第130話 山並みと洞窟
全員でワイバーンの迎撃態勢を取ったのだが、ペラがひとりで5匹全部のワイバーンをそれぞれレンガの投擲の一撃でたおしててしまった。
俺たちは地面に落っこちたワイバーンの検分と回収を兼ねてウーマから下りて死骸の落下地点に歩いて行った。
一番近くのワイバーンは頭の3分の1を失くしていて長い首は折れているようであらぬ方向にぐにゃりと曲がっていた。
鳥ではないので口にはくちばしはなく、伸びた口吻の中に鋭い歯がぎっしり並んでいた。
首が曲がっているので正確な大きさは分からないが頭の先からしっぽの付け根まで10メートルほど。その胴体に5メートルほどのしっぽがくっついている。翼も折れてねじれているため長さなどはここでは分からないのだが、飛行中の翼は左右各々10メートルはあった。
2本の足には鋭い爪が付いた指が前向きに3本あり、後ろ向きに1本付いていた。こんなのにつかまれたら、死ぬかどうかは分からないが少なくとも大ケガ確定だ。
1匹目をキューブに収納し、2匹目を検分したところ、ほとんど1匹目と同じだった。
3匹目から5匹目も結局同じだった。
血抜きはした方がいいのだろうが、ワイバーンが大きすぎて面倒だったので5匹ともそのままキューブに収納してしまった。
これってギルドで買い取ってくれるのだろうか?
ウーマに戻ってウーマには前進を再開させ、俺たちは装備を外して、居間のソファーで少し休憩した。
前方警戒はいいからと言ってペラもソファーに座らせた。
「ペラ、よくやった」
「ありがとうございます」
「ペラがあんなにスゴイだなんて全然思っていなかった」
「全くです。遠距離攻撃でのわたしの出番が無くなりました」
「ケイちゃん。ペラの攻撃がそこらのモンスターに命中したら売り物にならなくなっちゃうから」
「確かに」
「ペラが仲間になったことで、俺たち、今まで以上に強くなってしまったな」
「帰ったら、ペラのこと、すぐにギルドに登録しましょうよ」
「そうだな。これからは連れ歩くわけだしな」
「その前にペラの服を揃えましょう。防具はわたしが以前使っていたものがありますから用意しなくてもいいと思います」
「わたしのお古もあるしね」
しばらく寛いだところで。
「さてと、まだ早いけれど、夕食の準備をしよう」
台所と倉庫のある壁の間にテーブルを出し、そこに椅子を2脚ずつ向かい合うように並べた。
それから俺は、台所に行ってスープの大鍋を備え付けの加熱板の上に置いて食器棚から出した陶器の深皿によそっていった。
そのあと、昼に焼いたステーキと温野菜をこれも食器棚から取り出した平皿に盛り付けた。
パンをスライスして大皿の上に載せて出来上がり。
おっと、最後にガラスのグラスに水筒から冷たくした水を入れて準備完了。
俺が盛り付けている間にでき上ったものからエリカたちがテーブルに運んで行ってくれたのですぐに夕食の準備が終わってしまった。
みんなの料理とカトラリー、そして水の入ったコップがテーブルに並べられ、4人が席に着いたところで食事が始まった。
「いただきます」
ペラの声に続いて、俺も「いただきます」と言ったら、ケイちゃん、エリカの順に「いただきます」が聞こえた。
やはり『いただきます』は、あった方がいい。ペラ、ナイスジョブ!
