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素人童貞転生  作者: 山口遊子
ダンジョン編
100/336

第100話 11階層、撤退

戦記物のハズなのにダンジョンだけでもう100話。ブックマーク、評価、絵文字等ありがとうございます。


 11階層で12階層への階段前の黒スライム群を撃破した俺たちはギルドへの帰路に就いた。

 10階層の坑道を歩いているところでランタンを点けることを思い出したので、そこで立ち止まりランタンに火を点けた。


「エド。きみの顔、なんだか黒くなってる」

「えっ?」

 そう言ったエリカの顔はランタンの光に照らされて青黒くなっていた。ケイちゃんも同じように青黒くなっている。

 これって?

「エリカも、ケイちゃんも黒くなっている」

「えっ、ほんとう? ケイちゃんの顔、黒くなってる」

「うそ。あっ! わたしの指先、黒くなってます」

 ケイちゃんの手袋は指先が出ている指ぬきタイプ。その指先が黒くなっている。急いでケイちゃんが手袋を取り、俺とエリカも手袋を取ってみたところ、ちゃんと手首まで黒ずんでいた。


「なにかの呪いかな?」

「エド、呪いなんてないから。これって何かの症状よ」

「じゃあ、何の?」

「もしかして、あの黒いスライム?」

「あの粘液はスゴイ毒っぽかったし、アレで岩が溶けて泡立ってたということは何かがそこから漂ってきて、それを吸い込んだせいかもしれない」

「そういえば、まだそんなに歩いていないのに、体も疲れた感じがするし、なんだか胸が苦しくなってきたような気がするわ」

「マズいな」

 マズいと言った俺も何だか胸に違和感がある。

 そうだ! さっき手に入れた水薬。ポーションだ。


「病気に効く水薬を飲めば治るんじゃないか?」

 俺は収納キューブからポーションの入った宝箱を取り出してフタを開けた。

 ランタンの明かりに照らされて中身の色がはっきり分かった。黄色い水薬と赤い水薬の2種類だ。もちろん俺たちの顔の色もランタンの明かりではっきり分かったがそれについては誰も触れなかった。

「確か、黄色が病気に効く方だったよな」

「ケフ、ケフ。ウウウン。ごめん。確かそう」

「効くことを祈って飲んでみよう」

 エリカとケイちゃんに1本ずつ黄色のポーション瓶を渡し、俺も1本取り出して栓になったガラスの蓋を抜いて一気にあおった。

 二人も一気に全部飲み干した。

 最初俺も含めて咳が何度か出たのだがすぐに落ち着いて、胸のつかえのようなものも無くなっていった。

 効いてる。効いてる。


 ポーションを飲んだエリカとケイちゃんの顔を見ていたら明らかに黒ずみが薄れてきている。

「エリカもケイちゃんも黒ずみが取れてきた」

 エリカとケイちゃんの顔も黒ずみが抜けて生気が戻ってきた。俺の顔は自分では見えないが同じように生気が戻ってきていると思う。

「エドの顔も良くなってきたわ」

 何だか醜かった顔が見栄えが良くなったような表現だが、黒ずみが取れて生気が戻ってきたことを表したのだと思おう。


 これがもし、中途半端にスライムをたおして宝箱を回収しないまま撤退していた場合、とんでもないことになっていたわけだ。おそらくポーションを飲まなければ肺がやられて死んでしまったのだろう。九死に一生とはこのことだ。運がよかった。


