第271話 ヨルマン領+ツェントルムの簡単な地図。ハルネシア3
翌日。
朝食後、エリカは国軍本部に出かけていき、ペラは財務部門の監査に出かけて行った。
残った俺たちは、城の中を見学することにした。
俺たちの格好は、ヘルメットは被っていないがいつもの革鎧姿だ。
案内は、城の本館に入った時最初に出会った侍女に頼んだ。
何かの仕事の途中だったはずだが、断れないよな。
各所を歩いて回り、仕事しているところを眺めて心の中だけで励ましていった。
途中でアニムニに出会い、例のリストを渡された。
リストの連中と面接するので、適当な部屋を設けて午後1時からリストの順にその部屋に寄こすようにアニムニに言っておいた。
「準備した部屋についてどちらに報告に上がればよろしいですか?」
「小さめの会議室でいいから、この近くにそういった物があればその部屋でいいんだが」
「それでは、こちらです」
少し歩いたところに扉がありアニムニが「この部屋でお願いします」と、言ったのでうなずいておいた。場所をちゃんと覚えておこう。
アニムニが自分の仕事に戻っていったので、俺たちは城内見学を続けた。
「ここから先が、王族の方々の居住区になります」
「今は無人?」
「はい。掃除だけは致しています」
「陛下、ここを使われますか?」
いちおう部外者がいるので、名まえ呼びは止めて陛下呼びだ。
「都を移す予定はありませんから使うことはないと思います」
ヨーネフリッツだけを見ればブルゲンオイストよりハルネシアの方が国土の真ん中に近いので交通の便はいいのだが、ライネッケ領から遠くなるというデメリットが大きいから当然の判断だろう。
ヨーネフリッツの政治と軍事の中心はブルゲンオイストでハルネシアは経済の中心という扱いでいいだろう。
そして俺たちのツェントルムは世界の中心となる。
いずれ時代が進めば鉄道も視野に入ってくる。そうすれば世界は一気に狭くなる。
電話も俺の生きているうちに実用化できるだろう。俺が死ぬまでに、どういった物が確実に実現可能なのかリストを作っておけばいいかもしれない。俺が死んだあと、科学的予言書として有名になるだろーなー。
一通り城内の見学を終えて、侍女に礼を言い俺たちはウーマに戻った。
「ドリスは午後からの面接に顔を出す?」
「いえ。わたしがいると相手も話しづらいでしょうから遠慮します」
「それはあるか。なら俺も遠慮しよう。
ケイちゃん一人で大丈夫?」
「大丈夫です。問題ありません」
昼前にエリカがウーマに戻ってきたので揃って昼食を摂った。
昼食を終え、後片付けも済ませた午後1時少し前に、ケイちゃんがウーマを降りて面接場所に向かった。そして2時間ほどして帰ってきた。
「それで、どうだった?」
「結論として、まずヨルマン2世は当時カルネリアの大使と頻繁に会っていたようです。神聖教会の大主教とも何度か会っていたことも事実のようです。
その大使ですが、ヨルマン1世の葬儀の前に帰国し、1カ月後別の大使がブルゲンオイストにやってきたそうです。
また、ヨルマン1世の死体は紫に変色していたようで、自然死とは考えられないとのことでした。死体をヨルマン1世の係累にさえも会わせなかったのはヨルマン2世の指示のようでした。確定的証拠は何もありませんが、カルネリアにより使嗾されたヨルマン2世が父王を毒殺したという仮説は真実味が増した。と、言えるでしょう」
「ケイちゃんご苦労さん。
決定的な証拠はないにせよ、ヨルマン2世とカルネリアないし神聖教会が容疑者として強い」
「エド、それでどうする?」と、エリカ。
「ヨルマン2世がカルネリアに逃れていることが分かれば正式にヨルマン2世を拘束して引き渡すように要求すればいいだろう」
「情報はそのうち集まるでしょうが、時間がかかりそうですね」
「そういう意味では、この件はアニムニに任せてもいいかもな」
それから1時間ほどして午後4時ごろペラが帰ってきた。
「資産管理台帳に記載されているものの存在が確認できなかったものが30点程度ありました。確認できなかったものの中に王笏と王冠が入っています」
「王冠と王笏はダメだったか。他には?」
「多くの金額がカルネリアの公館に流れていたようでした」
「その金の流れを指示したのは?」
「出金伝票にはクロジクと記載されていました。そのクロジクですが、執務室に顔を見せていません」
「悪事がバレたから逃げ出したんじゃない?」
「おそらくそうなのでしょう」
「しかし、ヨルマン2世が夜逃げした時なんで逃げなかったんだろう?
自分の悪事はバレないと思って、カルネリアへの送金を続けるつもりだったって事かな?」
「マスター。いずれにせよ財務部門内にクロジクの協力者が複数いると考えられますから、財務部門各人について調べる必要があると思います」
「そうだな。ケイちゃん、これも頼めるかな?」
「はい。任せてください」
「それはそうと、クロジクは捕まえないといけないだろう。昨日の夜逃げ出したとしてまだ遠くに行っていないだろうから、各領主に対してクロジクを見つけたら身柄を拘束してブルゲンオイストに連行してくれるよう依頼を出した方がいいな。似顔絵でもあればいいんだが」
「マスター、クロジクの似顔絵ならわたしが描けます」
確かに文字通りロボットアームで絵を描けば、しっかりした似顔絵ができそうだ。
今現在、紙の用意がない。
「ペラ、悪いが財務部門に行って紙と筆を調達して30枚ほど似顔絵を作ってくれ」
「了解しました」
「俺はアニムニのところに行って、財務部門と面接するからその用意をするよう指示してくる。似顔絵ができたら、各領主にクロジクを捕まえてブルゲンオイストに送るよう依頼書を付けて送らせる」
「昨夜逃げたとしてもまだ50キロくらいしか進んでいないはずだから、100キロくらい先に騎兵を出して街道で検問した方が早くない?」
「その方がいいか。
似顔絵を持たせて検問させよう。となると、似顔絵は30枚は要らないか?」
「ハルネシアから出ている街道は多くても5、6本でしょうから、大目に10枚も作ればいいんじゃない」
「そうだな」
「マスター。わたしはこれから似顔絵を用意します」
「頼んだ」
「じゃあ、わたしは騎兵を用意するよう国軍本部に行ってるわ。ペラは似顔絵が用意できたら国軍本部に持ってきてくれる? 場所は分かる?」
「だれかにたずねますから大丈夫です」
「それじゃあ、お願いね」
エリカとペラと一緒にウーマから出た俺は、途中までペラと一緒に城の中に入りアニムニを探して、行政府が入っている区画でアニムニを見つけた。
「明日財務部門の面接をしたいから、今日と同じよう段取りしてくれ。場所は今日と同じ部屋で午前9時から面接を始めるから、一人ずつ寄こすように」
「了解しました」
危険を察知して心当たりのある者が数名逃げ出したとして、それを取り逃がしたとしても、大勢に影響はないだろう。これまで流出した国の金は戻ってこないのは同じだし。
カルネリアと神聖教会は表裏一体の可能性がある以上、国内の神聖教会に対する監視は必要だろう。宗教がらみとなると厄介だが、放っておいておけば知らぬ間に国が骨抜きにされるかもしれないし。後世、宗教弾圧者として断罪されるかもしれないが、きっちりしていくことは大事だ。