第281話 神聖教会総本山破壊作戦
神聖教会の総本山に対してカチコミをかけることにした。もちろんカルネリアに対して宣戦布告に等しい行為だが、どうでもいい。
別に占領する気などないので、ウーマで直接乗り込んで、総本山である聖地ハジャルごとリンガレングで焼き払う。ただそれだけの簡単な作戦だ。
殴り込んで焼き払う。(注1)って、どこかで聞いたことがあるような、ないような。
「ところで、ハジャルってどんな場所?」
「聞いた話ですと、ハジャル本体は小高い丘の上に築かれた城塞でその丘の下に門前町が広がっているとか」
「ふーん。丘の下に市街が広がっているわけか」
「丘の下なんです。
降伏を促さなくていいでしょうか?」
「やり取りに時間がかかるし、その間に御子をこちらに放たれても面倒だからいきなり襲おうと思う」
「遠くからリンガレングで焼き払う?」
「御子なんかに出会ってやり合いたいたいわけじゃないから、それが一番手っ取り早いんじゃないか?
御子が総本山、ハジャルの中にいればそれだけのことだし、もしいなくても総本山の庇護が無くなれば何もできなくなるだろう。他の御子があの男の同類なら、どう見ても自力で生活できそうじゃないし」
「それは言えてる」
「ねえエド。神聖教会ってすっごく信者が多いところだよね? そんなのの総本山を潰しちゃって大丈夫なのかな? 世界中の神聖教会信者を敵に回すことにならない?」
「宗教が軍隊を持ってそれで自分勝手なことやっちゃいかんだろ?
いずれ叩き潰す以上、早いか遅いかなら、早い方がいいだろう? それに、リンガレングで焼き払えば、誰がやったかなんて誰も分からない。文字通り神の怒りで済んでしまうと思うぞ」
それに俺は世界を目指している。宗教どころかいずれは世界を相手取ることになる。
「ドーラちゃん、敵がエドのことを敵認定している以上、これはやるかやられるか。
やられるくらいなら、やっちゃった方がいいに決まってるでしょ? こっちから仕掛ければ先手が取れるわけだし」
「そう言われれば。さすがはハウゼン本部長」
ここでエリカをヨイショしても始まらないが、『さすがは云々』は下僚として極めるべき言葉の一つではある。
ドーラの口からその言葉を聞いたことで、かわいい妹が着実に社会人として歩んでいることを実感できた。兄はとてもうれしいぞ。父さんが聞いたら涙するかも? 今度手紙に書いて父さんに知らせてやろっと。
「神聖教会はそれでいいとして、カルネリアはどうする?」
「カルネリアに対する宣戦布告かもしれないけれど、カルネリアについては放っておいていいんじゃないか。あとのことを考えずに国のトップを叩き潰すと、国そのものがメチャクチャになるからな」
「それもそうか」
それでも神聖教会総本山破壊作戦開始は、ドリスからなにがしかの情報を得てからにしようということになった。目途的には年が明けて少ししたらだな。
それまで俺はせっせ、せっせとツェントルム-サクラダ線の工事に精を出すとしよう。
歳が暮れ、ツェントルムというかライネッケ領は年末5日プラス年始3日の連休に突入した。食堂や酒場、駅舎の宿などは開いている。そういった施設に勤めている連中はかわいそうだが休みをずらすことになる。その代り、臨時給与として何がしかが支払われる。
年末年始の温泉保養所は混むので、俺たちは遠慮してウーマの風呂で我慢することにした。
ウーマへのお祈りの甲斐もあり、ウーマの食料庫には板海苔が出現している。
海苔を説明するには苦労したが、海藻を乾燥した乾物ということで受け入れてもらった。
気分は正月なのでもち米から餅を作り、ショウユを付けてノリで巻き磯辺焼きを作った。さらに餅を乾燥させて、出汁を利かせたショウユを塗った煎餅も作ってしまった。
もちろん、雑煮も作っている。白菜がいまだに手に入らないので、キャベツで代用した。かなり変だったが、結構いけた。スープはトカゲのぶつ切りを使っている。
連休が明けて数日後。
ズーリに派遣されていた密偵からの第1報とヨーネフリッツからカルネリアまでの簡単な地図がドリスから送られてきた。
それによると、複数の超人的な戦士によりズーリ軍が蹂躙され、跡地にカルネリア軍と神聖教会の兵士が進出して占領地を広げていき、20日ほどでズーリはあっけなくカルネリアの軍門に下ったようだ。
超人的な戦士というのは御子に間違いない。
その超人的な戦士だが、確認された数は3人。赤い鎧を着た戦士と、白い鎧を着た戦士。そして黒い鎧を着た戦士がいたそうだ。赤い鎧は昨年末俺たちがたおした御子だろう。
