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素人童貞転生  作者: 山口遊子
ダンジョン編
216/336

第216話 ドロイセン襲撃作戦3、海戦2


 午後1時。船影が大きく見え始めた。何本あるのか分からないが、どの船のオールも規則正しく動いている。

 敵ではあるが見事なものだ。訓練が行き届いているのだろう。逆に言えば、ここまで鍛えるのには相当なコストがかかっているはず。失えば一朝一夕で再建はできないはずだ。


 先方からもウーマは視認されているはずだが、敵船団の動きに変化はなく、そのままお互い接近を続けている。こっちの見た目がカメだから危害を加えないとでも思っているのだろうか?

 カメの上に人が立っているから救助しようと思ったか? さすがにそれはないか。

 オールの動きはムカデのように波打ってはいないが、這って火にいる真冬のムカデだな。

「マスター、敵の先頭艦船が射程に入りました」

「順に沈めて行ってくれ」


 港湾への突入作戦では、横合いから四角手裏剣で船腹を破壊するつもりだったが、真正面からの攻撃になってしまった。船首の下腹に孔が空けば、沈没も早まるだろう。


「マスター、攻撃開始します」

 そう言ってペラは四角手裏剣を前方のガレー船に投擲した。

 横隔膜を刺激するような嫌な音が短く聞こえ、その後ガレー船の船首手前に水しぶきが上がった。それがもう2回続いた。不思議と衝撃音はしなかったが、水しぶきが落ちて海面を叩いたときの音だけが後から聞こえてきた。

 合計3発の四角手裏剣を船首に食らった最初の船は行き足を止め、急速に沈んでいった。

 その際オールが何本も海面に浮かんできたが、うねりのある海上には人の姿は見えなかった。


 ペラは次の目標に向けて四角手裏剣を投擲していく。

 俺はペラの邪魔にならないようステージの手裏剣ボックスに四角手裏剣を補充していく。


 2隻目も同じように沈んでいった。

 3隻目、4隻目も同じように沈んでいった。

 それから先も同じような展開が続いた。

 敵からはカメからの鉄塊攻撃で船が沈んでいるとは分からないだろうが、カメが原因であると見定めたようで、敵船から矢がこちらに向けて放たれ始めた。


 海面を見るとうねりに合わせて上下している人の頭が多数見えた。運がいいのか悪いのか。

 陸地が見える位置とはいえ、岸まで10キロは離れている。船員たちは泳ぎは達者なのだろうが、潮の加減によっては流されて岸までたどり着けないだろう。かわいそうだがこれも乱世の定め。ちょっと違うか。


 そのうちウーマは敵船団の中ほどまで進み、狙いは船首から船の横腹に変わっていった。

 船の横腹に向け放たれた鉄塊はオールにあたることもあり、その時はオールが折れ飛んで宙に舞い上がる。オールを掴んでいた漕手はタダでは済まなかったハズだ。

 

 横合いから船腹に大孔を空けられたガレー船のうち何隻かは何がどうなったのか分からないが、まっすぐ沈まずオールをへし折りながらこちら側、孔の空いた方に横転し、それからゆっくり沈んでいった。横転した船から逃れ出た者はごくわずかしかいないようだった。


 ガレー船を全滅させたあと、今度は全般的に舷側が高い船から成る船団が見えてきた。オールが見えないのでおそらく商船なのだろう。

 商船といっても敵方が利用してるわけだからもちろん敵船だ。

「ペラ、商船といえども見逃すな」

「了解です」


 そこからウーマはさらに進み前方の商船が迫ってきた。

 ペラは敵船が射程に入り次第攻撃を始めた。


 商船の方が軍船より脆いようでこちらも順番に沈んでいった。

 ガレー船ではないので乗組員の数は少ないだろうと思っていたのだが、なぜか沈みゆく船の甲板にわらわらと船員が湧いて出て次々に海に飛び込んでいった。

 物資を運んでいるのかと思ったのだが、人を運んでいたのか?


