第187話 傭兵団
少し早かったが、夕食のため宿の1階に下りていき食堂に入って空いていた6人席に座った。
注文を取りに食堂の人がやってきてたので宿賃に含まれている定食の他に人数分の飲み物と適当なつまみを頼んだ。
料理と飲み物が運ばれてきたところで。
「「かんぱーい!」」
気持ち的には周りの客の会話を聞いてエリカたちが出くわした『偉い人が乗っていた馬車』の話を聞きたかったのだが、まだ客が俺たちしかいなかったため目論見は見事に外れてしまった。
おいしく料理を食べ、気持ちよく酒を飲んでいれば十分なんだけどな。
それでもしばらく飲み食いしていたら少しずつ客が入ってきてそれなりに会話も聞こえ始めた。やはり馬車列は関心を集めていたようで、その話も聞こえ始めた。
『あの馬車列の前の方の馬車の紋章って、ヨーネフリッツの紋章じゃなかったか?』
『俺はそっち方面からっきしだから、全然分からない』
『俺もあの紋章どこかで見たことがあると思ったんだが、王家の紋章だったと言われればそんな気もしないでもない』
『王家の紋章だとして、馬車に乗っていたのは国王ではないかもしれないが少なくとも王族って事だろ?』
『だろうな』
『しかし何でまた王族がヨルマン領に?』
『王族の誰かが、領主さまの第1公子に輿入れするとかじゃないか』
『そうか。それはあり得るな』
『領主さまの子どもの中で一番は第4公女って話でおそらくその第4公女が跡を嗣ぐと聞いたことがあるぞ。となると、第1公子のもとに王族を嫁がすかな?』
『ということは第4公女が王族から婿を取る?』
『第4公女はまだ婿を摂る歳じゃないだろ』
『何であれ、祝い事なら、それなりの発表が大々的にあるだろ? 普通』
『確かに』
『だろ。ということは、そういった祝い事じゃないってことだ』
『そうでないとしたら、なんだ?』
『見当つかんな』
『まっ、俺たちに関係ないことだけは確かだろ』
『違いない』
彼らの話を聞いていたものの、エリカたちが出くわしたという馬車列は王族の可能性があるということしか分からなかった。
「結局よく分からないな」
「お城の人に聞くしかないわよね」
「王族らしいということが分かっただけでもいいんじゃないですか」
「まあね」
「だけど、王族だとしてなんでこの時期にヨルマン領にやってきたのかな?」
「エリカの言う、この時期というのはもうすぐ冬という意味なのか?」
「というか、ズーリ戦で苦戦してる中、って意味が強いかな」
「じゃあ、少し状況を整理すると、フリシアとドネスコが自国のことで忙しいことをいいことにヨーネフリッツがズーリに攻め込んだものの、意外とズーリがしぶとくていまだに勝てていない」
「そうね。そういえばこの前ベルハイムに行った時に聞いた話だと、ドネスコとの戦いに勝ったとか言ってたじゃない?」
「楽勝だったって言ってたな」
「ドネスコがどれくらい負けたのか分からないけれど、少なくともドネスコの南の方の問題は落ち着いたって事よね」
「ですね。それにフリシアが王位後継で国内がもめていたと言ってももう何か月も経っているわけですから落ち着いていてもおかしくないかもしれません」
「つまりは、ズーリ戦で軍隊が疲弊してしまったわがヨーネフリッツは非常に危ない状態ってことだよな」
「そうかもしれません。もしかしたら油断しているところをドネスコかフリシアから王都を急襲されて王族がヨルマンに避難してきたのかも?」
「まさか。それはないんじゃないか。二つの国から王都まで歩いていくとなると何日もかかるわけだし、途中には軍隊だって駐屯しているわけだし」
「まあ、そうなんでしょうけど」
「でも、もしそうなら王都に行った父さん大丈夫かな?」
「大丈夫と信じるほかないな。だけど、王都を失って王族がヨルマン領に逃げてきたということがもし本当なら、ヨーネフリッツは滅んだようなものだろ? そんなことはそう簡単には起こらないって」
「うん。そうだよね」
ドーラを安心するためそういったことを言ってはみたが、実際問題なにが起こるかなんて分からないのが世の中だ。15やそこらの子せがれ、小娘がサクラダのトッププレーヤーに成っていることだって十分異常なことなんだし。しかも、俺なんか悪魔の剣と契約してたと思ったら今では神さまの使いっぱと兼業中なんだし。この世界の天地は複雑怪奇と思っておけば間違いないだろう。