残りは二人だけなのか? それとも3人以上御子が存在するのか? 第1報では分からなかった。
「確認された御子の数が3で、一人はたおしているから残りは2。とは言っても、ズーリで確認された御子の数が3だったというだけなので、あと何人御子がいるのかは不明だ」
「残りの御子もあの赤い御子程度の頑丈さがあるようなら、普通の軍では太刀打ちできません。われわれ以外では一人でも大変な脅威となります」
「つまり連中は俺たち以外どの国にとっても脅威になるわけか」
「そういう意味だと、わたしたちもどの国にとっても脅威だけどね」
「でも、わたしたちは、今のところ他国に対して侵攻という形はとっていません」
「いちどフリシアの港を襲撃したことがあるけれど船を沈めただけで占領とかしていない上に、アレはあくまで防衛の延長線だったからな」
「それに引き換え、カルネリアは小国とは言えズーリ、ハイムントを侵略しています。
リンガレングの本当の恐ろしさを知らないフリシア、ドネスコ以外の国から見ればわたしたちよりカルネリアの方が脅威かもしれません」
「その辺りをうまく突ければいいが、今のところ俺たちは他国に対して何の影響力もないしな」
「影響力がない。は、言い過ぎかもしれません。フリシア、ドネスコ両国はわたしたちを恐れているでしょうし、わたしたちに多数の捕虜をとられ、さらに自国の港湾襲撃を目の当たりにしたフリシアは特に恐れているでしょう」
「そういえばそうか。
いずれにせよ、悪い芽は早めに摘んでしまおう。
ドリスが送ってくれた地図によると、ここツェントルムからズーリまでは1800キロ程度。ウーマで60時間だ。それほど遠くない。
ズーリとの国境からカルネリアの聖地ハジャルまでは、徒歩で25日ほどだそうだ。途中沙漠が続くという話なので、5、600キロと考えればいいだろう」
「ズーリに入ったら歩く?」
「その方がいいと思うが。ウーマで越境すれば、その先で起きる大事件の首謀者だとすぐにバレるだろ?」
「でも、ウーマが国境近くにいたことだって必ずうわさになるはずだから、あまり意味はないんじゃない。それよりウーマで進めば敵の急報の早馬を追い抜いてハジャルに到着できるわよ」
「それはあるな」
行ってみないと分からないけれど、遠くから攻撃できれば俺たちが当然疑われるだろうが疑われるだけで俺たちがやったことを誰も証明できない。とはいえ、消去法で俺たち以外に犯人がいないとなると、俺たちがたとえ犯人じゃなくても犯人にされるわけだから、結局はどっちでもいいし、そもそも俺たちは連中から敵認定されているわけだし。
「ウーマで全行程を進むとすると、片道2400キロとして80時間。そう考えるとずいぶん近いな」
「年末年始の休みでもよかったわね」
「違いない」
「あっ! そういえば、ドリスが送った密偵がハジャルにいるんじゃなかったですか?」
「そうかー。それはマズいな。さすがに巻き込むわけにはいかない。となるとどうする?」
「ドリスに言って、撤収させる外ないわね」
「だな」
「だけど、それを考えると、無辜な巡礼者もハジャルにはたくさんいまますよ。ヨーネフリッツからも毎年何万人もハジャルを訪れているのでは?」
「確かに。となると、退去勧告するしかないか?」
「ですね」
退去勧告といっても、空からビラを撒くわけにもいかないし。
そんなことができたとしても、御子が必ず襲ってくるだろうし。
なかなかうまくいかないな。
「マスター。リンガレングの物理攻撃のみで神聖教会の建物を破壊するのはどうでしょう。
建物の倒壊から逃げ遅れる者も出るでしょうがそれは許容してもいい犠牲では?」
「それくらいいんじゃない? 何せ相手が先に手を出してきたんだから」
「それもそうだな」
「たしか、神聖教会の聖職者は赤い法衣を身に着けていたはずだから、見つけたらたおしてしまってもいいんじゃない?」
「そうだな。中途半端はよくないし」
「もしハジャルに御子がいたら確実にやって来るよな」
「でしょうね。この際だからちょうどいいかも知れないわよ」
「簡単にたおされてくれればいいんだが」
「何とかなるわよ。リンガレングがいるんだし。ケイちゃんの矢は他の御子にも通用するだろうし」
注1:殴り込んで焼き払う
『常闇の女神 ー目指せ、俺の大神殿!ー』
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オリジナルは「殴り込んで皆殺し。そのあと『神の怒り』で焼き払う」