第214話 ドロイセン襲撃作戦
ここからしばらく戦闘が続きます。
エリカはヨルマン辺境伯の4女のドリス嬢のことでうがった見方をしていたが、確かにそういった見方もあるだろう。俺自身は青き夜明けの神ミスル・シャフーの使徒なので、使徒としての使命の達成のためにはそういったことは邪魔になる可能性があるとまで考えている。
将来誰かと結ばれることがあるなら、そういったことから離れた関係で結ばれたい。だって、政略結婚するってことは見返りを求めた一種の玄人ってことだし。
結局パーティーは午後1時ごろお開きになったのだが、俺たちはヘプナー伯爵に駐屯地に内にある領軍本部に連れていかれてしまった。
敵の陸兵たちを多数たおした今、領軍の喫緊の問題は敵海軍の排除ということなのだろう。
駐屯地に向かう途中。
「船のあてはあるから用意しなくてもいい」と、俺がヘプナー伯爵に答えたことについて父さんが俺に聞いてきた。
「おい、エド、船のあてがあると言ってたけど本当にあてがあるのか?」
「ウーマは水の上も大丈夫なんだよ」
「ホントか?」
「ホントにほんと。陸の上を歩くよりは遅いんだけど、それでも十分速いよ」
「そこまですごいとは知らなかった」
「言ってなかったから仕方ないよ」
父さんは途中で隊舎の方に歩いて行き、俺たち5人だけヘプナー伯爵と伯爵の副官に連れられて領軍本部に入っていった。
領軍本部の本部長室で少し待っていたら、敵の艦隊の拠点があると思しき港までの簡単な海図を副官が本部長室のテーブルの上に広げて見せてくれた。
それによると敵の拠点の名はドロイセン。元はヨーネフリッツの東方艦隊の拠点だったそうだ。
ドロイセンはハルハ河河口の港町で、ディアナから直線距離で500キロ。といっても、見せられた地図が自動地図と違い正確なものではないので陸地を見ながら航行しないと、目的地に到達する保証はない。
岸に沿って進むとなるとディアナから750キロから800キロの距離になる。
ウーマの水上移動速度は時速10キロほどなので、潮の流れや風の影響がゼロなら丸三日だ。襲撃時刻が夜間なら敵船も港にいるだろうから夜間に襲撃できるよう時間調整して接近すればいい。
陸から回れば距離は650キロくらいなのでこちらの方が手っ取り早いのだが、海を行くのも楽しそうだし、海から襲撃する方がインパクトがあるような気がなんとなくしたので、そうすることにした。
「明日にでも取り掛かります。
そういえば、敵の見分け方はあるんですか?」
「わが方の軍船は旧ヨーネフリッツ方面に出ていないためガレー船は全て敵の軍船と思ってくれていい」
「ヨーネフリッツ王国の軍船と区別しなくて大丈夫ですか?」
「ヨーネフリッツ王国の船であったとしても、既に敵国の物になっているから遠慮なく沈めてくれていい」
「了解しました。明日から取り掛かります。まずはドロイセンに襲撃を試みます。遅くとも8日後には帰還します。もしドロイセンに敵がいない場合はドネスコまで進んでみます。その分帰りは遅くなりますが、必ず帰ってくるので心配ご無用です」
「了解した。よろしく頼む」
本部長室を出た俺たちは倉庫に帰っていった。もちろん礼服を着ているので注目を集めている。無視するしかない。
その道すがら。
「せっかく海の上なんだから、魚釣りしない?」
エリカがエリカらしいことを言い始めた。
「海の中ほどだと、ほとんど釣れないと思うぞ。たいていの魚は本職の漁師さんが獲ってくるけど、あれって釣ってるんじゃなくて網で獲ってるんじゃないか? しかも魚のいそうなところから。
魚の居場所が分からない俺たちじゃ無理じゃないか」
「エドは夢がないなー。海はどこまでもつながっているわけだから、釣り糸を垂らした先は魚の居場所に続いていることは確かなんじゃない?」
「それで納得して釣糸を垂らすのは勝手だけど、本当に魚が食べたいなら、港の街の魚屋に行った方が早いと思うぞ? いろんな種類の魚だって置いているはずだし」
「それはそれ。これはこれ」
