第259話 ウーマ改装3
殿下たちをウーマの風呂に招待したその日の夕食。
今日の夕食は、殿下たちの話題だった。
「殿下は346年生まれだって、エドやわたしの一つ下だった」
「そうだったんだ。落ち着いて見えるから、俺と同じか少し上かと思ってた」
「わたしも、そう思っていました」
「わたしも!」
「ほかの3人は?」
「4人とも同い年だって」
ご学友って感じで小さい時から一緒だったんだろうな。殿下には高慢なところは微塵もないし、3人にも好かれていたから、国を出る時3人とも殿下に付いていったんだろう。
殿下の眉に白いものは混ざっているわけではないが前王の子どもの中で最も優れているとうわさされていただけのものがあったというわけだ。
殿下も今となっては俺の配下のようなもの。とするとレメンゲン効果で能力がアップするハズ。俺が世界征服を成し遂げた後は、ヨーネフリッツ国王兼帝国宰相としてもいいかもしれない。
となると、エリカは軍務大臣。ケイちゃんは外務大臣、ドーラは財務大臣、ペラは親衛隊隊長だな。
まっ、国が大きく成っていく過程で有為な人材は必ず現れるわけだからだれがどうってことはどうでもいいんだけどな。
国の名まえは、ライネッケ帝国? 古来から個人名を国の名まえにしたところはあまり聞かないよな。フィリピンとかコロンビアくらいだし。無難なところで地名か。となるとツェントルム帝国? ツェントルムは都の名まえだし、大森林帝国では情けない。俺はロジナ村出身だからロジナ帝国? ロジナ村から軍を起こして世界征服したのならあり得るが、ロジナ村ほとんど関係ないし。
仕方ないからヨーネフリッツ帝国とでもしておくか。一応俺の出身国だし。
などと考えていたら。
「エド、今度は顔をしかめてなに始めたの?」と、エリカに言われてしまった。
顔をしかめていると顔にしわができる。かもしれないので慌てて顔の緊張を緩めた。
「エド、今度はニヨニヨしてどうしたの?」
「いや。ちょっとだけ将来のことを考えていたんだ」
「将来って?」
「俺たちが世界を握った時の国の名まえを考えてたんだ」
「えー、そんなのライネッケじゃないの? ライネッケ領から少しずつ周囲を削り取って段々大きく成っていくんだから、ライネッケ以外にないじゃない?」
「国の名まえってそういうものなの?」
「そうでしょ? ヨーネフリッツだって、元はもうなくなっちゃったけどユルクセン王国の貴族だったヨーネフリッツの領地が大きく成って国になったんじゃない」
「そうなんだ。初めて知った」
「そういう意味だと、フリシアもドネスコも、もとはといえばみんなユルクセン王国の貴族領だったのよ」
「へー」
ユルクセン王国というのはよほど大きな国だったんだ。こういった歴史に詳しいってことは商家のお嬢さまのエリカは家庭教師に教わったんだろうな。
「そのユルクセン王国って都はどこにあったの?」
「そういえば、都はどこだったかなー。ちょっと思い出せない」
「ユルクセン王国の都は確か、エルドネアだったと思います」
ハイエルフのケイちゃんの場合は、実際に知っている歴史の生き証人の可能性がある。
「そうそう。思い出した。『エルドネア、この世のすべて』って言われるほど美しい都だったんですって」
「だったってことは、今はもうないって事?」
「うん。神さまの怒りに触れてたったの1日で砂に飲まれたって聞いたわ(注1)。その名残が中央大砂漠なんだって。さすがにそれは後からとってつけた話でしょうけどね。それに今は砂漠じゃなくってある程度草木も生えた沙漠だし」
「そういえば、カルネリアってユルクセン王国の正統後継者だと自称していました」
うーん? なんだか臭いぞ。というかユルクセンの栄光再びとか言って神聖教会を各国に浸透させてるってことはないか? 今のヨーネフリッツ王国の国王と婚約したという総大主教の娘だが、総大主教の実の娘である保証は皆無。まあ、実の娘であるなしは切り捨てる時以外あまり意味がないが、完全に取り込んでしまえば切り捨てることもないだろう。
もし俺のこの思い付きが真実なら、思いっきり俺の使命に被ってしまう。カルネリア討つべし。それも徹底的に。
その日から、だいたい2日に1度ドリス殿下たちが風呂に入るためウーマを訪れるようになった。