そこから先は周囲からそういった話も聞こえなくなり、俺たちは明日の計画を立てることにした。と、いっても、何も思いつかなかったので、名所はないかもしれないけれど、明日も街を見て回り、昼食は例の軽食屋で摂ろうということだけ決まった。
そのあとは飲食に専念して、8時には食事を終えた。
その日はそれで終了して、翌日。
夜が早かったせいで目覚めも早かったのだが、何もすることもないのでまた目をつむっていたら2度寝できた。
女子たちが起き出して朝の支度を始めた音で次で目が覚めた。部屋の中に俺がいてはちょっとマズいので、俺は下に下りていき、宿屋の水場で顔を洗ったりして時間を潰して部屋に戻った。
女子たちの朝の支度は終わっていたようで、俺が部屋に戻ったら入れ替わりで部屋を出て行った。
みんなが顔を洗ったりして部屋に戻ってきたところで、揃って1階に下り朝食を摂った。
朝食を済ませたところで。
「ちょっと早いけれど朝の街でも見てみようか」
「宿にいても仕方ないし行きましょ」
各自武器を持って部屋を出てきているので、部屋に帰ることなく俺たちは宿を出て大通りに出た。
「サクラダには俺たちに関係のあったダンジョンギルドと商業ギルドがあったけど、ここにはそういった物はないのかな?」
「商業ギルドはあるし、たしか傭兵ギルドがあったんじゃない? 領外への移動とか、領外へ物を運ぶときの護衛を請け負ってたはずよ。ギルドに傭兵団登録しておけば適当に仕事を回してくれるんじゃないかな」
「戦争に駆り出されるってことはないの?」
「傭兵なんだからお金次第でそういったことも引き受けるんじゃない。いやなら引き受けなければいいだけだし」
「知らなかった」
「あんまり有名じゃないし、主な仕事は街道輸送の護衛だから、普通の人は傭兵なんか関係ないものね」
傭兵ギルドとか傭兵団とか言うと何となくカッコいいけれど、カッコいいだけで済むわけないものな。
だけど、俺たちっておそらく戦力的にはこの世界で無敵なんだよな。
俺たち、ダンジョンワーカー辞めて傭兵団でも興してみるか? 傭兵団をつくることはミスル・シャフーの使徒として世界を手に入れるための手段なのかもしれないじゃないか。それに、戦争となると相手は人間。いままでモンスターを相手にしていたのと違うけど、新人狩を斬った経験からして、俺とエリカに限って言えば、そこまで忌避感があるわけではない。おそらくミスル・シャフーの巫女のケイちゃんだって忌避感はないだろう。何といっても俺がこの世界の王になることを推しているわけだから。あとはドーラ。問題があるようならうちに帰すしかないが、ドーラ次第だ。
そこまで歩きながら考えたのだが、そこでハッとした。
――何で俺、傭兵団を作ろうって真剣に考えてたんだ? しかも戦争を前提に?
ミスル・シャフーの力が働いているかもしれないが、冷静になって考えたら、いきなり傭兵団なんて飛躍しすぎだろ!?
しかし、昨夜の話でもし王都が敵に手に落ちて王族がここヨルマン領に逃げ込んできたのが事実だったら、このヨルマン領に敵が攻め寄せる可能性は十分ある。
その時俺やチームのみんなはどう立ち回ればいいんだ? 傭兵ギルドに入っていればなにがしかの情報が手に入るような気がしないでもない。
「ちょっと考えて見たんだけど、……」
ミスル・シャフーのことには触れず先ほど思いついたことを歩きながらみんなに話した。
「登録するだけならいいんじゃない。窓口で聞けば何か情報を教えてもらえるかもしれないから。傭兵団となるとまた名まえが必要よね。ここはサクラダじゃないからサクラダの星っていったら笑われるかもしれないし、何か名まえを考えてから登録した方がいいんじゃない」
意外とエリカがあっさり俺の考えについてきた。
「登録するだけならいいんじゃないですか」
ケイちゃんはそういうと思っていた。
「エドに任せた」
ドーラからもオーケーが出てしまった。
なんだか、エスカレーターに乗っているみたいに物事が進んでいくような気がしないでもない。成り行きに身を任せておけば成るようになるならここは成り行きに任せてみるとしよう。