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identity(4)

 ――それからしばらく後、星降神社の境内をみさとあいねの二人が歩いていた。

「ふあぁぁぁぁ……」

 みさが盛大な欠伸を漏らす。

「あらま、大口開けちゃって。みさちゃん、眠そうだねぇ」

 あいねが小首をかしげて尋ねる。みさは目をしょぼつかせながら頷く。彼女の顔は朝のさわやかさと対照的に、濃いクマや疲労の色が浮かび上がっており淀んでいる。

「……最近、会議が多くてねぇ……」

「あ!なんかデジタルツインを活用したVRでの観光ツアーのやつだっけ?」

 あいねの疑問にみさが頷く。

「そう……。急に企画が進展することになってね……。街の観光業関係の人達とも連日打合せよ……。そのために資料作ったり、イメージ共有のためのプロトタイプ作ったり……。その間に配信の企画練ったり台本作ったり……。楽しい……楽しいけど流石に手が足りないわ……」

 みさの口端から低い笑いのようなモノが漏れる。

(……大分限界が来てるなあ)

 直近ではあいねも自身の配信は極力みさの手を煩わせない様にしながら回すようにしていたが、その程度では焼け石に水と言うレベルで大量のタスクがみさに降ってきている。

「大変だよねぇ。少し休んだ方が良いんじゃない?」

 死線真っただ中です、限界ですと言わんばかりのみさの顔を覗き込みながらあいねは眉を顰める。

「そうはいかないわよ……。時間が無いんだもの……」

「……」

 そんなみさの反応にあいねは小さくため息を漏らす。

(……聞かないよねえ。うーん、どうしよう……とりあえず福田さんには相談してみるかな……)

 あいねがそんなことを歩いていると……


『うわああああああああああっ!?』


 突如として大きい悲鳴が聞こえてくる。声が聞こえてきたのは社務所の裏の方だろうか。みさとあいねは一度きょとんとした顔で互いを見合わせた後、声がした方へと進んでいく。その間も笑い声と悲鳴、それと何かが畳に叩きつけられるような音が何度も響いて来る。

「こっち……の方よね?」

 みさに尋ねられてあいねは頷く。

「こっちに来るのは初めてだけど……」

 星降神社の裏には神職住宅のほかに複数の建物があるが、みさやあいねもその全てを把握しているわけではない。先ほどからの物音や悲鳴は、どうやらその把握してない建物の一つから発せられているようだ。

「ここって……」

 みさが呟いて建物を見る。どうやら、この建物自体はスマート化が施されていないのか扉が無防備に開け放されている。

「なんだろう?」

 そこにあいねはためらうことなく入っていく。

「また不用心……」

 みさは後ろでため息を漏らすが、疲労から注意する気力も湧かないのか、それ以上は何も言わずに後ろに続く。

「おじゃましまーす……っておよ?」

 中に入ったあいねの目の前には襖が現れる。その隙間から見える向こう側の部屋は畳敷きになっている。しかも、よくみると畳もそこそこ新しいように見える。

「なんなの、この建物?畳もそこそこ新しいっぽいけど……」

 横に並んだみさも疑問を口にする。

 ――その瞬間。


「うわああああっ!?」


 聞き覚えのある声色の悲鳴がし、それから二人の目の前の床にそこそこの質量のある何かが景気の良い音を響かせながら叩きつけられる。

「え!?」

「な、なに!?」

 何が起きたのかわからず、みさとあいねが思わず襖を開けて床の方を見る。

「へ?」

「あれ?」

 そこで目にした人物に二人はまたしても驚きの声をあげる。

「いたたたたた……」

 そこには道着を着用し、畳の上で大の字になりながら呻く南の姿があった。

「……あんた、こんなところで何してんのよ」

 みさはしゃがみ込み、顔を覗き込みながら南に声をかける。

「あ、みさ先輩。おはようございます。あいね先輩もおはようございます」

 声をかけられて初めて二人に気がついた南は気の抜けるような挨拶をする。

「南ちゃん、おはよー」

 あいねも南の挨拶に手をあげて応じる。


「おや、二人ともどしたの?こんなところ来ちゃって」


 またしても聞き覚えのある声がかけられる。それに反応したみさとあいねが、声の主のほうへと目線を向ける。

「福田さん」

 そこには、畳の上に胡座をかいて座る福田のすがたがあった。

「あっ、ほんとだ。おはよーございます」

「おはよーさん」

 福田はあいねの挨拶に手をあげて応じる。

「で、どうしたの?打ち合わせまではまだ時間結構あると思うんだけど」

 尋ねられたみさは、一度立ち上がると福田の方へ歩み寄りながら答える。

「いや……家だと打ち合わせに寝過ごしちゃいそうで怖かったし、集中できなかったからこっちで作業しようかと思ったんですが……どういう状況なんです、一体これは?」

 そう言いながらみさは福田の横を一瞥する。そこには雑に投げ捨てられた死体のような姿の澤野と居心地が悪そうに座っている見知らぬ少年がいる。そしてそんな三人の後ろでは、遠渡星が静かな笑みをたたえながら佇んでいる。

「司馬君の戦闘能力の向上ってことで武術の稽古をつけてもらおうかと思ってね」

 みさの疑問に福田はこともなげに答える。

「武術の稽古?誰がつけるんです?」

「彼」

 みさの問いに福田が人差し指を横に向ける。

「彼?」

 みさとあいねが福田の指先が示す方へ目線をずらす。

「やあ!」

 そこには、道着を来た精悍そうな顔立ち、そしてそれに劣らぬ体格の青年が立っている。

「……どうも」

「どうもー」

 みさとあいねは頭を下げる。

「……」

 それから一度、みさは額に人差し指を当て、目を瞑り考える。それから目を開けて、福田に尋ねる。

「……で、あの人は誰です?ついでに君も誰?」

 みさは笑顔で立っている光司と、居心地悪そうに座っている飯塚……そんな対照的な二人を見ながら尋ねる。

「……飯塚です。司馬の友達です」

 飯塚は後頭部を掻きながら答える。そして、その後に光司が満面の笑みで親指を立てる。

「俺は天司光司!最近、ここの宮司になった天司希継の子孫なんだ!よろしくね!」

 いつのまにか立ち上がっていた南がそれを聞いて腕を組み、頷く。

「へー……そういえばここって宮司さんみたことなかったですけど、貴方だったんですね。それに、天司希継って子孫居たなんて知りませんでした」

「……あんた、相手が誰だかまるっきり知らないでぶっとばされてたの?」

 みさは頭を振ってため息を漏らした。

 

 



 


 

 

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