第270話 ハルネシア2
玉座の間で、各部門の責任者たちに対してそれなりに指示を出していった。指示を受けた責任者は退出させているので最後にアニムニが残った。
「ところで、西ヨーネフリッツにも宰相がいたと思うけど、ここに宰相が現れなかったということは宰相も失踪中なのかな?」と、アニムニに聞いてみた。
「はい。ヨルマン2世陛下の失踪と時を同じくして失踪した模様です」
「なるほど。
そういえば、この城の中には、ヨルマン1世陛下の亡くなられた前後にブルゲンオイストの城で勤めていた者がいると思うが、リストを作れるかな?」
「はい。作れると思います」
「じゃあ、頼んだ。ところできみは、あのころ、ブルゲンオイストの城にいたのかな?」
「はい。おりました」
「ヨルマン1世が亡くなられたことについてうわさとか聞いていないかな?」
「はい。聞いております」
「どういったうわさか、教えてくれるかな?」
「は、はい。
ヨルマン1世陛下の死因は毒殺ではないかといううわさがありました。
これは、言いにくいことですが犯人はヨルマン2世陛下の手の者ではないか? と、いううわさもありました」
「他国の干渉的なもののうわさはなかったか?」
「そうですねー。ヨルマン2世陛下は王太子に上がる前からカルネリアの大使と特に親交が当たようです。その関係で、神聖教会の総大主教の息女と婚約されたのでしょう」
「婚約の話は聞いていたが、成婚したのか?」
「いえ。まだでした」
「なるほど。
大体わかった。
一応きみはハルネシア内の警察権を持っているんだよな?」
「はい。国軍から成る警備隊に対して命令権を持っています」
「了解。
きみには現在の地位にとどまってもらうが、まず、ヨルマン2世の失踪前後に失踪した武官、文官の屋敷がハルネシアにあるようなら、家探ししてヨルマン1世陛下の死に関連がありそうな品を探し出し押収してくれ。直接関係なくとも、他国の干渉などを示す品があればそれも押収するように」
「屋敷そのものはどうしましょう?」
「ヨルマン2世の失踪と前後して失踪した者は反逆者の疑いがある。疑いが晴れなければ彼らのの所有物は全て国のものとする。借家、借地でなければ接収だ」
「了解しました。家族が住んでいた場合はいかがしましょう?」
「国家反逆容疑者の身内に対して考慮する必要はない」
「はい」
「以上よろしく頼む。
あと、財務部門のところに行って、ペラを探して俺たちはウーマに戻ったと伝えてくれ」
「ウーマというのは?」
「あのカメのことだ」
「了解しました」
アニムニが退出したところで、ドリスたちと玉座の間を離れて城門のウーマのもとに帰った。
ウーマの中の俺の執務室にある会議テーブルにみんなを座らせ、俺の感想を話しておいた。
「ヨルマン2世がいなくなったおかげで、逆に問題が無くなったようだな。
ところで、ケイちゃん。ケイちゃんから見て怪しい人物はいなかった?」
「そうですねー。財務担当の男は何か隠しているようでした。ペラが帳簿を確かめると色々出てきそうです」
「そうだなー。となると、反逆罪で処刑第1号になるか?」
「そこまで悪いことをしているかは分かりません」
「ドリスはなにかあるかい?」
「やはりここの玉座も硬かったです」
「そうだったんだ。へー」と、ドーラが感心したようだ。
こういった物はどこも見た目だけで座り心地は考慮されていないのだろう。
「それは良いんですが、やはり兄が犯人だったようですね」
「まだ確定ではないけどな。関係者リストはすぐにできるだろうから、ケイちゃんに面接してもらえば何かわかるだろ」
「そうですね。ケイさん、よろしくお願いします」
「任せてくださいとは言えませんが、できるだけのことはやってみます」
「はい」
そうこうしていたら、エリカが帰ってきた。
「駐屯地が近くにあったから、部隊はそこに移動したわ」
「ご苦労さん。
それで国軍本部の方はどうだった?」
「特に問題はないみたい。
それで、国軍の総数なんだけど、陸はヨルマン領の分が抜けて9万7000ほど。海は3万4000だって」
「なかなかのものだな」
「そうなんだけど、マトモに戦力として勘定できる兵隊がいくらいるのかは分からないわよ」
「鍛え上げないとマズいだろうな」
「みんなライネッケ領軍にしてしまえばレメンゲンの力で一気に戦力化できるんでしょうがそれはさすがに無理だものね」
「そうだな。ライネッケ領で養えない以上、本当の意味で領軍ではないから、レメンゲンの力も効かないだろう」
俺とレメンゲンとの契約について知っているのはエリカとケイちゃんだけだけど、ここにいる全員はレメンゲンの力について説明している。
ペラは午後6時近くになってウーマに帰ってきたので再度会議テーブルに着いてペラの報告をみんなで聞いた。
「まだ作業は終わっていませんが、伝票と帳簿にかなりの開きがありました。具体的には伝票額と帳簿額を比べると、帳簿記載金額は2割増に成っているようでした」
「つまり、使ったはずの金額に対して、実際使った金額が2割近く少なかったということか?」
「はい」
2割増しって、タクシーの夜間割り増しかよ。
「その伝票には、軍で使った金も含まれるのか?」
「はい。国庫からの支出は全て財務伝票で処理されているようです」
伝票というから国費の一部かと思っていたが、国費全体だったのか。その2割近くが消えているって、個人でどうこうできるような金額じゃないだろ!?
それに加えて王族の浪費。俺たちが乗り出さなかったらこの国は早晩破産してたんじゃないか?
「ペラ、それはそうと、王笏とか王冠とかそういう物はなかったか?」
「まだ資産について確認していません。城内に宝物庫があるようなので、明日にでも確かめます」
「頼んだ。
そういった物がないとなると作らないといけないけど、時間がかかるだろうしな」
「ないとなると、意匠から考えて発注でしょうから、1年近くかかるかもね」
「あることを祈ろう。逃げた連中じゃ何の役にも立たないだろうし、売ろうと思っても買い手もいないだろう。せいぜい地金に戻して売り飛ばすくらいだろう」
「それだけは止めてもらいたいわよね」
「そういえば、昔、ここからヨルマンに逃げてきた王さまだけど、王笏とか王冠を持って逃げたんだろうか?」
「父の戴冠式では、新しく作ったと思います。ですから兄もそういった物を持ちだしていないかもしれません」
「そうならいいんだけどなー。
ペラ、他に何か気付いたことがあるか?」
「ありません。以上です」
「ご苦労さん。それじゃあ夕食にしよう」
会議室から食堂に移動して、作り置きの料理を並べていき、各自の前にカトラリーが置かれ準備完了。
「「いただきます」」
まだ作業はそれなりに残っているが、これでヨーネフリッツの統一はできたと考えていいだろう。