第188話 傭兵団2、立ち合い
思い付きだけで口にした傭兵団を作って傭兵ギルドに登録しようという話がホントになった。
傭兵ギルドの場所はケイちゃんが道行く人に聞いてくれてすぐにわかった。
ケイちゃんの先導で傭兵ギルドに向かって歩きながら、俺たちの傭兵団の名まえをみんなで考えた。
「ブルゲンオイストの星だとちょっと月並みよね」
月並みってことはないだろ。十二分にインパクトがあると思うぞ。
「そうですねー。ちょっと思い付きません」
「ドーラは?」
「全然わかんない」
「ペラは何かないか?」
「5人ですから、5人団では?」
さすがにそれはないだろ。
「あっ! それなかなかいいんじゃない。月並みじゃないのがいい。
でも傭兵団5人団だと『団』が被ってちょっとおかしいか。
となると、傭兵団5人。なかなかいいんじゃない?」と、エリカがいやに乗り気だ。
前世で劇団ひ〇りとかいたけど、それとほとんど変わらないお笑い枠のような。これは拒否権を発動するしかないな。とは言えわがチームは民主主義なので俺は拒否権などと言った高尚な権利を持っていない。このままだとこの罰ゲームのような名まえになってしまう。何かエリカを唸らせるようなカッコいい名まえを思いつかなければ。
焦ったところで何かいい案が出てくるはずもなく、そうこうしていたらラシイ建物の前に到着してしまった。
「ここだと思います」
看板も何も出ていなかったがケイちゃんがそう言うならそうなんだろう。
サクラダのダンジョンギルドほど立派な建物を想像していたわけではないが、目の前の建物は2階建ての建物だった。決して安普請ではないが、さりとてさほど金がかかった建物でもない。
俺が先頭になって扉を開けて建物中に入っていった。
扉の先はどこもそうなんだろうけど、ホールになっていて正面にカウンターがあった。それほど広くはないホールは閑散としていて2、3人の男女が入り口わきの壁に張り出された紙を見ていた。
窓口カウンターには誰もおらず、事務所風のカウンターの向こう側で数人席に着いて仕事をしていた。サクラダダンジョンギルドや、サクラダ商業ギルドと比べると実に活気がない。大丈夫なのだろうか?
ちょっと帰りたくなったが、勇気を出してカウンターまで行き、その先に向かって声をかけた。
「済みませーん。ここって傭兵団ギルドですよね。傭兵団の登録お願いしたいんですがー」
書類仕事をしていたおじさんがのっそり立ち上がってカウンターまでやってきた。このおじさん、ガタイが良すぎて書類仕事には似つかわしくない。
「坊主。ここは傭兵ギルドだ。子どもの来るところじゃない」
「俺たち歳は確かに若いんですけど、これでもサクラダダンジョンギルドでトップのチームなんですが」
「冗談は止してくれ。仕事の邪魔だから帰ってくれ」
いやー、こういった対応されるとは想定外、想像の埒外だった。
「済みません。冗談で俺たちここに来たわけじゃないです」
「はー? ここは命がけの傭兵の仕事をあっせんしてる場所なんだ。子どもの出る幕はないんだよ」
「じゃあ、俺たちがそれなりの実力があることを見せればいいわけですね。
わたしがあなたと勝負してもいいし、誰と勝負してもいいですよ」
「面白いことを言う。今はこんな仕事をしてるが、これでも俺は5年前まで傭兵で食ってきた人間だ。それじゃあ俺が直々相手になってやる。この建物の裏は広場になっているから、そこで立ち合ってやろう。ここにはお子さま用の木剣などないから、やるなら真剣だ。それでもいいんだな」
「いいですよ。その代りわたしはこの剣を使ってもいいですよね」
「もちろんだ。見た目だけは立派な剣に見えるがせいぜい剣に振り回されるなよ。なーに、手の一本くらい無くなっても死にはしないから安心しろ」
成り行きで傭兵ギルドのおっさんと立ち合うことになってしまった。
ロッカーのようなところから大型の剣を取り出したおっさんのあとについて事務室を横切り建物の裏手に出た。俺たちのあとをギルドの職員らしき数人とホールにいた数人が付いてきた。そりゃー面白い見世物だもの。
ドーラだけは心配そうな顔をしていたがエリカもケイちゃんも落ち着いたものだ。ペラの場合はほとんど表情が変わらないので何を考えているのかは全く分からない。マスターである俺に何かが起こるようならペラが即座に介入するような気もする。
「それじゃあ始めるか」
「はい」
おっさんが、鞘からゆっくりと剣を引き抜き、手にしていた鞘を投げ捨て両手で剣を構えた。
鞘を捨てたな。小次郎破れたり!
