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素人童貞転生  作者: 山口遊子
ダンジョン編
277/336

第277話 温泉保養所2


 昼食を食べ終えた俺たちは腹ごなしのため、保養所の近くを散歩することにした。散歩といってもツェントルムから保養所までの道はあるが、その先に道が伸びているわけではない。

 従ってなだらかではあるが、ツェントルム方向に歩く以外は山歩きになる。各自の防具も武器も俺がキューブにあずかっているし、ペラもいるということで俺たちは部屋に戻らずそのまま山の中に入っていった。俺だけは自動地図を入れたリュックを背負っている。


「キノコでも見つかればいいんだけどなー」

「サクラダでそんなことを言いながら森に入ったら、クマが出てきたことがあったわよねー」

「そんなことがあったんだ」

「ドーラがサクラダに出てくる前の話だし、ペラもまだ居なかった頃の話だ」

「ふーん。それでそのクマどうしたの?」

「街の近くにそんなのがいたら危ないから駆除して、ダンジョンギルドに売ろうとしたら、懸賞付きで、街から懸賞もらった。あの時は、ケイちゃんが2本矢を射てクマの左右の目に一本ずつ刺さったんだよなー。1本目じゃクマは元気だったんだけど、2本目でたおしたんだ」

「へー。今日もでるかな?」

「この辺りでクマが出たという話は聞いたことないからクマはこの辺りにはいないんじゃないか?」

「ちょっと残念だけど、いない方がいいものね」

「俺たちなら簡単にたおせるけれど、一般人だとそうはいかないから、もしクマがいるなら出てきてくれた方がいいけどな」

「それなら、クマが出てくる歌を歌ってあげようか?」

「そんな歌があるのか?」

「あるというか、今から作るの。あたりまえでしょ?」

「じゃあ、歌ってみろよ」

「うん。

 出ーてこい、出ーてこい、山のクマー」

『出ーてこい、出ーてこい、池の鯉』のような節でドーラが歌い始めた。

 しばらくその歌声を聞きながら歩いていたら黒い塊がこっちに向かって来た。どう見てもクマだ。ドーラの歌が利いたわけではないのだろうが、やってきたことは事実。


「マスター。わたしがたおします」

「ペラ。頼んだ」

「はい」


 ペラがクマに向かって走っていったら、クマは急停止してUターンした。そしてクマは四つ足でそのまま逃げだした。

 クマからすれば想定外だよな。


 逃げていくクマの後ろからペラがジャンプしてクマの後頭部を蹴りつけた。

 クマはそれだけで前のめりに枯葉の中に突っ伏して動かなくなってしまった。

 近くまでいってクマの死骸を確認したところ、ペラはかなり手加減をしたようで、クマの頭部は吹き飛ぶことなく原形をほぼ(**)保っていた。後頭部が陥没し形が大きく変わり、両目が眼窩から抜け落ちて鼻と口と耳から血を流しただけで済んだようだ。これは『だけで済んだ』とは言わないかもしれない。何であれ即死。痛みはあまり感じなかったと思う。

 

 クマの死骸はキューブにしまっておいた。保養所の厨房に持っていけば、適当に捌いて宿泊客たちの胃の中に収まるだろう。


 やはりハンティングには弓矢が良いだろうということになり、ケイちゃんに矢筒を付けたままの剣帯とウサツを渡しておいた。


 そうやって2時間ほど歩いたところで、そろそろ保養所に戻ろうと背負ったリュックを下ろして中から自動地図を取り出し帰りの方向を定めて保養所に向かって歩いて行った。



「4時間ほど歩いたわけだけど、ほとんど疲れなかったなー」

「ほんとにそう」

「それでも、お腹はだいぶ落ち着きました」

「わたしも全然疲れてないんだけど。わたしたちって、ちょっとおかしいよ!」

「少しばかりおかしくても、悪いことじゃないからいいんじゃないか?