ドリス殿下たちをウーマに受け入れることに対してエリカ以下だれも抵抗がないようなのだが、俺は抵抗があるんだよな。
実際のところ人が増える分食事を作るのがやや面倒になるくらいの手間しかないのだが、何が問題かというと、殿下たちの寝床が問題なのだ。
ウーマに頼めば、簡単に寝室は拡張できるだろう。
そうした時、今俺はエリカたちと同じ部屋で寝起きしているのだが、そうはいかなくなることは目に見えている。よく考えれば男1人とペラも含めて女4人が同じ部屋で寝起きしている方がよほど不自然ではある。
仕方ない。腹をくくって湯舟でのエキス注入だけで我慢するか。
エリカたちが風呂に入っている間に今の寝室の真ん中からまっすぐ後方に廊下を伸ばしてその両側に部屋を5つ並べた。部屋を決めたら各自の荷物の移動だ。
今の寝室から荷物が無くなったら、仕切りを設けて執務室でも作るか。領主さまが執務室も持っていないようでは締まらないしな。机は以前バリケードに使われていた立派な机と椅子があるからそれを使おう。
それが終われば、今度は殿下たちの荷物を殿下の家からここに持ってくる。
今日の夕食は引っ越し祝いということでいつもの気楽亭をペラに頼んで予約しておこう。
ウーマ内部の回収作業を終えて、今のソファーで寛いでいたら、エリカたちが風呂から上がってやってきた。
「相談せずに勝手にやってしまったんだけど、寝室の先に廊下を作って左右に5部屋ずつ作ったんだ」
「どういうこと?」
「殿下たちも一々風呂に入るためにここにやって来るのも大変だし。どうせだから、ここに住んでもらってもいいかと思ったんだ」
「確かに。それもいいんじゃない」
「そうですね」「うん」
「いいんですか?」
「みんないいって言ってるし。
それじゃあ、部屋を見てみよう。まだ何もないんだけどね」
そういうことでみんなを案内して寝室に入り、新しくできた扉を開けた。
「すごい。こんなに大きくできるんだ!?」
「部屋の大きさはそれほど大きくしなかったんだけど、ベッドやタンス、机くらい置けると思う」
一部屋の広さは横4メートル、奥行き8メートル。32平方メートルあるので16畳より広い。見た感じは20畳近い。
「結構広い!」
「部屋を決めてしまおうか」
それで、このように決まった。
元 俺 エリカ ケイちゃん ドーラ ペラ
寝
室 殿下 サリー クララ ドロテア 空室
部屋が決まったところで、殿下たちのベッドとタンスをウーマに所望したところ、むくむくとベッドとタンスが床からせり上がってきた。どこで覚えたのかは知らないが、こういった演出までできるとは。ウーマも日々進化しているようだ。
ベッドはすでにベッドメイクされていた。
みんな驚いているところで。
「まずは、今ある荷物を運んでしまおう」
元寝室の荷物を全部キューブに入れて、各人の部屋に置いていった。ベッドとタンスだけなので簡単だ。ペラは見ようによっては棺桶のメンテナンスボックスと着替えの入ったタンス。ドーラがやって来た時、俺のタンスをペラに使わせている。そして、ペラの部屋の壁には以前武術大会でヨルマン1世からもらった宝剣が飾られている。
エリカたちの荷物が片付いたところで、今度は殿下たちの荷物だ。
俺だけ殿下たちについて行き、荷物をいったんまとめてもらい、キューブに詰めていった。
戸締りをしてウーマに帰り、殿下の荷物から順に部屋に置いていった。
これで引っ越し完了!
最後に仕上げとして、適当に立派な机と椅子を部屋の奥に置いて俺の執務室を作ってみた。
拾い物の机だがなかなかいい。
「エド、なにこれ?」
「一応俺って領主さまだろ? 机くらいあった方がいいかと思って」
「それならいいんじゃない。
ついでだから、ここで会議できるように机と椅子を用意すればもっといいんじゃない? 食堂のテーブルで会議するより会議らしくなるし」
「それもそうだな。さっそくウーマにおねだりしよう」
むくむくと机と椅子が床からせり上がってきた。
注1:
この世界とは別ですが、とある女神さまの怒りに触れて、都を一瞬で砂漠に変られ、そのあと国全体が砂漠に侵食されてしまった国がありまして。たしかアレは、とある女神さまに仕えるとある機械の終末回路『神の裁き』だったような。