第105話 12階層2、落とし穴
12階層に下りた先は10メートル四方の石室だった。何となく罠があると感じた俺はまず水を床に流して落とし穴がないのか調べたが、1枚の床石を調べるだけでそれなりの時間がかかってしまうので実用的でないと諦めた。
次にケイちゃんのアドヴァイスで石室にたった一つある扉までの床石を収納してみた。
そしたら、5メートルほど先に1メートル四方の大穴が空いていた。
床石がどういう感じで抜けるのかは分からないが、少なくとも上を歩けば床石が抜け落ちて、真っ逆さまに堕ちてディザ〇アだったかもしれない。そしたらもう起き上がれなかったはず。
罠があるのではという俺の勘が当たった!
「罠が本当にあったんだ。さすがはエド!」
「良かったです」
床石を引きはがした跡に空いた穴を上からのぞいたら、下が見えなかった。これって完全に殺しにきてるぞ。
つまり、11階層まではチュートリアルで、ここからがサルダナダンジョンの本気ってことなのかも知れない。
念のため穴の周りの床石も引っぺがしてそこを通って扉の前に立った。
扉は両開きでおそらく鉄製。カギ穴などは付いていない。
ゲームなどでは扉にも罠が仕掛けられていることがあるので、扉をキューブに収納しすることにした。扉が無くなれば、その先に何が現れるか分からない。俺は念のためレメンゲンを鞘から抜き、扉を2枚ともキューブに収納した。
まさに力業。
「キョヘ?」
何も言わずに扉を収納してしまったので、エリカが変な声を上げた。エリカの声なので変な声だがかわいい声だったことも確か。
「扉に罠があったら嫌だから、収納してやった」と、説明しておいた。
「変な声が出たじゃない。エド、今度何かこの手のことをするときは教えてよね」
「ゴメン。悪かった」
扉がなくなった先には、まっすぐ続く石でできた通路が見えた。通路の両側にはところどころに今俺が収納した扉と同じ扉が付いているのが見える。
通路上にモンスターの気配はないがここは本格的、本気のダンジョンだ。
通路の床石は石室の床石と同じ大きさだったのでここでも引っぺがしていけば安全に進んでいける。
「エド、この通路の床石全部引きはがすの?」
「全部じゃなくって、1枚分の幅だな」
「そうなんだろうけど、ズーっと引きはがしちゃうの?」
「そのつもりだけど。何か気になることある?」
「そういうわけじゃないんだけど。収納キューブ大丈夫かなって」
「もしもいっぱいになったら、床石はどこかに捨てればいいだけだから」
「それもそうだけど、収納キューブって回数的に際限なく使えるものなのかな?」
「そこは分からないけど、大丈夫なんじゃないか?」
確かにエリカの心配は理解できる。しかし、収納キューブに取説が付いていないのでいつ使えなくなるのかなんて分からない。従って大丈夫というか、大丈夫と考えるしかないのも事実。
もちろん俺の勘が必ず当たるとは言えないことは承知しているが、俺の勘は俺が死ぬ時までに収納キューブが使えなくなることはないと告げている。
「それならいいけど」
「扉を一つ一つ確実に開けていった方がいいよな」
「目的はこの階層の全探索でしょ? だったらそれしかないんじゃない」
「先に13階層へ続く階段を見つけるのも手だと思うけど、とりあえず手近なところから確実に見ていこうか」
俺が先頭に立って一番近くの扉までブルドーザーのごとく床石をはがしながら進んでいった。
エリカとケイちゃんのためにその扉の前の床石を広めに引きはがした俺は扉の正面に立ち、またエリカを驚かせては悪いのでちゃんと警告しておいた。
「中にモンスターがいるかもしれないから、二人は俺の後ろにいてくれ。
3、2、1で扉を外す」
「うん」「はい」
「3、2、1、(収納)」
扉を収納で消してしまったら、弓の弦の鳴る音と同時に矢が俺に向かって飛んできた。俺も達人の域に近づいてきたようで飛んできた矢を余裕を持ってレメンゲンで払えたのだが、矢は払ったとたんに砕けてしまった。
俺が矢を振り払ったほぼ同時に俺の後ろで弓の鳴る音が鋭く響き、俺の脇をかすめて矢が扉の先に撃ち込まれた。
扉の先は階段下の石室とほぼ同じ広さの石室で、出入り口は俺たちがいる場所だけだった。