「でも、竿もなければ糸も釣り針もない。そういった物を揃えるんだって港の街に行かないと、ここブルゲンオイストじゃ手に入らないんじゃないか?」
「そう言われれば。
ということは明日、頑張ってディアナまで行けばいいんじゃない? どこからウーマに乗ってもそんなに変わらないでしょうし」
「街道から海岸沿いの道に出て、ウーマが海に乗り出せるような適当な海岸があればそこから海に出ようと思っていたけれど、ディアナまで行くとなると、80キロ。1日半かかるけどそれでも行く?」
「ウーマで行っちゃだめかな?」
「通行人がウーマを見て驚かないにしても、馬車とか通行人が邪魔で思うように進めないんじゃないか? 作戦のためならある程度許されると思うけど、魚釣りのためとなると心が少し痛むぞ」
「それもそうね」
「そのうち釣道具を用意して任務以外の時に海に行けばいいじゃないか」
「エド、それ忘れないでよ」
「エリカが思い出させてくれればいつだって思い出すから」
「絶対よね?」
「分かった分かった」
……。
ウーマに帰って礼服から普段着に着替えたら、なぜか身も心も軽くなったようで元気が出てきた。
生前、結婚式なんかで礼服を着ることがあったがあくまでお客さま。適当に飲み食いしていればそれでよかったのだが、今回は主役だったから少し気疲れしていたのかもしれない。
俺はみんなにお茶を用意して、ソファーで寛ぎながら明日からのドロイセン襲撃作戦を整理することにした。
まず、明朝ブルゲンオイストを出発し、街道をディアナ方面に東進する。その途中で海岸方向に向かう脇道に入って海岸を目指す。崖でもない限りたいていの海岸からウーマは海に出られると思う。
ウーマが海に入っていける海岸に出でたら、そこからウーマに乗り込み、海に乗り出してドロイセンを目指す。領軍本部で見せられた地図はあまり正確なものではなかったので、沿岸からつかず離れず、海岸を見ながらドロイセンを目指していけば間違うことなく到達できるだろう。
ドロイセンまでの距離は750キロから800キロ程度。
ウーマの水上速度は時速10キロなので、風向きや海流の影響がなければ75時間から80時間前後にドロイセンに到達できる。ブルゲンオイストから海に出るまで5時間として全部で80時間ちょっと。片道3日半の行程だ。
ドロイセンへの襲撃は敵船が港に帰っている可能性の高い夜間に実施したいので、到着時間によっては時間調整する必要がある。その時はなるべく敵に発見されないよう沿岸部から離れて沖に出ていた方が無難だろう。まあ、俺たちがもし敵に見つかったとしてもカメの怪物と思うのが関の山で、港から退避しようと思う訳ないから、そこまでする必要はないかもしれない。状況次第だな。
俺と一緒にソファーでお茶を飲んでいたみんなに今考えた作戦を説明しておいた。リーダーとして。
「さすがはエド。もうちゃんと作戦を考えていたんだ」
「さすがです」
「エドって昔はもっといい加減だったような気がするんだけど、エドは本物のエドなんだよね?」
「ドーラ、兄に向かって失礼なことを言うな」
「だってそう思ったんだもの」
「思うのは勝手だが、そう思っても大人は口に出さないものだ」
「わたしはまだ子どもだもん」
『まだ子どもだもん』と、言われてしまったら何も言えないぞ。わが妹、卑怯なり!
「行き来で7日もかかるとなると、食料なんかは大丈夫かな? 買い出しに行くなら今日中にしないと」
「肉野菜は十分あるから大丈夫。他のものはウーマが勝手に補充してくれているし」
「あれって不思議よね。肉と野菜を我慢すれば働かなくっていいってことじゃない」
「そう言われればそうだけど、肉野菜がないわけにもいかないしな」
「そうなんだけどね」
「なんであれ、新しく準備するものは何もないのは確かだ」
「それじゃあ、明日の朝までゆっくりしてればいいわけね」
「そういうこと」
2025年4月6日
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何と1年半ぶりに投稿(公開)しました。よろしくお願いします。