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第169話 ドーラ2、訓練


 ドーラの準備ができたので、みんな揃って裏庭に出た。


 俺はてっきり立ち合いをすると思っていたのだが、ペラはちゃんと指導するよう

「杖に限らずどういった武器であれ、無駄なく動かすことが基本です」

「……」

 ドーラが黙っているのでペラの話が止まってしまった。

「ドーラ、返事は?」

「はい」

「ちゃんと先生に返事しろよ」

「はい!」


「武器を無駄なく動かすということは、言い換えれば、ぶれることなくまっすぐ武器を動かすことです」

「はい」

「武器の基本は振りと突きです。振りと突きが正確に素早く、最終的には力強くできるようになれば怖いものはなくなります。

 わたしがこの基本動作の手本を示しますからそれをよく見てください」

 そう言ってペラは杖を両手で構えて縦横斜め8方向に振って見せ最後に中段から杖を突きだした。

 ペラの体の動きは比較的ゆっくりに見えたが、ペラが杖を振るたびにビュンと風切り音はするし、最後の突きの時はビシッと訳の分からない音まで響いた。杖の先端の動きは俺でも見えなかったから、ちょっとレベルが高すぎるような。

「それでは上からの振り下ろし。わたしに続いてやってみてください」

 ペラが杖を振り上げてまっすぐ振り下ろした。ビュンと気持ちいい音が響いた。

 そのあとドーラが杖を振り上げて振り下ろした。音もしなかったが、振り下ろしが明らかに曲がっていた。肩に力が入っていた?

「肩に力が入ってりきんでいるようです。力を抜いて肩を上下してみてください」

 ペラが肩を上下してみせ、ドーラがそれもまねて肩を上下させた。

「最初のうちは力を入れなくてもいいので、まっすぐ。を意識して振り下ろしてください」

「はい」

 返事をしたドーラが再度杖を振り上げ振り下ろした。前回の振り下ろしと比べ明らかにまっすぐ振り下ろされていたし速かった。

 ペラにコーチングの才能があった!?


 それから2時間。途中10分休憩しただけでびっしりペラのコーチが続いた。

 ドーラは弱音を吐くことなく長時間の訓練に耐えた。ダンジョンの中ではないのだがレメンゲン効果が及んだのかもしれない。いや、ここは元からドーラが頑張り屋だったと思っておこう。


