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三題噺もどき3

母と私

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくななじゅうご。

 


 母の運転する車に揺られていた。


 基本的に日曜日と平日が休みの母にしては、珍しく今週は土日が休みだったようだ。

 朝起きてリビングに行ったら、母がいたので普通にびっくりした。父がいるのはいつもなんだけど……いやあの人も割と早い時間にでかけるからそうでもないのか。その父は今日は珍しく仕事があって朝から居ないようだ。

「……」

 車内には聞き飽きたほどに聞き慣れたCDが流れている。

 最近と言えば、最近の曲だが、まぁ……若干時代遅れ感はある。別に私は好きなので良いんだけど。車を運転している人が気持ちよく運転できればそれでいい。

 だから、父の運転の時は基本的にラジオが流れている。……あれは正直飽きると言うか聞いていない。面白いものは面白いんだけど。

「……」

 正直母の買い物程疲れるものはないので、断りたかったんだけど。

 断ったら断ったで、あとが面倒なのだこの人は。

 よくわからないタイミングでキレてくるので、それならご機嫌取りにでもなんにでも、行こうと言われた買い物には付き合わないといけないのだ。

「……」

 ぼうっと眺める外には、田舎の風景が広がっている。

 こんなに畑が広がっている景色も、もう案外珍しかったりするんだろうか。でも少し外れればどこもこんなもんだと思うんだけどな。

「……」

 田舎の住宅街は、あまりないかもしれないけど。

 赤信号で止まった車の真横には、草木が荒れ放題になっている住居が立っている。

 こういう廃墟じみた場所なんて割と点々とある。いっそ幽霊屋敷として売り出してもうけにしてしまえばいいんじゃないかと思う程に、夜に見るとそういう雰囲気がバツグンにある。まぁ、持ち主も不明だろうからそう簡単な話でもないんだろうけど。

「……」

 その隣に何も立っていない空き地があるんだから、ここは相当いいところだ。幽霊屋敷として売るには。売り出しの看板は出ているようだけど、明らかに古びていて雨風にさらされてサビだらけである。

「……んぁ」

 運転席に座る母からの声掛けに気づく。

 何て言ったんだ?まったく聞いていなかった。

「……あぁ、うんいいんじゃない」

 なんだ。買い物先の話か。

 何店か回るので、この順で行ってこのタイミングで昼食を食べに行くので良いかという確認だった。まぁ、特に時間に追われているわけでもないので自由にしてくださという感じだ。もう昼食もどこでもいい。なんなら家に帰ってからでもいい。

「……」

 そこで会話が終わるかと思えば、すぐに次の話に移る。

 ほんとにこの人は話をするのが好きだよな……その辺は私の嫌いな祖母に似ていて、なんだか嫌だ。私も将来こんなになるのだろうか。無理すぎる。

「……へぇ」

 大抵は仕事の愚痴とか、制作物の構想とか、仕事の愚痴とか、人間関係の愚痴とかで。それに対して私が適当に返事をしているんだけど。

 ……何で母親の愚痴を聞かないといけないんだろうな。

「……まぁそれはねぇ」

 もう気づいた時からこの構図が出来上がっていたから、何も疑問に思わなかったけど。親の愚痴を聞いてそれに対してアドバイスなり意見なりを言うのって子供のすることじゃないよな。するなら父として欲しいんだけど……まぁ、あの人は酒を飲んでいるとヒートアップしてしまうところがあるから、話しづらさはある。基本的にお互い仕事をしているから日中に話す事なんてそうそうないだろうし。なんというか、ホント何でこの二人は結婚したんだろうと思ってしまう。

「……ふぅん」

 まぁ。今日の母の話はあまり興味もない上に、相手がどうにもならないタイプの人間らしいので適当さに拍車がかかって返事をしている。多分今回の愚痴は、吐き出したいだけのやつだろう。溜まりに溜まったうっぷんをこれ以上溜めないように吐き出しているんだろう。

「……そうなん」

 私もその役目を母にしてほしかったものだ。

 学生の頃に色々と考え込んで、休憩の度にカッターを隠し持ってトイレに行っていた頃に。

 それで何か変わるわけでもないのに、カッターだけが私のよりどころだった頃に。

「……そんなんはさぁ」

 溜まり込んだあれこれを吐き出していいよという場所がほしかったものだ。

 溜め込まずに溢していいんだよという場所が欲しかったものだ。

「……うん」

 そうしたら、きっと私はもっといい人生を送れていたかもしれないのに。

 どうしてこんなことになっているんだろうなぁ。

「……」

 一番不安定な時期に、母の愚痴なんて聞かすもんじゃないよな。

 まぁ、今。妹がその被害にあっていないだろうと考えるだけ、いいかもしれない。

 あの二人は、私みたいに失敗しないだろうから、上手くいくだろうから。

「……そう」

 いつから、こんな関係になったんだろうか。

 どこにでもいる親子みたいに、手を握って楽しく笑っていたはずなのに。

 握り返された手のぬくもりなんて、とうに忘れてしまった。

 与えられるのは、仕事の愚痴と、はけ口としての仕事と、これからどうするのだろ言うプレッシャーばかりで。

「……」

 あぁ、なんだか疲れてきた。

 この愚痴いつまで聞けばいいんだろう。

 さっさと目的地に着いてしまえばいいのに。














 お題:カッター・幽霊屋敷・握り返された手

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