 俺は厨房に行ってクマを下ろしてくるからみんなは部屋に戻っててくれ」

「うん」「はい」「分かった」「はい」


 厨房の入り口から中に向かって責任者を呼んでもらってクマの話をしたら、厨房の外に置いてくれと言われたのでそこにクマを出しておいた。今日の夕食には間に合わないと言われたがそれは仕方がない。


 夕食までの時間で温泉に浸かった。外はもう暗くなっていたが、岩風呂の屋根を支える柱の間から星も瞬きいい気分。いい塩梅に体が温まり風呂から上がって部屋に戻った。


 これから冬になるわけだから、脱衣所から岩風呂までの通路には囲いと屋根があった方がいいな。街に帰ったら行政庁に言っておこう。


 行政庁に対する俺の指示(**)は基本的に最大プライオリティーが与えられる。あまり乱発すると業務に支障がでるし反発も出る可能性があるのだが、領主さま自ら現場で働いている関係か多少のことで反発は湧かないようだ。

 上の頑張りというものはえてして下からでは分からないもので、些細なことを示すだけで士気の低下を抑えられるならお安いものだ。

 ライネッケ遊撃隊当時、昼食は隊員たちと同じ食堂で食べていたが、アレは頑張りではないものの、それでも下から見れば上に対してマイナスの思考を減らすことができる一つの方法だと思う。


 その日の夕食もたらふく飲み食いして大満足で翌日朝風呂を浴びて朝食を食べ、それからツェントルムに戻った。




 カルネリアへの密偵の件についてブルゲンオイストのドリスに依頼して10日後。

 密偵として4名ほどをズーリ方面に送り出し、うち2人がズーリで活動し、残りの2人がズーリ経由でカルネリアに向かうとの連絡がドリスから届いた。


 よく考えたら、ブルゲンオイストは王都ではあるが、まだ組織は固まっていないので密偵などといった高度な人材はいないかもしれないということを失念した無茶ぶりだった。それでもちゃんと4人もそろえてくれたことに感謝だな。




 俺たちがハルネシアからツェントルムに帰って1カ月後。


 密偵がズーリ方面に向かったとの連絡があってから20日ほど経った12月の初旬。

 ハルネシアから1個大隊がツェントルムにやってきた。到着時には補給部隊も同伴していたが補給部隊は帰っていった。帰っていく先はハルネシアではなくブルゲンオイストということだった。この異動はエリカがハルネシアにいる時に段取りしたものでライネッケ領軍に編入するそうだ。代わりにブルゲンオイストに置いていたホト子爵の第4大隊はドリスに返している。


 ハルネシアからの1個大隊はエリカに言わせると、非常に練度が低いので鍛えがいがあるそうだ。荷物を担いで1日5、60キロ程度平然と行軍できるような他の部隊と同じ訓練は無理だろうが、うちの新兵たちと同じつもりで、少しずつ慣らしていけばいい。そのうちレメンゲン効果も表れてついてこられるようになるだろう。



 こういった中。俺はツェントルムからサクラダまで直線で150キロ弱の道を作ろうと作業を始めた。

 ウーマで大森林の立木をなぎ払って行けばサクラダまで行くことはできるが、それではウーマ以外では倒れた立木や折れた切り株が邪魔で誰も使えない。それで俺が地道に立木をキューブに回収していった。もちろん以前から計画していたことなので、測量などは終わっており、俺が引っこ抜く立木には赤い印が入れてある。


 立木の片づけ作業自体は一日あたり5キロほど進むことができるので計算上は24日で作業は終わるのだが、それはあくまで理論値で、俺も野宿するわけにもいかないのでいったんウーマに戻る必要がある。

 なので、夕方ごろウーマに迎えに来てもらい、朝はエリカたちが領軍本部に出勤したら現場に移動するようにした。60キロほど進んだところで、往復で4時間かかるようになり、それでは作業時間が短くなるということで、腹をくくって野営することにした。


 野営といっても木工工房に頼んでがっしりした小屋を作ってもらったのでそこで寝起きすることにした。

 俺がいないウーマではペラが食事担当として作り置きではない食事を提供することになる。


 5日働き、ウーマに迎えに来てもらって1日過ごし、また5日働いたところで、予定していた全ての木を片付け終わった。われながら頑張った。


 あとは道路作業部隊が路面と側溝を整備するだけだが、資材は俺が運ぶことになる。その時はウーマを使って要所に石材を中心とした資材を置いていくだけなので、1日で俺の作業は終わるはずだ。


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