 ポーション瓶の入った宝箱を何かの都合で動かした時、中の瓶がひっくり返ったりしないよう宝箱の中に空瓶も入れてキューブにしまっておいた。

 少しその場で休んでから異常がないことお互いに再確認して再出発した。やはりダンジョン産の薬はただものではないということが実感できた。


 ……。


 それ以降体調の変化もモンスターと遭遇することもなく、一度小休止しただけで6時半ごろ俺たちはギルドにたどり着き、雄鶏亭に直行した。


 いつもより出遅れたものの雄鶏亭のいつもの4人席は空いていたのでスカスカのリュックを足元に置き、その上に武器を置いて席に着いた。

 定食がテーブルの上に置かれたところで飲み物とつまみを注文した。


 飲み物が揃ったところで「「かんぱーい!」」

 頼んだつまみもテーブルの上に並んだ。



「あれを見越して水薬が入ってたんだね」

「そうなんだろうな」

「最後までスライムをたおして、泉を越えて宝箱を空けていなかったら今頃わたしたち死んでいたかもしれませんね」

「全くケイちゃんの言う通りだ。俺たち運がよかった」

「これも、レメンゲン?」

「うーん。そこはちょっと分からないけどな」


「それで12階層はどうする?」

「そのうちアレもダンジョンに吸収されるだろうから、2、3日後ならあそこを通っても大丈夫じゃないか? もしものことがあったとしても水薬は沢山あるし」

「それもそうね。ところであのスライムの黒い液だけど持って帰ったら売れたかな?」

「岩が泡立つようなかなり強い毒だから、利用法によっては薬の材料になるかもしれないけれど、利用法がないようなら買い取ってもらえないんじゃないか?」

「それもそうよね。暗殺者か何かが使うのが関の山なんだし」

「だよな」


「話は変わるけど、今回は早く戻って来たから、今度は3泊4日で潜らない?」

「それでもいいけどな。不都合があれば帰ればいいだけだし。

 明日はケイちゃんの矢の補充だな。念のため明後日も休みにしてその次の日から潜ろうか」

「そうね」「はい」

「ケイちゃん、今回のようなことがまたあるかもしれないから矢は買えるだけ買った方がいいんじゃない? 予備の矢はエドの収納キューブに入れておくだけなわけだし」

「そうですね」


「二日間で用事は矢を買いに行くだけ?」

「そうだなー。エリカは何かやりたいことでもある?」

「特にないけれど、近くの森にでも行ってみない?」

「いつもダンジョンの薄暗い洞窟の中だから、そういうのもいいかもな」

「面白そうですね。そうはいってもわたしは長年森の中みたいな開拓村で生活してたんですけどね。食べられるキノコとかは分かりますよ」

「それは楽しみだ。じゃあ、明後日はそうしよう。森の中はダンジョンの装備だけで十分だよな?」

「それでいいんじゃない」

「いいと思います」


 ……。




 翌日。


 遅めの朝食をギルドの雄鶏亭で摂った俺たちは、ケイちゃんの矢を買うため工房街のホフマンさんの工房を訪ねた。


「短弓用の矢をあるだけ買いたいんですが」

「他の客に迷惑がかかるから全部は売れないが、それなりの数は売れる。ただ、短弓用と言っても長さがそれなりに違うが」

「長弓用ほど長くなければ構いません」

「そんなんでいいのか?」

「そこはなんとか」

「それならいいけどな。しかし、何でそんなにたくさん矢が要るんだ? 俺とすればありがたいが、持ち運ぶのも大変だろ?」

「今度家を借りたので予備として置いておこうかと思いまして」

「ほう、その若さで家を借りたのか!? 大したものだな。

 ちょっと待っててくれ、倉庫から持ってくる」


 一度奥に入っていったホフマンさんが矢の束を両手で抱えて戻ってきた。

「長さは4種類。同じ長さの矢は10本ずつ束ねて3束ある。全部で12束で120本だ。

 値段はどれも1本大銅貨5枚。2束で銀貨5枚だから、12束で銀貨30枚、金貨1枚と小金貨1枚だ」

 俺がチームの財布から金貨1枚と小金貨1枚を払い、ケイちゃんが自分のリュックの中に矢の束を入れた。


「ありがとうございました。それじゃあ失礼しまーす」


 ホフマンさんの工房を出たところで、ケイちゃんのリュックを収納キューブにしまっておいた。


 これで今日の仕事が終わってしまった。


「まだ8時前だから、今から森に行っても良さそうだ」

「そうね」

「そうですね」

「森の中ではなにがあるか分からないから、一度家に戻って装備を整えて出発しよう」

「うん」「はい」



 俺たちは工房街からギルド前を通り、大通りを横切ってその先にあるわが家に戻り、防具を身に着け、武器も装備した。

 今日買った矢のうち30本はケイちゃんに渡して残りの90本はキューブの中だ。

 ケイちゃんはその受け取った30本を10本ずつ3つの矢筒に入れ、矢筒のうち二つはリュックの中で、ダンジョン矢筒はいつものように腰に下げた。

 各自、小物を入れたリュックを背負って準備を終え、俺たちは家を出た。

 行き先はサクラダの西に広がる森だ。


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