……。
食事が終わり、食器類を流しに片付けて軽く水洗いし、どんどん食洗器に入れていき食洗器を閉じたら皿洗いが始まった。
テーブルの上を軽く台布巾で拭いたあとお茶の用意をして、今日はデザートとしてバウムクーヘンを用意した。
「食事関係はこっちのテーブルの方がいいわね」
「そうですね」
「ソファーは休憩の時だけだな」
「そうね。そういえばエド、洗濯してなかった?」
「忘れてた」
「マスター、わたしが取ってきます」
「ペラ、俺はペラのマスターかもしれないが、俺にそういった気は使わなくてもいいからな」
「はい。了解しました」
俺はデザートを食べていた途中だったが風呂場に入って洗濯機から洗ったものを取り出した。
乾燥済みの洗濯物は洗剤を入れただけあり確かにきれいになって、しかもフワフワだった。
洗濯物はキューブにしまってテーブルに戻った。
「どうだった?」
「高級灰の上澄みを入れたおかげですごくきれいになった上、タオルなんかはフカフカになった」
「わたしも明日洗濯しよ」
「わたしもします」
みんなデザートを食べ終えてお茶を飲み終えたところでペラは見張りの定位置に戻った。
時刻はまだ午後5時ごろだし、ウーマの中は明るく照らされている上、外は全く暗くならない。
これから寝てしまっていいのだろうか?
さすがに今寝てしまうと今夜の10時には目が覚めてしまう。しかし、そのころには山並みのふもとにウーマが到着している公算が大きい。
一度ペラのところまで行って前方を眺めたところ、山並みはかなり迫っていた。それは予想通りなのだが、山並みの向こうにうっすらと何かのシルエットが下から上に伸びて空の中に溶け込んでいるのが見えた。
距離と大きさからいって、ものすごく太くて大きな柱に見えないこともない。例えばこの大空間の天井を支えている柱のような。
この大空間の天井の高さを測ることはできないが、青空が見えてその先が全く見えないわけだから少なくとも地球の成層圏くらいの高さはあるのだろう。残念ながら地球の成層圏の高さを俺は知らないし知っていたところでどうなるわけでもないが、100キロくらいあるかもしれない。前世で国際宇宙ステーションの高度がおおむね400キロと聞いたことあったような気がするから、そこまではないにしても相当高いのだろう。
いや、待てよ。階段下から山並みまで300キロはあるくせに階段下から見えたわけで、天井は全然見えないことを考えると。……。まあ、落っこちてこないなら高さはどうでもいいんだけど。
広さで言うと、階段下から目の前の山並みまでより、山並みからシルエットまでの方が遠そうだ。シルエットの位置がこの空間の真ん中なのだとすると、この空間は半径600キロ以上あることになる。えーと、600×600×3.14≒113万平方キロ、日本の面積の約3倍。この広さの中で女神像を探すのはまず無理なのだが、何とかなるような気がしないでもない。
後片付けが終わった後、ペラと並んで外を見ていたらわずかに地面が上り始めた。山並みのふもとのようだ。山並みはだいぶ近くに迫っていて見上げるほどになっている。
山頂は冠雪していないが、かなり高そうだし、峠までの途中峻厳な斜面が続いている。どう見ても横断は無理そうだ。山並みを迂回するしかなさそうだが、右を見ても左を見ても山並みは続いている。
だいぶ傾斜がきつくなってきたので右なり左に方向転換しようと思っていたのだが、前方に洞窟の入り口が見えてきた。入り口かなり大きいので、ウーマでも余裕で入っていけそうだ。
「ウーマ、前方の洞窟の入り口に方向を修正して停止してくれ」
ウーマを止めて、エリカたちを呼んだ。
「見た感じ山は越えられそうもないから右か左に迂回しようと思っていたら、正面に洞窟の入り口があったんだけど、このウーマでも中に入っていけそうだから、いけるとこまで行ってみないか?」
「面白いんじゃない。途中で進めなくなったら下りて、ウーマをもとの大きさにして歩けばいいんだし」
「エド、今何時ごろか分かりますか?」
「5時ごろだと思う」
「まだ5時なら、寝るには早いしいいんじゃないですか」
「それじゃあ行ってみよう。
ウーマ、このまま洞窟に入って行って、行けるところまで行ってくれ」
俺のその言葉でウーマは洞窟に向けて進み始めた。