「ペラ、ご苦労さん」

「はい」


 商船も全て沈めたところで、俺はステージ上にペラを残して下に下りて行った。



「すごかったわねー」

「これで敵船も余裕がなくなったでしょうから、ヨルマンが襲われることはないでしょう」

「ペラさん、ホントにスゴイ」

 海は荒れていたがスリット越しでも戦況を観察できたようだ。


「商船の方だけど、相当数の人が乗ってたみたいだったから、物じゃなくって人を運んでた感じだ」

「だとすると、どこかに上陸するつもりで兵隊を囲んでいたんじゃないかな?」

「つまり乗っていたのは陸兵?」

「そうかもしれないわよ」

「敵の上陸を阻止したってわけか」

「おそらくそう。

 さっきの船団、少なくとも軍船はドロイセンから出航したんじゃないかな?」

「とすると、このままドロイセンに向かっても敵がいないというか、さっき全滅させてしまったかもしれないんだ」

「そうなんじゃない」

「それじゃあ引き返した方がいいか?」

「ここまできた以上、ドロイセンまでいって確かめてもいいけど、戦果自体は十分なんじゃない?」

「後でペラに聞いてみないと正確な数は分からないけど、大型のガレー船を8隻、小型のガレー船を12隻は沈めている。商船は20隻はいた」

「それなら、十分よ。ドネスコ海軍の規模はどれくらいなのか分からないけど、ドネスコだって南のハグレアに備えなければいけないんだから、海軍がこれ以上減ることは許されないでしょ」

「じゃあ、引き返すか」

「そうしましょうよ」

「了解。

 ウーマ。ここからは直線で最初に海に出た位置に戻ってくれ」

 ウーマがゆっくり回頭する遠心力を感じ、それが無くなった。


 これで大丈夫だ。ここまで丸二日かかったが、直線で戻れば1日半で戻れるだろう。

 ただ、到着は深夜になってしまう。


「しかし、俺たち海戦でも無敵だな」

「この調子なら、北大洋に行っても楽勝でしょ?」

「楽観し過ぎても良くないけど、やっぱり楽勝だろうな」


「そういえば、ドネスコの都って海に面してるんじゃなかった?」

「俺はよく知らないんだけど」

「確か、河の名は忘れましたが河口に築かれた都だったはずです」

「ということは、海からウーマで直接攻撃できるって事でしょ?」

「そうだな」

「そしたら、ウーマで港を破壊した後、おかに乗り上げてリンガレングで蹂躙してしまえば、ドネスコは瓦解するんじゃない?」

 エリカの言う通りではあるが、へたに政府を瓦解させてしまうと、国が荒れて取り返しがつかなくなる。それが今のヨーネフリッツの姿なんだろうし。


 しかし、ヨルマンに手を出せば嫌い目では済まないぞ。ということを教えておくことは有意義だ。

 今回、かなりの敵兵は溺死したはずだが、生き残った者もいるだろう。そういった連中は何か得体の知れないものに襲われたと吹聴するだけで、ヨルマンにより船団が壊滅したとは考えないはずだ。


 今のところいい宣伝手段はないが、今回の襲撃についてそのうち尾ひれがついて独り歩きすることは目に見えている。そして、次に北大洋で同じことが起きれば、バカでない限り関連性を疑う。

 そしてヨルマンの商船だけが自由に行き来するようになれば、自ずと正解にたどり着くのでは? そうなればしめたものだが、ちょっと弱いか。



 ……。


 ペラの報告から後でまとめた戦果:

 大型ガレー船、8隻。

 小型ガレー船、15隻。

 商船、24隻。


 ドネスコ海軍の規模を知らないから、これが敵の何割くらいに相当するかは分からないが大戦果なのはまちがいないだろう。



 海戦当日夜から天気は回復した。そして海戦から1日半何事もなく過ぎていき午後11時。

 前方に今回海に乗り出した海岸のシルエットが見えてきた。


 ウーマが海岸に乗り上げしばらく進んだところで俺たちはウーマから降りた。この時間、海辺に人はいなかった。

 ウーマを朝までその辺に出して中で寝ることもできたのだが、人がウーマを見て騒ぎが起こってもマズいので、俺たちは夜間行軍しまっすぐ領都へ向かった。


 領都に帰還したのは午前5時少し前だった。

 倉庫まで戻り、倉庫の中にウーマを出してウーマで朝食を摂ったあと、隊の訓練は父さんに任せるからみんなは寝ていてくれ。と言って7時に俺とペラだけでウーマから降り、今回の報告のため領軍本部に向かった。


 領軍本部に入っていき、窓口で本部長への報告がある旨申し出て取次ぎを頼んだ。


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