第151話 13階層反対側3
8階層(仮)を7階層(仮)からの階段下に向けて坑道なりに歩いていたら、ついに他のダンジョンワーカーチームに出くわした。
俺たちの横を無言で通り過ぎていった彼らは4人組で、男4人のチームだった。
彼らはありがたいことに4人ともチンパンジーとかゴリラといった類人猿ではなく普通の人間に見えたので、宇宙のかなたの謎の惑星に迷い混んだわけではないことは分かった。
俺たちは男一人に女3人の変則チームだし、奥の方から帰ってきているにもかかわらず、誰のリュックも膨らんでいないおかしなチームと思っただろう。特に一番後ろを歩くペラが両手に四角い金物を持っていたのに気づいたら初見なら相当驚くと思う。何も言われなかったところを見ると気付かれなかったようだ。
俺たちは途中一度小休止を取っただけで安心して坑道を進み、上の階層に続く階段を上っていき、とうとう1階層(仮)に到達した。時刻は13時30分。うまくすればあと30分でダンジョンの出入り口の渦にたどり着ける。
そこで思ったのだが、この先で渦を出た場合、そこは果たしてサクラダダンジョンギルドのような施設なのだろうか?
少なくともヨーネフリッツではない国なので俺たちのお金が使えるのだろうか?
少し不安になってきた。不安になろうがなるまいが何がどうなるわけではないのでそのまま進んでいったら、坑道を抜けた先の空洞の壁に渦があるのが見えてきた。
渦に入る手前でケイちゃんの弓と矢筒はキューブに預かっておき他のダンジョンワーカーたちの渦への出入りに合わせて俺たちも渦の中に入っていった。
渦の前に立っていては後から出てくるダンジョンワーカーの邪魔になるのですぐに脇に移動して周囲をうかがったところ、渦を抜けた先はサクラダダンジョンギルドのホールによく似たホールだった。しかし、サクラダダンジョンギルドのホールと比べると、やや狭いし、渦の左右の石像も食堂兼酒場もなかった。その代り受付カウンターと買い取りカウンターらしきカウンターはちゃんとあった。そういったところは万国共通なのかもしれない。
ホールから聞こえる言葉は訛りが多少ある気もするが俺たちの言葉と同じのようなのでとんでもなく遠方の国にやってきたわけではなさそうだが、ここが何という国なのかはもちろん分からない。
「エド、これからどうする?」
「そうだなー。ここもダンジョンギルドのようだから、ここのギルド会員になって適当なものを買い取ってもらってここのお金を作らないか?」
「ここで売れそうな物って何かありますか?」
「10階層にダンジョンワーカーが進出していたようだから相場は分からないけれど、水薬ならそれ相応の値段で買い取ってくれるんじゃないか?」
「そうね。あそこで女の人が座っているのが窓口だと思うからさっそく行ってみましょうよ」
「よく考えたらここのお金が銅貨1枚もないから登録料を払えないぞ」
「事情を話せば何とかなるんじゃない。あの金貨を見せてもいいし、普通のフリッツ金貨を見せても、わたしたちが無一文というわけではないことは分かるわけだし」
「それもそうか」
俺はキューブからチームの財布にしている布袋を取り出して中からフリッツ金貨を1枚取り出しておき、受付の女性の前に立った。
「ようこそ、冒険者ギルド、ベルハイム支部に。どういったご用件でしょう?」
ここでは冒険者ギルドっていうんだ。それはそうとここはベルハイムって言うところか。今まで聞いたことのない地名だ。
「冒険者に成りたいんですが?」
「冒険者登録ですね。この用紙に必要事項をお書きください」
「後ろの3人も同じです」
「分かりました」
4枚同じ紙が渡され、俺は自分用の紙を残して後ろに控える3人に順に配った。
渡された紙を見ると生年と名まえと性別。の3つだけだった。
カウンターに置かれた付けペンで4人順に書き終わったところで、まとめて俺が受付の女性に手渡した。
「冒険者証を作りますからしばらくお待ちください」
そう言ってその女性はその場で俺が返した紙を見ながら銅板のようなものに小さなタガネと小さなハンマーで字を刻み始めた。ここでは冒険者証を作るのは窓口の仕事だったようだ。ところ変われば品変わるを地でいっていた。
結構早く4枚の冒険者証ができ上って、それを俺が受け取り3人にそれぞれ手渡した。
「登録料なんですが。……」俺がここのお金を持っていないことを説明しようとしたら、受付の女性に遮られた。
「登録料? いえ、そういったものは必要ありません」
案ずるより産むが易し。とはよく言ったものだ。
「そうでしたか。それで買い取ってもらいたいものがあるんですがそれはどこに持っていけばいいですか?」
「もうお持ちですか。それでしたらそちらから見て左手のカウンターが買い取りカウンターですのでそこで査定を受けてください」
「買ってもらいたいのは水薬なんですが買い取ってもらえますよね?」
「水薬? ポーションのことですね?
