表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/102

identity(6)

 ――皆で朝食をとり始めてから程なくして、既に自宅で摂ってきたからとお茶だけ飲んでいたみさが切り出す。

「天司光司さん。いくつか尋ねさせてもらってもいいですか?」

 光司は頬張ったおにぎりを咀嚼し、飲み下すと頷く。

「いいよ、なんだい?」

 みさは小さく咳払いすると、自分の疑問を口にする。

「なんで今日は朝から司馬を連れ回したり、そのあと組み手?とかをしてたんですか?」

「福田さんに頼まれたんだ。鍛えてほしい子がいるって」

 その返答にみさ達は福田に目線を向ける。目線を向けられた福田は啜っていた味噌汁を飲み干してから答える。

「天司家は鎌倉時代に起源を持つ古流武術の創始者にして使い手なんだよ。この先のことを考えて、司馬君の戦闘力を上げようとするなら本職の指導を受けた方がいいかと思ってね」

「なるほど。そうだったんですね」

 福田の回答に南は納得する。

「あんた、本当に何も知らずに強制的に指導されてたのね……」

 そんな南の回答にみさはため息を漏らす。そんなみさにどう返したものか分からず、南は頭を掻く。

「まあ、まさか司馬君に説明する前に早朝からいきなり連れ出すと思わなかったからなあ」

 福田はそう言うと空になったお椀を卓の上に置く。

「古流武術……そんなにすごいんですか?」

 少し興味をそそられたのか、飯塚がおずおずと尋ねる。

「希継は私と融合する前から一族に伝わる戦闘術を身に着けていた。その技術は奥深く、私もこの星での戦うにあたって大いに参考にさせてもらったものだ。先ほどの組手も見ていたが、光司もそれに匹敵する……むしろ継承の過程で洗練された技術を身に着けた結果、希継以上の使い手と言っても過言ではないかもしれん」

「そんなにすごいんですか」

 遠渡星の解説に南は感心する。しかし、遠渡星の言葉を他所に光司は腕を組み、首を傾げる。

「うーん、どうだろうねえ。たしかに歴史が長い流派だし、合戦場でも用いられてきた実績はあるわけだけども。でもまあ結局使い手や状況次第だろうしなあ」

「漫画のように最強の格闘技なんてものはほいほい出てこない……ってことですか」

「そういうこと」

 光司の回答に飯塚はため息を漏らした。

「そうは言うけど君、一度とんでもない大暴れしたことあったよね。あれとか流派の修行のおかげだったりしないの?」

「え!?」

 唐突に差し込まれた福田の一言に光司の表情が固まり、冷や汗が流れ出始める。


「およ、なんか意外な反応だね」

 光司の反応に少々驚いたあいねはみさに耳打ちする。

「あの気まずそうな反応……実は元ヤンで派手にケンカしたとか?」

 そんなみさとあいねのやり取りを横に、光司は福田にこわばった表情で尋ねる。

「あの……福田さん、何故それを?」

「蛇の道は蛇……ってやつかな」

 ぎこちない様子の光司を一瞥した後、福田は電子タバコを取り出して吸い始める。

「どういうことです?」

 福田と光司の間の会話の意味が分からず、南は首を傾げて尋ねる。

「え、いや、それは……」

「前にこの人、南アフリカの方で現地マフィア相手に大暴れしたことがあるんだってさ」

 言い淀む光司を横に、福田が淡々と説明する。

「は?」

 あまりの予想外な内容に、その場にいた一同の視線が一斉に光司へと向く。その視線を受けた光司は気恥ずかしそうに後頭部を掻く。

「……どういう、ことです?」

 恐る恐るみさが尋ねると、光司は苦笑する。

「まあ大した話ではないんだけど、元々商社勤めだったんだ。それで南アフリカの資源地帯と市街を結ぶための通信インフラ整備のプロジェクトに参画してたんだけど……」

「南アフリカ……」

「はあ……」

 自身のこれまでの人生にあまり縁がない土地のせいか、福田以外の者達が間の抜けた相槌を打つ。そんな彼らの反応を気に留めることもなく光司は話を続ける。

「で、その時に敷設してたネットワークが現地のマフィアのテリトリーを掠めてたみたいでね。まあ、そこから因縁つけられたのを皮切りに揉めに揉めてねえ」

「B級クライムアクション映画の導入かなにかですか……?」

 澤野が思わず声を上ずらせる。

「奴らは俺達や、協力してくれている現地住民に脅しをかけてきて、これはまずいことになったかなーと思ったんだよね。で、周りの人達を守るために咄嗟に反撃しちゃって……」

「しちゃって……?」

 南達は生唾を飲み込み、光司に尋ねる。光司は笑顔で頷くと、穏やかに口を動かした。


「そしたら次から次へとマフィアが襲いかかってくるもんだから、全員返り討ちにしてたんだけども……気がついたら全員制圧しちゃった」


 それを聞いた南達は思わず一字一句違わぬ感想を叫ぶ。


「噓でしょ!?」

 

 光司が語る結末、そしてそれに対する皆の反応にも動ずることなく福田は湯呑の茶を啜る。

「やられた側も含めて、それが事実だとする証言が複数あるみたいなんだよね、これが」

「マジかよ……」

 飯塚が真顔で光司を凝視する。そんな飯塚を他所に福田が言葉を続ける。

「でまあ、マフィアをまとめてお縄につかせたみたいなんだけど、中には汚職してた政府の高官関係者とかもいたみたいで……外交問題に発展しかねないとかなんとかで外務省がもみ消しに必死になったらしいよ」

「天司家とご近所づきあいあるレベルで近場で住んでいる私達ですら知らなかった新事実のオンパレードだけど、情報統制敷かれてたんだねぇ……」

 福田の説明にあいねは感心する。

「まあとんでもなさ過ぎて、仮に当時のニュースかなんかで私達がこの話を聞いたとして、信じたかどうかは怪しいわね……」

 みさは遠くを見るような目をしながらため息を漏らす。一方で、南は光司分かっているのか分かっていないのか気の抜けたような言葉を吐き出す。

「はー、とんでもない人に教えを乞うことになっちゃったんですね、俺」

ここまで読んでいただきありがとうございます。

皆様の応援が執筆の励みになります。

もしよろしければブックマークや評価ポイント、感想やレビューなどお願いします。


引き続き、この作品をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