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素人童貞転生  作者: 山口遊子
ダンジョン編
285/336

第285話 ハジャル襲撃


 リンガレングがたおした御子の死体をウーマが押しつぶしたらしい。

 想定外の連続だ。


 気付けば俺の隣りにはペラの他にエリカが立っていた。ケイちゃんとドーラはウーマから降りてきていない。

「どう?」

「リンガレングが簡単にたおしたんだけど、その死体がウーマの下に入ってしまって、ウーマが腹を地面につけたら死体を押し潰してしまったみたいだ」

「なにそれ!?」

 潰れた死体など見たくはないが、一応確認は必要だ。ここはリーダーとして。


「ウーマ。腹の下を見たいから体を上げてくれ」

 ウーマが折りたたんだ脚をゆっくりと伸ばし、腹の部分が路面から離れてゆっくり上に持ち上がっていった。


 路面を見ると、御子の剣と盾の他、黒っぽく見える血などのいろんな有機物が広がっていたのだが、肝心の御子の本体がない!


 死体が消えた!


 おかしいなー。とか言っていたらいきなりドサッと音がして、路面に生ごみの塊りが落ちてきた。

 よく見ればいろんな体内の部位がはみ出たちょっと前まで人間だったものだ。ウーマの腹にくっ付いていて剥がれ落ちたのだろう。


 剣と盾を回収したあと、その残骸も回収しておいた。どこか湖とか川があったらウーマで乗り入れて腹を水洗したいところだ。


 結局、こんどの御子の正体については全く分からぬままだった。

 死体を検分すれば何かわかるかもしれないが、俺は検死医ではないので潰れてしまった死体など検分したくはない。


「驚いたわね。人間って面白いほど簡単にぺちゃんこになるのね」

 エリカはいたってエリカだった。領軍本部長ならこれくらいでないと務まらないしな。

「それよりリンガレングが強すぎた」

「いいんじゃない。御子はある程度の脅威だって思ってて、予想以下だったわけだから」

「リンガレングが強すぎただけで、俺たちが相手をしてたらそれ相応だったかもしれないぞ」

「リンガレングは味方なんだから強いに越したことないじゃない」

「そりゃそうだけど。

 ここにいても仕方がないから中に入ろうか。

 おっと、その前にウーマの傷はどうなった?」

 御子に切りつけられていたはずのウーマの首には傷跡はどこにもなかった。

 傷つけられても、甲羅をまくったり壁を自在に空けたり閉じたりできるわけだから少々の傷は勝手に直るような気がする。現にどこにも傷がないわけだし。

 そもそもこの首、なんの機能もなさそうだし。誰かの趣味でとって付けただけの、はっきり言って飾りじゃないか?

「首は何ともないみたいだから、ウーマの中に戻ってハジャルを目指そう」

「そうね」


 ウーマの腹を再度路面につけて、サイドハッチからエリカとペラと乗り込み、最後にリンガレングが乗り込んだ。何も言わなかったが、リンガレングはウーマの前方の監視位置についた。