ここでは通常のポーションの買い取りはしていません。例外的にダンジョン産のポーションのみ買い取っています」
「ならよかった。売りたいポーションはダンジョンで見つけたものですから」
「もしかして、みなさんは新人じゃないんですか?」
「よその国から流れてきたもので一応新人じゃありません」
「確かにベテランでも持てないほど装備が立派ですものね」
「はい。見た目だけは」
「ご冗談を。ダンジョンからポーションを持ち帰れるのは一握りのベテランだけです。その若さで深層部で活躍されていた方々がこのギルドに登録されたということは喜ばしいことです」
「ありがとうございます。それでは」
何となくおだてられ少しいい気持になって受付カウンターから買い取りカウンターに回った。
人が並んでいなかったので、係のおじさんに向かって「済みません買い取りお願いします」と声をかけ、リュックを下ろして黄色と赤のポーションを中から取り出した。
「この2本をお願いします」
「新人だな。
おっ! ポーションじゃないか!
どれどれ。……。封は開いてないし正真正銘のポーションだ。赤、黄どちらも金貨10枚だから、合わせて金貨20枚だ。ちょっと待ってくれ」
係のおじさんが奥に一度引っ込んでトレイの上に金貨を載せて帰ってきた。
「金貨20枚だ。中を確かめてくれ」
「確かに」
受け取った金貨は別途空の小袋に入れてズボンのポケットに突っ込んでおいた。
「しかし、その若さでポーションとは恐れ入った。名まえは何というんだ?」
「エドモンドと言います。こっちがエリカ、そしてこっちがケイ、そして最後がペラです」
「これからも頑張ってくれよ。ケガをせずに頑張れと言いたいところだがどうせポーションを人数分くらいは持っているんだろうしな」
「はい。それじゃあ。ありがとうございました」
「そんじゃあな」
ここのギルドの人もいい人ばかりで助かった。
手に入れた金貨の模様はヨーネフリッツのフリッツ金貨と違っていたが、フリッツ金貨とほとんど同じ大きさ色合いの金貨だった。価値的にもそんなに差がないのかもしれない。
「お金も手に入ったことだし、お腹も空いたからここを出てどこかに食べに行こう」
「近くにお店があるかな?」
「このギルド内にそういったものが何もないから、すぐ近くに食堂や酒場はあるんじゃないでしょうか」
「それもそうか。さっそくいこ」
俺たちは軽い足取りで冒険者ギルドのホールを横切り出入り口に向かって歩いて行った。
そしたら横合いから俺たちというか俺に向かって野太い男の声で呼び止められた。
「おい! そこのお前!」
振り向くと面倒ごとの予感どおり革の胸当てをした人相の悪いいかついおっさんがそこに立っていた。ここにきて異世界テンプレなのか?
「ガキのくせに、やけに立派な装備じゃないか? どこぞのおぼっちゃまが女を連れて遊びに来たのか? ここは遊び場じゃないんだぞ」
顔つきも悪ければ、装備もうす汚れている。相手にしたくはなかったが舐められてしまうとあとあと面倒なので一歩前に出ようとしたら、俺が前に出る前にペラが一歩前に出た。
「実力がない者がはるかに上の実力者に向かって言うべき言葉ではない。身のほどを知れ!」
ペラ、気持ちいいくらい言葉がきつい。
「な、な、なんだと!」
「実力のない者はえてして自分を過大評価し、本当に実力のある物を過小評価する。お前のことだ。そんなのことではいくつ命があっても足りないぞ」
煽る、煽る。
わたしがSFの沼にはまったのは小説版の『猿の惑星』が原因だったのですが、そのあと映画版を見てエンディングの改変に驚愕しました。