さんのその言葉でみんな井戸の前に並んで手を洗い、ゾロゾロ家の中に入って防具など外して食堂に集まった。


 テーブルには家族全員が揃っている。

 父さん、母さん、アルミン兄さんとアンナ姉さん、俺とドーラの6人だ。


「「いただきます」」


 今日はシチューとパンの夕食だった。シチューにはウサギの肉が入っていた。ウサギは農作業の合間に父さんかアルミン兄さんが狩ったのだと思う。


 夕食を腹いっぱい食べて、食器が片付けられたところで父さんが俺に話があると言って書斎に呼ばれた。


「エド、約束だからお前に金を貸してやる。返す期限は設けないが必ず返すんだぞ。その時は自分の手でうちに届けるんだ。いいな?」

「うん」

「ほら」

 父さんが小袋を渡してくれた。小さな小袋だったが重かった。

「中に金貨が4枚と銀貨と銅貨で金貨1枚分入っている。それだけあれば装備を揃えることができてしばらく生活もできるだろう」

「父さん、ありがとう」

「ああ。おまえならいいダンジョンワーカーに成れるだろう。だが、いつ何があるか分からない仕事だ。無理だと思ったらいつでも帰ってこい。借金分はここでこき使ってやるからな」

「うん」



 これでやっとダンジョン都市サクラダに行ける算段が付いた。父さん、ありがとう。


 その日は寝るまで部屋の中で旅の支度をした。今現在俺の寝起きしている部屋は俺一人で、隣がドーラの部屋、そしてその隣が父さん母さんの部屋、1階の納戸だった部屋を片付けてそこをアルミン兄さんとアンナ姉さんの部屋にしている。


 俺がろうそくの明かりの中でごそごそやっていたらドーラがやってきた。

「エド、行っちゃうんだね」

「ああ」

「いつここを出ていくの?」

「早い方がいいから、明後日かな」

「そうなんだ。寂しくなるなー」

「そういえば、ドーラは将来のことを何か考えてるのか?」

「うーん。あんまり考えたことないけど、アンナお姉さんみたいにどこかの村長さんの息子のところにお嫁に行くんじゃないかな」

「それでいいのか?」

「うーん。分かんない。でも他にできるようなことないし」

「俺がダンジョンで成功したら、父さんに借りた金を返すためにここに帰ってくるから、その時お前をサクラダに連れて行ってやろうか? サクラダは大きな街のはずだから仕事もたくさんあると思うぞ」

「うん、そのときは連れてって。なるべく早く成功してよね」

「お前のためにも頑張るよ」

「じゃあ、期待しておくね」



 翌日。


 俺が父さんにもらったリュックの中に防具類と衣類関係のほか母さんが用意してくれていた干し肉、乾パン、水袋を詰めて旅支度をしている間、父さんがサクラダへの馬車のこととか旅のノウハウを教えてくれた。


 ロジナ村からサクラダへは、いったん歩きで街道まで出て乗合馬車を待ち、それに乗ってディアナまで移動する。ディアナでサクラダ行きの乗合馬車に乗り換えて終点のサクラダまで行く。だいたい3日の旅なのだそうだ。



 そして旅立ちの朝。この日はちょうど俺の15歳の誕生日。


 この世界というか、この地方では何歳から成人という決まりはないそうだが、いちおう15歳になれば大人とみなされるそうだ。俺もいっぱしの大人として頑張らねば。


 家族そろって朝食を食べて、荷物を担ぎみんなが見送る中うちを出た。

 見上げる空は晴天だった。今はもう夏だけど、まさにいい日旅立ちだ。

 ドーラは村から街道に向かう道まで見送ると言って俺についてきた。

 ドーラと連れだって歩いていたら、幼馴染のクリスが村の出口に立っているのが見えた。それを見たドーラは「エド、ここまでね。元気で。約束忘れないでよね」そう言って帰っていった。


「やあ、クリス」

「エド、サクラダに行くんだってね。元気でね」

 俺が出ていくことは急な話だったから家族しか知らないハズだったけど?

 ドーラがクリスに教えたんだろう。ドーラのヤツ何気に兄思いじゃないか。


「いっぱしのダンジョンワーカーになってやるからな」

「分かってる。それじゃあ」

 クリスはそう言ってつーっと俺に近づいてきた。なに? と思ったら柔らかいものがほっぺたに押し付けられた。


「クリス?」

「エド、待ってるから」


 俺は混乱しなからも街道へ続く道を歩き始めた。




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