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素人童貞転生  作者: 山口遊子
ダンジョン編
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第103話 サクラダの森3。うわさ話2


 湖畔で一休みしたところで、昼までのあと1時間ほど湖畔沿いに歩いて行こうということになった。


「外がこんなに気持ちいいなんて」

「ダンジョンの中のいいところは雨が降らないことくらいじゃないか?」

「そうかもね」


 湖畔沿いに道があるわけではないのだが、森の中より歩きやすい。

 きれいな石でも落ちていないかと思って下を見ながら歩いたが、そういったものは見つからなかった。


 そろそろ昼だろうということで昼食を摂ろうということになり、湖畔沿いのやや開けたところにテーブルを置いてそこで店開きし、ダンジョン内での昼食同様立食した。小型ストーブも炭もあるのでそのうちバーベキューしてもいいかもしれない。


 昼食を終えた俺たちは、草の上に腰を下ろして一休みしてから帰路に就いた。

 帰りは森の中を通るので自動地図を見ながらサクラダ方向に歩いて行くことにした。

 湖の一部がちゃんと地図に現れていたし、サクラダの街も現れている。自動地図を開いたらいつも自分のいる位置が地図の真ん中だけど、その気になって地図をスワイプしたら、ちゃんとスワイプできてしまった。もちろん自動地図をキューブから出している時に行ったところ以外は現れていないのだが、実に便利だ。


 3時間ちょっとかけてサクラダの街に戻ってきた。途中なん種類かのキノコを採り、薪はかなりの量拾った。何か得した気分だ。


 キノコについては、大抵は虫が入っているので水の中に1時間くらい浸けておくのだそうだ。そういえばうちでもやってた記憶がある。



 家に帰った俺たちは先に台所の前に行き、薪の山の横に今日拾ってきた薪を積んでいった。長さは拾った時に揃えていたので、単純に積んでいくだけの作業はすぐに終わった。


 そのあと6時になったらギルドに食事に行こうと話をしてから2階に上がって各自の部屋に入っていった。今日仕留めたクマについては他の獲物を卸すとき一緒でいいだろうということにしておいた。買い取ってもらえなければ、解体スキルを向上させるため自分で解体して肉はクマ鍋にするだけだ。クマの毛皮はどこかに持っていけば敷物か何かに加工してくれるだろう。



 俺は荷物を下ろし防具を外してベッドに横になり目をつむり、今日湖で見た最後の鳥のことを思い出していたら、街の鐘の音が3度鳴るのが聞こえてきた。2時間近く意識が飛んでたというか、眠ってしまっていたようだ。

 俺はベッドから起き上がり、レメンゲンを付けたまま箪笥の上に置いていた剣帯を腰に巻いて部屋を出た。


 家を出た俺たちはギルドの雄鶏亭でいつもの席に着き、同じような注文をして同じように乾杯し飲み食いを始めた。


「明日は1日休みだけどどうする?」

「そうねー。特にやることないのよねー。

 ケイちゃん何かない?」

「わたしも特にしたいことはありません」

「わたしたちって、ダンジョン以外やることないものね」

「仕方ないから大鍋を追加してスープを作っておこうか?」

「それくらいしかすることないわよね。午後から減ってしまった食材とか補充すればちょうどかもしれないわね」

「無駄に過ごす必要はないからいいんじゃないか」

「そうね。ケイちゃんもそれでいい?」

「はい」

「じゃあそれで。明後日は12階層だ」

「何があるかなー? 楽しみだよね」

「黒スライムの何かが消えていればいいですが、臭いがあったわけじゃないからちょっと怖いですね」

「顔が黒くなっても水薬があるか大丈夫よ」

 何だか近頃のエリカは人として大雑把になってきているような気がしないでもない。以前のエリカはもっとクールだったような? 今が本来のエリカで、地が出てきたってことかも知れないが。


