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素人童貞転生  作者: 山口遊子
ダンジョン編
101/336

第101話 サクラダの森1、クマ


 俺たち3人はうちから大通りに出て、南に向かって歩いていった。

 途中、駅馬車の駅舎を過ぎ、しばらく進んで街の門を抜け、街道をさらに進んで右手から街道に迫ってきた森に向かって方向を変えた。


 自動地図はダンジョンだけでなく地上でも使えたので、今現在俺の背中のリュックの中に入れている。これで森の中で迷子になる心配はない。


 森の名まえは中央大森林。南北60キロ以上、東西40から50キロ。3000平方キロに及ぶ広大な森だ。

 そのサクラダに近い一部分をとってサクラダの森と言っている。

 余談だが、ケイちゃんの開拓村のある本物の大森林は北西から南東にかけての最も狭い横幅が約100キロで奥行きは不明だ。


「俺の村の近くだと、目にする動物はウサギ、イノシシ、シカ。そんな感じだったけど、この森の中にはどういった動物がいるんだろうな」

「そんなものなんでしょうけど、クマぐらい出るかもしれないわよ」

「そうですね。街の中ではクマを見ていませんがこれだけの森なのでクマはいそうです」

「食べられる鳥はいないかな? うちの辺りだとキジがいたけど」

「キジくらいいるんじゃない」

「草むらがあれば潜んでいそうですね」


「あとは、薪拾いだな」

「大きさがまちまちだから斧か何かを用意しとけばよかったわね」

「それもそうか。用意するのを忘れてたな」

「そういえばエド、昨日11階層で石を壁から切り出したじゃない」

「うん」

「あれって、岩壁の一部分をキューブに収納したわけなんでしょ?」

「うん。そう」

「じゃあ、そこらへんに立ってる木の一部分を切り出せるかな?」

「うーん。木は岩と違って生きてるからなー。

 やってみればいいだけだから、そこの木の真ん中に丸い孔を穴を抜いてみる」


 俺はその木に向かって、生前テレビでやっていたとあるマジシャンっぽく両手を揺らして「来てます来てます」とか口にしてみた。

 そしてその木の幹から直径10センチくらいの円柱をイメージして収納を試みた。

 そしたら簡単に木の幹に直径10センチの丸い孔が空いてしまった。


「できたじゃない。これなら薪も適当な長さにできるでしょ?」

「できると思う」

「それはそうと、さっきの手の動きは何だったの?」

「雰囲気を出そうと思っただけで他意はない」

「訳の分かんない事やめてよ」

「すみません」


「ところでエド、もしかしてこれって、……」と、今度はケイちゃん。まー、思いつくよな。

「うん。モンスターにも有効だろうな。あまり無茶に使ってしまうと買い取ってもらえなくなるからよほどの敵じゃないと使わない方がいいかもしれない」

 これについては岩から石を切り出した時も一度考えたんだよな。

 モンスターは俺たちにとっては大事なお客さま。殺すことが目的ではなく資源化することが目的なのだ。

 オオカミなんかは資源化できないのでこれでサックリたおしてもいいかもしれない。ちょっとだけかわいそうだが、どうせケイちゃんの矢の遠距離攻撃を受ければ何が何だか分からないうちに即死するんだから同じだろ。


「ねえ、エド。収納できることは分かったけど、出す方はどうなのかな?」と、エリカ。

「出す方って?」

「例えば、今木の幹から筒状に中身を繰り抜いたわけでしょ?」

「うん」

「それって、好きなところに出せるんじゃなかったっけ?」

「うん。出せると思う」

「例えば、さっきの木の幹の中にも出せるかな?」

「孔に戻すって事?」

「そうじゃなくって、木の幹の適当なところ」

「うん?」

「つまり、何でもいいけど狙った物にキューブから何かをねじ込めないかって事」

「そんなことすると、……。いや、それもエグイことになるな」

「うん。抜き出してしまうのも、ねじ込むのも結果はどっちもどっちだけど」

「確かに」


 俺とエリカのキューブの使用法についての考察についてケイちゃんは目を丸くしている。すごく凶暴な考えだものな。

 しかし、エリカって頭が柔らかいというか頭いいよな。

「木の幹で試してみてうまくいけばモンスターにも有効だろうから、試して見よう」


 両手を動かすとエリカに怒られるので今度はおとなしく前方の木を見て、先ほど木の幹から抜き取った筒を目標の木の幹に半分埋まるイメージで排出してみた。


 俺の排出した木の筒は文字通り目標の木の幹にねじ込んだような形で出現した。木の幹自体は縦に大きなヒビが入ってしまった。現象的には内側から外側に向かって筒が膨らみながら出現した感じだ。これはエグイ。ケイちゃんはもちろん、言い出したエリカまでウワーって顔をしている。