まっ、知らんだろうけどな。
俺も左の腰に下げたレメンゲンを引き抜いて中段に構えた。レメンゲンの真っ黒な剣身を見て、正面に立つおっさんも、サクラダの星以外の観客も息を飲んだ。
はっきり言って迫力を通り越して禍々しいんだよ。このレメンゲンは。
「……」
おっさんがレメンゲンの禍々しさに驚いているところに向かってレメンゲンを振り被って突っ込んでいき振り下ろした。狙いはおっさんの体ではなくおっさんの持つ剣だ。と、言っても見え見えの振りだとかわすことも合わせることも必要ないのでレメンゲンの切っ先の軌道はおっさんの肩口に向かっている。
本気で振ってしまえば確殺なので、レメンゲンの振りにおっさんが剣を合してくれるよう手加減した振りだ。
おっさんの剣が何とかレメンゲンを受け止める軌道に入ったのでそのままレメンゲンを振り切った。
レメンゲンは狙い通りおっさんの剣を半ばで叩き切り、その先のおっさんの肩口に向かった。
殺す気はもちろんないので、俺はおっさんの肩口の寸前でレメンゲンを寸止めし、そこから切っ先をおっさんの眉間に向けた。
「参った! 手加減された上に惨敗するとは。
バカにして済まなかった。殺さずに生かしてもらいありがとう」
「ほかの連中もそれなりなので、傭兵登録いいですよね」
「ああ、もちろんだ」
一瞬で決まってしまった今の試合に観客は固まっていたが、再起動して何やらざわつき始め、
「何だったんだ!」
「小僧、おやじさんに勝っちまったよ」
「あの黒い剣は一体何だったんだ?」
とか言いながら建物の中に戻って行ったので俺たちも建物の中に戻っていった。おっさんは俺の切り飛ばした剣身と自分で投げ捨てた鞘を拾って建物に戻ってきた。
ホール側に戻ったところで、カウンターを挟んで向かいに立つおっさんが手続きを始めてくれた。手続きと言っても傭兵団の名まえと団長、副団長の名まえと団員数を書くだけだった。
それで俺が団長、エリカが副団長、傭兵団の名まえは予想通り『5人』となってしまった。
「何だこの団名はー!」と、おっさんに言われてしまった。ちなみにおっさんの名まえはオットー・スタインで、この傭兵ギルドのギルド長だった。
ギルド長が事務仕事してるとは、よほど儲かっていないのか? 単純に人手不足なのか?
俺たち『サクラダの星』かつ『5人』、いや、さすがにただの『5人』では謎なので『傭兵団5人』と名乗ろう。とにかく俺たちは無事傭兵団としてギルドに登録できた。
そのあとおっさんは俺に証明書をくれた。クライアントとの契約時に相手方に見せ、俺たちが正式に本物の傭兵ギルドの傭兵団であることを証明するものだそうだが、通常クライアントは証明書を見せろとか言わないそうだ。
そこで今まですっかり忘れていた傭兵ギルドに登録した目的の、窓口で最新のヨーネフリッツの情報を聞くことを思い出した。
しかし、目の前にいるのは受付嬢ではなく、いかついおっさんで、しかもギルド長。何となく聞きづらいのは確か。