 明日の予定が決まったところで本格的に飲み食いしていたら、となりのテーブルの話し声が聞こえてきた。


『フリシアとドネスコがゴタゴタしている話は知ってるだろ?』

『フリシアは後継の現王の現王派と前王の正妃の息子を推す王弟派でごたごたしてるっていうのと、ドネスコは南のハグレアと戦争してるっていう』

『うん。それだ。

 なんでもうちの国は、これを好機ととらえてズーリに攻め込むらしい。フリシアとドネスコが出てこないならズーリごときは一月もかからず平定できるだろうからな』

『確かにそうかもしれないが、うちの国が攻める理由なんてないんじゃないか?』

『そうかもしれないが、取れるものなら取っておこうって腹だろ』

『あそこは鉱山がたくさんある国だからなー』

『まあ、なんであれ勝ち確定のいくさだ。ヨーネフリッツの景気はよくなるだろうな』

『国全体なんてどうでもいい。このヨルマン領の景気が良ければ俺は十分だ』

『サクラダにそういったうわさが聞こえてきてるってことは、もうとっくにうちの国はズーリに攻め込んで今頃ズーリはヨーネフリッツの属国か新しい領土になっているんじゃないか?』

『きっとそうだ。

 それじゃあ、ズーリ戦の戦勝を祝して乾杯だな。

 おやじさーん、エールを4杯』

『あいよ』


 戦争が始まるのか。いや、もう終わったのかもしれないのか。自国が戦争を始めるということは大ニュースのハズだが、通信手段が発達していない以上、庶民は数カ月遅れのうわさ話に頼ることになるわけだ。

 何であれ、戦争が俺たちに直接関係しないのならそれで十分なのだが、たとえその戦争が侵略戦争であっても、自国が勝つとなればそれはそれでうれしいものだ。かつて平和国家日本の国民だった俺でもそう思うんだから、根っからのこの世界の住人なら普通の感情なのだろう。


「戦争か。いやよねー」

 普通じゃない人がここにいた。

「勝ち戦でもいや?」

「うん。だって味方が勝ったとしても、何人かは必ず犠牲が出るじゃない。それが身内の可能性だってあるわけだし」

「確かに。

 そういえば戦争って兵隊はどこから集めるんだ?」

「王さまの自前の軍隊と、所領を持つ貴族の領軍とで軍隊を作るのよ。足りなれば募集されるわ」

「募集ってわざわざ戦争中の軍隊に入りたい物好きはいないだろ?」

「だから、強制的に『募集』するのよ。悪いことして捕まってる連中とか、酒場で酔っ払って寝てる男とかが募集に応じることになるの」

「そんなので戦力になるのか?」

「ならないでしょうけど、並べておけばこけおどしくらいにはなるわ。基本的に王さまの軍隊が負けたら負け。領軍は自領を守るための軍隊だから他国に攻め入ったとき負け戦なら踏みとどまってまで戦わないから」

「負けたといって全く戦わず逃げだしたら追撃されて被害が大きくなるんじゃないか?」

「大抵の戦争だとそこまでしないのよ。明日は我が身ってこともあるから」


 なるほどな。俺なら戦果を拡大するため徹底的にやるだろうし前世の軍隊だって何かの規制的なものがなければそうするだろう。この世界の戦争の進め方は前世の地球とはかなり違うってことか。いや、前世の地球でも昔はそんな感じだったのかもしれないか。

 しかし、エリカがこんなことまで詳しいとは知らなかった。今日も俺に将軍がどうとか言ってたしなー。エリカってこの世界での軍事オタクなのだろうか? 軍オタ女子かー。響きは今一だ。


「しかし、そんなんじゃ領軍を連れて行っても数合わせ以外に意味ないんじゃないか?」

「勝っている時は分け前をもらうためにそれ相応に仕事をするのよ。

 お父さんが言っていたけれど、戦争だってあくまでビジネス。上は王さま将軍から下は兵卒まで自分の利益のために働いているだけだって」

 さすがはエリカのお父さんだ。エリカのお父さんの商会はこれからも発展しそうでなにより。株が買えたら買っておきたいところだ。


 俺とエリカが戦争について話している間、ケイちゃんは俺とエリカの話を黙って聞いていた。



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