 どっちも即死するにせよ、抜き取るよりねじ込むのは相手に与えるダメージが何倍もデカそうだ。階段前のモンスター戦では遠慮するような余裕はないのでためらわずにこれを使うが、相手が単体ならばこれで簡単に撃破できる。


「エド、これはよっぽどじゃなければ使わない方が良さそうね。かなりひどいことになりそうだもの」

「そうだな。使うとしたら階段前のモンスターだけだろうな」

「そうね。手ごわい相手に手加減するわけにはいかないもの当然よね」

「そうですよね」

 その辺り二人ともドライな考えをするので、リーダーの俺は実にやりやすい。



 森に分け入って30分ほど。森は適度に木が間引かれているようでうっそうという感じはしない。人の気配は全然ないけれど間伐されているということは、林業労働者きこりが入って森の管理をしているって事だろう。勝手なことはあまりしない方がよさそうだ。

 見上げれば青空もちゃんと見える。その代り獣道のようなものもないので歩くのはダンジョン内を歩くよりよほど歩きにくい。たまに遠くの方から鳥の鳴き声と羽ばたく音が聞こえてくる。

 ケイちゃんは左手に弓を持って歩いているのだが一度も矢をつがえようともしていないので鳥は射程外なのか、射線外なのだろう。


 ちょくちょく落ちている枯れ木を拾っているのだが、それは収納キューブを使っての収納なので移動速度は落ちることはない。


「前方に動物の気配です。ここからでは見えませんが多分クマです。わたしたちが風上なのでクマはもうわたしたちに気付いているはずです」

 そう言ってケイちゃんは矢を矢筒から1本引き抜いて弓の弦につがえ、俺とエリカも剣を抜き、前方の気配を探った。

 枝葉がこすれる音がこちらに向かって近づいてきている。

 生前クマは猟銃を持ったハンターが狩る猛獣だったが、今の俺はいたって冷静にクマの出現に備えている。

 エリカもケイちゃんも俺同様、落ち着いたものだ。これまで散々ダンジョンで鍛えてきたのだから当然か。


 やや開けたところでクマが現れるのを待っていたら茂みをかき分けるようにして黒い塊が現れた。そのクマは俺たちを威嚇するように立ち上がった。大きい。

 立ち上がったクマの背丈は2メートル50近い。

 俺たちとの距離は7メートルほど。

 そのクマに向けてケイちゃんのウサツの弦が鋭く鳴り、矢はクマの右目に深々と突き刺さりクマは立ち止まって吼えた。

 これまでケイちゃんの矢はカエルの時をのぞいてたいていヘッドショットだったが、クマは目玉に矢を受けた程度では倒れなかった。

 おそらくケイちゃんの放った矢は眼底を突き破りクマの脳まで達していると思うが丈夫なものだ。

「クマは腕を外側に向けて振れないらしいから横から攻撃しよう」

「了解」

 俺とエリカは左右に広がってクマに迫っていった。

 そうしたら、またケイちゃんの弓が鳴った。

 ケイちゃんの2射目は、クマの健全だった左目に突き刺さった。この一撃はクマにとっての致命傷だったらしく立ち上がっていたクマがそこで停止して後ろに仰向けに倒れて動かなくなってしまった。

 俺とエリカは何もしないままだった。これはいつものことなので俺もエリカも黙って剣を鞘に納めて後処理を始めた。


 俺はクマの潰れた眼窩から矢を引き抜きながら今回のクマが全く何もできず、ただの通行人のごとく舞台から退場した原因を考察してみた。

 結局のところクマの敗因は、ケイちゃんの第一射を受けた時立ち止まったことに尽きるだろう。立ち止まらなければケイちゃんの第2射はなかったハズだ。目玉から眼底を矢が突き抜けたわけだから、止まるなというのも酷な話か。




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