第306話 フリシア救援5、文字通り閑話
リンガレングが敵の中に突っ込んでいって1時間弱経過した。王城の周りはあらかた掃除し終わったようだ。
リンガレングは見えないところで掃除を継続中のようで、出払ったままだ。
ウーマの甲羅のステージ上から見える範囲で敵兵がいなくなったのでペラも休憩中だ。
城兵たちはリンガレングの活躍とウーマの姿を城から見ているはずだが、今のところ城内に何の反応もない。のこのこ出てこられると邪魔なだけなので、こちらからも城に向かったアピールはしていない。
城の守将は王さまに城を託されたくらいの人物なのだから、俺のことも知っていておかしくない。
以心伝心ではないが、俺たちの邪魔をしないようにしてくれているものと思っていよう。
現在時刻は午後2時。だいぶ遅くなってしまったが昼食にしよう。
ペラとシュミットを残してウーマに中に入った俺は大皿の上にサンドイッチを盛ってテーブルの上に出しておいた。ついでにバナナも置いておいた。
「みんな、遅くなったけどこれを食べててくれるか?」
「「はーい」」
中のみんなはいたって元気。
「それで外はどんな感じ?」
「リンガレングが適当にやってるみたいだ。城の周りに敵はいなくなったから少しずつ範囲を広げて掃討してるんだろう」
「敵兵も不運よね。勝てる戦争だと思ってのこのこやってきたんでしょうに。それが一気にひっくり返されるんだもの」
「世の中そんなものだろ」
「そうかもしれないけれど、わたしたちだけには当てはまらないけどね」
「そういえばそうか」
「それはそうと、エドは立ったままだけど食べないの?」
「ペラとシュミットが上にいるから、上で3人で食べる」
「分かった。あとでお茶を届けてあげるね」
「うん」
ステージの上に戻って、キューブの中から皿を取りだし、その上に各種のサンドイッチを盛った。
「座って食べていよう」
皿の周りに3人で車座になって座りサンドイッチを食べた。
周囲は敵兵の死体だらけだが、今は戦いの喧騒もなく見上げれば青空。長閑だなー。
もう数万人はあの世に行っているし、現在進行形でその数は増えていると思うが、なんの感想もない。そういったところは、魔王ライネッケの面目躍如ではある。
まあ、ここで旅立った者も、これから旅立つ者もフリシアで相当暴れ回った連中だろうし、見逃したら、悪事を重ねるわけだろうし。これからの被害を未然に防いだことになる以上、魔王とは言えないか。
サンドイッチを2、3個摘まんだところでエリカがハッチから首を出してお茶を届けてくれた。
届け方は、キューブを介してのもので、こぼすことなくお茶の入ったマグカップを俺たちの前に置いてくれた。エリカのキューブ使いもうまくなったものだ。
「エリカ、ありがとう」「「ありがとうございます」」
「どういたしまして。
なにもそこで見ていなくても、あとはリンガレングに任せておけばいいんじゃない?」
「それもそうなんだけど、なんというかアピール? 俺たちがやったんだぞー。っていう」
「よくわかんないけど、好きにしてて。じゃあね」
エリカはそういってハッチから引っ込んだ。
暇でもあるし、この際だからシュミットに俺たちがここにきてこうしてフリシアを助けていることの真意を伝えておくことにした。
「シュミット。きみにはちゃんと伝えておくが、俺たちがこうやってフリシアにやってきて戦っているのは大使殿の頼みだからという単純な話じゃない。ということは理解できてるだろ?」
「はい」
「俺たちがこうやって大使殿の言葉に動かされてフリシアを助けたという話が広がったとするとどうなると思う?
俺たちは当然称賛されるだろうが、大使殿も当然称賛されるだろう?」
「はい」
「しかも俺たちは大軍を文字通り消し去る力があることをフリシアの王さまから庶民までみんな知ることになるわけだ」
「はい」
「そのとんでもない力に対して太いつながりがある人物が大使殿ということになれば、大使殿のフリシアにおける影響力は絶大なものになると思わないか?」
「思います」
「だろ? たとえフリシア本国にいなくても。逆にツェントルムにいることでさらに評価されるわけだ」
「おっしゃる通りです。
つまり、閣下は殿下に力をつけてもらいたかった。ということでしょうか?」
「そういうことだ。
俺はヨーネフリッツ王国の大侯爵を名乗ってはいるが、別にヨーネフリッツ王国に縛られてはいないんだよ」
「それは承知しています。
閣下は、ヨーネフリッツではドリス・ヨルマン陛下を助け絶大な影響力をお持ちです。
つまり、閣下はフリシアではケイト殿下の後ろ盾としてフリシアに影響力を持ちたいとお考えなのですね?」
「そうなんだが、正確にはヨーネフリッツとフリシアだけでなく、この世界すべての国に対して影響力を持ちたいと考えている」
「なんと!」
「できないと思うか?」
「いえ。閣下なら。閣下と眷属のみなさんなら可能かと思います」
「そのためにも大使殿には偉くなってもらわないとな」
「は、はい!
しかし、わが国ではすでに第1王子殿下が王太子に指名されていますのでケイト殿下が王位を継ぐことはありません」
「王位は仕方ないけれど、王に強く意見できる公爵くらいには成れるんじゃないか? いわば大公爵。俺たちが後ろについていることは明白なんだし」
「あり得ます。というか、今回の事件が片付けば確実だと思います」
「だろ?」
「はい」
「そういうことだから、シュミット達4人もその線で頑張ってくれ。応援しているからな」
「はい!」
これでよーし。今まででもその気ではあったんだろうが、俺から直接吹き込んだことでシュミット達のやる気もアップするはずだ。
「まあ、どこかのトチ狂ったやつが俺たちのことを忘れて大使殿に暗殺者を送るかもしれないから、そこは用心だ」
「この命に代えても殿下をお守りします」
「そのつもりでしっかりやってくれ」
「はい」
「それはそうと、ツェントルムは今は田舎だが名前の通りやがて世界の中心になる。覚えていておいてくれ」
「はい」
時刻は4時を回った。影が伸びて日はだいぶ西に傾いてきているが、リンガレングはまだ帰ってきていない。20万の兵隊たちのうちの生き残りは逃げ回っているんだろう。処分効率が下がるが、いずれ処分は終了する。
俺もアピールに疲れたから、ウーマの中に入ってちょっと寛いでおこう。
「ペラ。ここは任せたからあとはよろしく頼む」
「はい」
「シュミット。そろそろ中に入ろう」
昼食で使った食器を食洗器の中に片付けて居間で寛いでいたエリカたちのところに行った。
「エリカたちはそろそろ風呂に入った方がいいんじゃないか?」
「そうね」
エリカたちがソファーから立ち上がって脱衣所に入っていったので、入れ替わりに俺とシュミットがソファーに座り、テーブルの上に載っていたバナナの房から1本取ってシュミットに渡し、自分でも1本取った。
「これはダンジョンの中に生えていたそうですが、本当においしいですね」
「今年中に、ツェントルムからサクラダまで街道が開通するからサクラダに行ってダンジョンワーカー登録するって言ってたろ?」
「はい」
「そのときみんなを連れていってやるよ。
ダンジョンに入ったら1日8時間は歩くけど大丈夫だよな?」
「わたしとハンナは大丈夫ですが、殿下と後の二人は厳しいかもしれません」
「まだ3カ月あるから、鍛えておくように大使殿たちに伝えておいてくれ」
「分かりました」
「エリカに頼んで、領軍の駐屯地で兵隊たちと一緒に訓練すればすぐに体力つくぞ」
「そればっかりは。申し訳ありません」
「冗談だから」