Identity(5)
――それから約1時間後、星降神社の社務所……。いつも南達が打ち合わせをしたり、食事をしたりしている客間に、福田と対面する形で飯塚が座っている。その横では座ったまま白目を剥いて気絶している南と澤野の姿があった。遠渡星は傍らに座り、そんな二人の様子をじっと観察している。みさはそんな一団から少し離れたところに座り、タブレットを真剣な面持ちで見つめている。
「……はあ、なるほ……ど……?」
飯塚は首を傾げながらも頷く。
「信じられない?」
そんな飯塚をじっと見据えながら福田は尋ねる。福田の真意を測りかねた飯塚は居心地が悪そうにこめかみのあたりを指で掻く。
「ええ、まあ……。司馬っちが何に首を突っ込んでるかとか、そう言う話は説明していただきましたが……どうも現実感が無いというか、なんというか……。にわかには信じがたいというか……」
南の稽古が終わった後に社務所に連れてこられ、これまでの経緯を福田から説明された飯塚だったが、その内容が漫画やアニメのような非現実的なものだったために困惑をしていた。
(まあ、それが普通の反応よね……)
二人の様子を眺めていたみさは、そんなことを思いながらタブレットの表示をスライドさせる。
「ただ……」
みさがそんなことを思っていると、飯塚がポツリとつぶやく。
「ただ?」
福田は飯塚に続きを促す。飯塚は軽く頷くと、自身の考えを口にする。
「司馬っちはあんまり冗談言う奴では無いですし、そんな奴がこんなズタボロになりながら訓練をしてたりするの見ちゃうと本当の話なのかな……とは思えてくるんですよね……」
飯塚の言葉に福田とみさは南を見る。みさ達が来た後も南は光司としばらく組手をしていた。しかし南は微塵も歯が立つ気配はなく、ひたすらに光司に殴られ、蹴られ、投げられ続けていた。それでもそれなりに手加減されていたようで、南の全身にはそれなりの量の擦り傷があるだけだった。
「それにまあ、天司家の人や、あなたみたいな朝起電機の社員、さらに澤野先生みたいな人まで首を突っ込んでいるとなるとますます信じざるを得ないというか……」
「なるほど」
福田が頷いている一方で軽く驚いたみさが横から割って入る。
「ん?澤野さんのこと知ってるの?」
質問に飯塚は頷く。
「ええまあ、先生の授業取ってますし」
「寮の中で鉢合わせた時は全然気づいてなかったけどね」
「うおっ、司馬っち!?いつの間に復活を!?」
突如として意識を取り戻した南に尋ねられて飯塚が驚く。
「ちょうど今」
「驚かすなよ……」
南の回答に、飯塚は心臓のあたりを抑えながら、長く息を吐く。それから気を取り直して答える。
「朝のあれは寮の廊下で人を踏んづけちゃったからテンパって、相手が誰かってことに気を配る余裕までなかったってだけだよ。それに澤野先生とは直接会ったことないし」
「そうなの?」
飯塚の回答に南は首を傾げる。
「ああ。いつも授業もリモートだし、顔じゃなくてアバター映してるからね。しかも声までボイチェン使ってるし……」
「……」
南達の視線が一斉に澤野に向く。
「……何でしょう」
一同の視線がトリガーになったのか、眠そうな疑問の声を上げて澤野が起きる。
「なんでアバターでリモート講義を?」
そんな寝起きの澤野に、南は直球の疑問をぶつける。
(うーん、平常運転)
そんな南にみさは感心する。
「え、だって疲れたおっさんの顔なんて別に若い子見たく無いでしょ」
「おっさん……って澤野さん20代ですよね?」
みさに尋ねられた澤野は頬杖をつく。
「10代や20代前半の子から見りゃアラサーなんてもうおっさんでしょ……。俺、老け込んでるらしいし……」
「まあ、色々苦労してるしねえ」
そう言って福田は懐から電子タバコを取り出す。
「はは……」
(その苦労負わせてる人がよくもまあいけしゃあしゃあと……)
乾いた笑いを浮かべる澤野を見ながら、福田の物言いにみさは内心呆れ返る。
「……ま、一頃よりはマシか」
澤野は誰にも聞こえない様に小さな声で呟く。
「何、苦労というのもある程度の体力があると耐えやすくなったりする。今後も心身は一緒に鍛えていこうじゃ無いか」
客間に入ってきた光司が、会話に割って入る。
「あばばばばばば……ででででででで……でたああああぁぁぁぁっ!?」
光司を見た澤野が青ざめた顔で震えながら悲鳴をあげる。
「おや、心外だなあ。そんな化け物を見たみたいな反応」
「寝不足のところを朝から誘拐同然で強引に連れ出した挙句、無理やり運動させたんだから仕方ないんじゃない?」
福田の言葉に光司は首を傾げる。
「まずかったですかね?」
「そりゃまあ。聞けば君、OBだからって部外者立ち入り禁止な学生寮にも堂々と入っていって司馬君達を連れだしたっていうじゃない」
福田の言葉に南と飯塚が無言で何度か首を縦に振る。
「いやー。OBとして、そして地域に奉仕する神職として在校生鍛えに来たっていったら寮監さんが快く入れてくれたもんでして!」
「……まあいっか。ところで光司君、それは?」
悪びれずにいう光司に対して何かを言うことを諦めたのか、軽く鼻を鳴らした後に福田が尋ねる。その視線の先にある光司の両手には、大量のおにぎりや焼き魚を上にしたお盆が乗せられている。
「しっかり運動しましたからね。やはりその後は食事……というわけです」
「ですです!」
解説する光司の背後からあいねが現れる。彼女もみそ汁やサラダなどが乗ったお盆を手にしている。
そして二人はそそくさと座卓の上に食事を並べていった。
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