そして部屋の真ん中には短弓を手にした石像が立っていたのだが、先ほどのケイちゃんの矢を額に受けて頭の上半分が砕けゆっくりと仰向けに倒れていった。
そしてその石像は床に当たった拍子に手にしていた弓と一緒に大きな音を立てて砕けてしまった。矢の入った矢筒も砕けたが中に入っていた矢は無事だった。
ゴーレムってやつか。一気にらしくなってしまった。
「エド、大丈夫?」
「なんとか」
「驚きましたね。石の兵隊?ですか」
「そうみたいだ」
「驚いたわね。石のくせに動けるなんてどうなっていたのかしら?」
「全くの謎だな」
弓を射たことから関節は人並みに曲がるのだろうが、球体関節がついていたようでもなかったし、不思議なものだ。
しかしケイちゃんの矢の一撃で砕けたくらいだから結構脆そうだ。
これから先、石の戦士タイプが現れたとしても動きはさすがに遅いだろうから脅威にはなりそうもない。
それはそうと、これまでのモンスターはスライムをのぞいて一応真っ当な生き物だったがここにきて生き物とはとても思えないモンスターが登場してきた。
そういえば生前読んだ小説にはモンスターの体内には魔石とか核とかと呼ばれるものがあってそれがあることがモンスターの一つの特徴とかあったが、このダンジョンに現れるモンスターにそんなものはなかった。
今回のいわゆるゴーレムにはもしかしたらそういった謎組織があるかもしれない。
「エド、何してるの? 宝箱があるわよ。先にわたしが部屋の中に入るわよ」
ちょっと頭の中でトリップしていた。
石像が砕けた先に確かに宝箱がある。
エリカが俺より先に部屋の中に入ろうとしたのでエリカを止めた。
「エリカ、床に罠があるかもしれないから、ちょっと待って」
「こんなところにも罠があるの?」
「いや、それは分からないけれど、ないとは言い切れないから」
俺は宝箱に向けて床石をはがしていき、砕けた石像がのっかった床石は残してその脇に迂回して宝箱の横まで道を作った。
いちおう床下をはがした個所には落とし穴はなかった。
「エド、砕けた石像どうするの?」
「こんな不思議なものがどうやって動いていたのか興味があったから、少し調べてみようかなと思って」
「ふーん。
それはいいけれど、先に宝箱を開けてみましょうよ」
「うん」
床石をはがした道を宝箱まで歩いて行き、途中で床に転がっていた石像の持っていた矢を拾ったのだが、予想通り石の矢だった。
石の矢の近くに転がっていたケイちゃんの矢だけ回収して、宝箱を観察した。
この宝箱もこれまでの宝箱と同じで材質は多分銅。大きさは縦横30センチ、高さは15センチくらい。
カギ穴はない。
「開けてみる」
箱のフタに手をかけて、ゆっくり上げてみたら、箱の中には山吹色の丸い板、すなわち金貨がぎっしり詰まっていた。
「すごい」
1枚手に取ってよく見たが、当たり前のごとくフリッツ金貨でもなく見たこともない金貨だった。
さらに1枚とって1枚をエリカに、最初の1枚をケイちゃんに渡した。
「こんな金貨見たことない」
「わたしもこの金貨は初めてです。フリッツ金貨と比べ黄色くないですか?」
「たしかに少し黄色が濃いような」
「これってもしかしたら純金なんじゃないかな?」
「うん、そんな感じもする。
でも、外じゃ使えないよな」
「そうねー。鋳つぶすしかないんじゃない」
「変わった金貨だからオークションにかければ売れるかもしれませんが、どうなんでしょう。でもちゃんと金の含有量がわかれば両替屋で両替してくれるんじゃないでしょうか。純金ならその分高額になるでしょうし」
「両替屋使ったことがないから分からないけどそういうものなの?」
「外国の金貨などはそうやって両替してるそうですから、この金貨も両替してくれるかもしれません」
「なるほど」
「バラバラにしては面倒だから箱ごと収納した方がいいよな」
「そうね」
エリカとケイちゃんが手にしていた金貨を宝箱に戻したところでフタをして、宝箱ごと収納しておいた。
「何枚入っていたのか分からないけれど、相当な金額になるわよね」
「鋳つぶしたとしても相当の金額になるだろうな」
「11階層もかなりの儲けになりましたが、この階層は11階層どころじゃありませんね」
「この階層を巡るだけで大金持ちになりそうだ」
「ホントにそうよね」
今回は中森明菜『DESIRE -情熱-』