「エド、それでどうだった?」と、ドーラが聞いてきた。

「あ、ああ。御子はリンガレングがたおしていた」

「あっという間だったけど、御子って結構強かったんじゃないの?」

「さっきの御子が最初の御子と同等だったかどうかは分からないけれど、リンガレングが強すぎたんじゃないか」

「死体はどうしたの?」

「キューブに入れてる」

「検分しなくていいの?」

「ドーラちゃん、御子の死体はウーマが腹を路面につけた時、潰しちゃったからグチャグチャで検分どころじゃなくなったの」

「うわっ」

「そういうことだから。

 御子が持ってた剣と盾は使えそう。あとはブーツと手袋くらいは使えるかも知れないけど使いたくはないだろ?」

「いらない。でも今回のが本当の御子だとしたら、最初の御子みたいにキューブを持ってなかったかな?」

 確かに。そうなると死体を検分しないわけにはいかないか。

 仕方ない。リーダーとして死体の検分をするか。

 ウーマの中でグチュグチュ死体を出すわけにはいかないので、一度ウーマから降りてそこで死体を取り出さないと。

「みんなは来なくていいから」


 ウーマから飛び降りたら、ペラが「周囲を警戒します」と、言って下りてきた。

 俺はペラに礼を言って、路面にグチュグチュ死体を出してよく観察した。


 死体はグチュグチュだがかなりの体液が最初漏れ出ていたようで、それほど体液が路面に広がらなかったが、さっきはほとんど感じなかった臭気がひどい。

 とにかくキューブがあるならと、臭いを我慢してひしゃげた胸当ての端を持ち上げ、軽くゆすったら中から中身がずるりと落っこちた。

 血に染まった胴着の真ん中あたりが膨らんでいたのでめくって中を見たらキューブがあった。

 キューブは諸々でかなり汚れてはいるが壊れてはいないようだった。


 少し得した気分になった俺は再度死体を俺のキューブにしまってペラともどもウーマに戻った。

「どうだった?」

「ドーラが言った通りキューブを持ってた。

 汚れてるから洗面所で洗ってくる」


 新しく手に入れたキューブを洗面所で水洗いして軽くタオルで拭いてからみんなのもとに戻ってキューブを見せた。


「これだけど」


 試しに開いたらちゃんと展開し、また元の大きさに戻った。

「今度はエリカが持っておくか?」

「そうね」

「エリカも、ケイちゃんくらい練習しないとな」

「うん」


 キューブをエリカに渡して。

「それじゃあ、ハジャルに向けて出発しゅっぱーつ!」


「そうそう。以前サクラダダンジョンで光る水薬を3つ見つけたことがあっただろ?」

「あったっけ?」

「あったんだよ。おそらくあの水薬はそこらのダンジョンポーションじゃ治らないような致命傷とか不治の病にも効くと思うんだ」

「どうしてそう思うの?」

「それは俺の勘だ」

「まあいいけど。それで?」

「エリカもキューブを手に入れたから、ケイちゃんとエリカに1本ずつその水薬を渡しておこうと思う。俺に何かあったら使えないんじゃ困るし。俺のいないときに何かあっても困るし」

「分かった」「はい」


 二人に暫定エリクシールを一本ずつ渡しておいた。

「あっ! これかー。思い出したわ」

「これでしたね」

「わたし、初めて見た。きれいー」

 そういえばドーラがまだいないとき手に入れたものだったか。


「ドーラに何かあったら俺が何とかするからな」

「その時は、頼むよ」

「任せてくれ」


 ウーマが動き出したところで、ペラだけ残りエリカたちは各自自分の部屋に戻っていった。

「マスター。わたしもリンガレングの隣りで警戒します」

「そこまでしなくていいよ。リンガレングにちゃんと報告するように言っているし」

「わたしの場合どこにいても同じですから」

「それじゃあ、任せた。明日の未明にはハジャルが見えると思うからそうしたら起こしてくれ」

「了解しました」


 俺も寝室に戻って下着になってベッドに潜り込んだ。後5時間は寝られる。

 最近あまりしていなかった魔力操作をしたと思ったら、ペラに起こされていた。


「マスター。ハジャルの丘が見えました。現在ウーマは停止しています。それと、途中で川があったのでウーマの腹はある程度きれいになっていると思います」


 時間が経って乾いているだろうからそう簡単に汚れは取れないだろうけど、気は心。普段ウーマの腹の底なんか見ないから臭いさえなければ十分だろう。


 ウーマの前方スリットをのぞいたら、前方に平地が広がり、その先に市街地に囲まれた丘が見えた。丘の上は城塞化されて周りがぐるりと城壁に囲まれている。城壁にはいたるところに明り取りなのか矢間やはざまなのか分からないが無数のスリットが並んでいる。