 ドーラは汗をかいていたので、俺は桶に水を汲んでタオルを濡らしてきつく絞ってドーラに渡してやった。

「ドーラ、部屋に戻って汗を拭いて着替えてこい」

「うん。それじゃあペラさん、ありがとうございました!」

「はい。ご苦労さまでした」

 ほう。俺は何も言わなかったのだがドーラはちゃんとあいさつできた。わが妹ながら感心だ。


 そろって家の中に戻って、汗を拭きに2階に上がっていったドーラをのぞいて3人で食堂の椅子に腰かけて先ほどの訓練について評価した。

「ペラの指導が素晴らしかった」

「ほんとですね。まるで武術の先生のようでした」

「ありがとうございます」

「以前、そういったことをしていたんじゃないかと思えるほどだったぞ」

「そう言われると、遠い昔にそんなことをしたことがあったような気もしますが、はっきりとは覚えていません」

「なるほど。世の中色々だしな」

 ダンジョンの中で眠っていたペラの何がいろいろだか分からないが適当な相槌を打っておいた。


「それで、ペラから見てドーラはどうだ?」

「成長が著しい。というのが感想です」

 確かに。

 2時間弱の訓練である程度疲れているはずなのに、最後のころにはドーラの振る杖が風切り音を出してたものな。

「ペラ、明日も頼むぞ」

「はい。マスター」


 そうこうしていたら着替え終わったドーラが2階から降りてきた。

「そろそろ、夕食に出かけようか?」

「そうですね」


 俺たちは戸締りをしてダンジョンギルドに歩いて行った。


 時刻はまだ6時になっていなかった関係で定食はなく、代わりにつまみと飲み物で6時まで時間を潰すことにした。

 飲み物は俺とケイちゃんとペラはエールで、ドーラは薄めたブドウ酒だ。

 飲み物がそろったところで。

「「かんぱーい!」」「えーと、なんで?」

「エールを飲むときはいつも乾杯なんだよ」

「そうなんだ」

「そうなんだよ」


 つまみを摘まんで飲み物を飲んでいたが、街の鐘が3度鳴ったところで給仕兼マスターのモールさんが4人分の定食を持ってきてくれた。

 訓練でお腹が空いていたのかさっそくドーラが今日の定食のメインの肉に手を出した。

「ここの食事もおいしい」

「ドーラちゃん、ダンジョンの中だともっとおいしいものが食べられるから期待してていいですよ?」

「ええ? あっ、そうか。そういえばエドがパンにいろんなものを挟んでくれてた。あれもおいしかったなー。

 あんなのがいつも食べられるんですか?」

「あれもおいしいけれど、もっといろいろなものをエドが作っているんですよ」

「ホントに?」

「本当ですよ」

「楽しみー」

「エリカが帰ってからじゃないと、ダンジョンに入って本格的な活動はできないからあと2、3日先だな」

「午後から訓練するとして、1階層なら午前中入ってもいいかもしれませんよ」

「エリカは家の鍵を持っていないから帰って来た時留守だと可哀そうだけど、さすがに明日はまだ帰ってこないだろうから、明日の午前中は1階層に潜ろう。

 午後からドーラがペラと訓練している間にドーラのダンジョン用の用品とウーマの食堂の椅子とか用意しておこう」

「そうしましょう」

「了解しました」

「ドーラ、それでいいな?」

「う、うん」


 この日はあまり長居せず、家に帰った。ドーラも疲れているようで早々に部屋に引っ込んだので、俺も含めて他のみんなも各自の部屋に入った。



 翌朝。

 朝の支度をして1階の食堂の椅子に座っていたら、ドーラを含めてみんな下りてきた。

 ドーラだけ防具を身に着けていなかったので、ドーラが防具を身に着けて戻ってくるのを待ってダンジョンセンターに向かった。


 雄鶏亭のいつもの席で朝食を済ませ、各自ヘルメットを被り手袋をはめリュックを背負って渦に向かった。今日のドーラはリュックなしで右手に杖を持って文字通り杖をついて歩いている。


「それじゃあ、俺、ケイちゃん、ドーラ、ペラの順に1列で行こう」

「「はい」」「うん」

「ドーラ、渦が怖いようなら目をつむって歩いていても問題ないからな」

「うん。でも大丈夫」


 俺が先頭になって渦をくぐり少し横に移動したところでケイちゃんが渦を抜けて現れ、すぐにドーラ、ペラと続いて渦から現れた。

「ドーラ、何ともなかったろ?」

「うん。何ともなかった」

「よし。ちょっと隅によってランタンの用意をするけど、ドーラ、ここの空洞の中の様子ははっきり見えるか?」

「もっと暗いのかと思ってたんだけど、良く見えるよ。どうして?」

「普通は、この明るさだと歩くことはできてもそんなに周りはよく見えないんだ」

「でも、よく見えてるよ」

「そのうち説明するけど、それはドーラが俺たちの仲間になった証拠なんだ」

「仲間になれば目がよくなるの?」

「よくなる」

「ホントに?」

「ほんと」


「そういえばドーラは女神像を拝んでいないから、12階層の罠が見えないかもしれないな。見えないようならペラに頼んでおんぶしてもらえばいいや」

「???」

「了解しました」


「それでは久しぶりに1階層の探索だ」


 そこから俺たちは1階層の探索を始めた。紙に書いた地図は持っているが自動地図には渦から階段までとその側道がわずかに描かれているだけなのでちょうどいい。


 30分ほど歩いたところで、ケイちゃんが「前方にモンスターの気配。おそらく1体」と、警告してくれた。

 いつもだったら警告なしで弓の弦が鳴るのだが今回は警告があった。ドーラに生きた(***)モンスターを見せようという配慮なのだろう。


 警告はあったがそのまま歩いていったら俺もモンスターの気配を感じた。

 そこで停止してレメンゲンを引き抜いてモンスターが視界に現れるのを待っていたら、現れたモンスターは大ネズミだった。懐かしー。


 何とかしてドーラに仕留めさせたいのだが、大ネズミをドーラ一人でたおせるだろうか? ダメージを受けたとしても即死はあり得ないからやらせてみるか。


「ドーラ。相手は大ネズミ一匹だ。俺たちが見ておくから、一人でたおして見せろ」

「うん。やってみる。危なくなったら助けてよ」

「安心しろ。少々のケガならすぐ治る」

「そういう意味じゃないんだけど」


 俺とケイちゃんはドーラが前に出るよう少し下がり大ネズミを待ち受けた。

 反対にペラはドーラの斜め後ろに位置した。今日のペラは教育の一環のためか杖を持ってきている。


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