 何から身を守っているのか知らないが、相当の堅城だ。


 丘にはふもとかららせんを描いて坂道が作られているのが見て取れた。

 攻め上がるにはその坂道を通らざるを得ない。上から坂道に向かって矢を降らせればたいていの敵は撃退できそうだ。とはいえ、あくまでたいてい止まりの敵しか撃退できない。こっちはたいていを超えるリンガレングを放つだけ。


 いったんリンガレングをキューブにしまった俺は階段を上って甲羅のハッチを空けてステージの上に立ち、ウーマの甲羅の上にリンガレングを出した。

「リンガレング。声を出しながらでも戦えるよな?」

「もちろんです」

「そうしたら、降伏する者は両手を上げて建物から出るようなるべく大きな声で警告しながら建物を破壊していってくれ」

「手を上げず抵抗する者は処分してよろしいですか?」

「くれぐれもきれいにな」

「了解しました」

「それじゃあ、リンガレング。抵抗する者を排除しつつ、ハジャルの丘の上の建物を全て破壊してこい。特殊攻撃はなしだぞ」

「はい!」


 一度8本の脚を屈伸したリンガレングはウーマから飛び降り恐ろしい速さでハジャルの丘に向かって駆けて行きすぐに小さくなって見えなくなってしまった。


 ステージの上から成り行きを見守っていたら、エリカとケイちゃん、それにペラがステージに上がってきた。ペラは別としても俺もエリカもケイちゃんも普段着だ。今は敵地なのでちょっとばかり不用心だが、ペラもいることだし少しくらいなら大丈夫だろう。

「丘の上の建物を全て破壊しろと言ってリンガレングを放ったから、変化がそのうち現れると思う」

「人間は?」

「降伏する者は両手を上げて速やかに建物から出ろ。と、警告しながら建物を破壊するようリンガレングに言ってるから多分そんなに犠牲者は出ないんじゃないか。倒壊に巻き込まれる人間はある程度出ると思うけれど」

「多少は仕方ないわよね」

「そうですね。ドリスが放った密偵さえ無事ならいいでしょう」

 二人ともこういったところは結構ドライだよな。妙な人道主義に比べれば1億倍いい。


「マスター。リンガレングが御子と会敵した場合、キューブを確保できそうですがわたしがリンガレングの後を追って回収できるものは回収しましょうか?」

「できるなら頼む」

「はい」

 ペラはそう言い残して走り去っていった。そういえばペラは最初からブーツをはかず裸足だったような?


 ペラがリンガレングを追ってしばらくして、城壁の一部が崩れて残骸が下のらせん道路に落ちていくのが見えた。


 そしてその崩壊というか崩落は分かる速さで広がって行く。

 結局10分ほどでこちら側から見た城壁はきれいさっぱりなくなり、今まで城壁だったところに見えるのはどう見ても瓦礫の山だった。


 リンガレングを放って30分。

 リンガレングが帰ってきた。その後にペラも続いて帰ってきた。

「目標を100パーセント破壊完了しました」

「よくやった。

 それで、抵抗した人間はどれほどいた?」

「250体処分しました」

 結構いたな。抵抗は個人の自由だからな。

「それでペラ。キューブは回収できた?」

「はい。1つだけ回収出来ました」

「ほう。これはドーラでいいか。

 ドーラ。暇なときは出し入れの練習をするんだぞ」と、言って今回の戦利品のキューブをドーラに渡しておいた。ドーラは部屋に置いてくると言って駆けて行った。


「御子がいたってことだな。どんなヤツだった?」

「はい。黒い鎧を着ていました」

「ほう。

 あと分かっている色で残っているのは白だけだな」

「そうね。

 それでリンガレング。その黒い鎧の御子って強かったの?」

「わたしは全く認識できませんでした」

 神聖教会からすれば最強戦士がリンガレングにはそこらの雑兵と区別できなかったわけか。これは厳しい。


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