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identity(2)

「ん……」

 ――翌朝、南の意識が覚醒する。ぼやけた視界に映るのは自室の壁と、ベッドの上に転がっている充電中のスマートフォンだ。

(そうだった……。昨夜は出撃した後、帰ってきてさっさと寝たんだった……)

 はっきりとしない意識の中でそんなことを考える。どうやらなんらかの通知があったようで、目の前でスマホの画面が点灯し、ロック画面が表示される。その画面に示されていた時刻は5時45分。かなりの早朝だ。

(目覚ましより……早く目が覚めてる……)

 記憶では、アラームをセットした時間は7時半。まだ大分時間がある。

(もう一眠りしようかな……)

 そう思った南は一度寝返りをうつ。

 

(――?)

 

 その瞬間……予期せぬものが視界に映り、南の思考が停止する。目の前に映ったのは男の顔だった。歳の頃は南自身より少し上くらいだろうか。生気に溢れた精悍な顔立ちをしている。


 一体、この人物は何者なのか?


 何故、学生寮の自室に見知らぬ男がいるのか?


 もしや幽霊の類だろうか?


 そんな南の思考に構わず、男は片手をあげてさわやかな声を上げる。

「やあ、おはよう!」

「……おはようございます」

 どうやら幽霊の類ではないらしい。南は覚醒しない頭でのったりとした返事をする。

「さあさあ。今日もいい天気だよ。さっさと起きて朝の運動と行こうじゃないか」

「はあ」

 しかし、南の内心とリアクションを意に介することもなく、目の前の男はベッドから出るように南を促す。

「……」

 南は釈然としないままベッドから起き上がる。

「まずはシャワーでも浴びて意識をシャッキリさせようか!昨日は風呂もろくすっぽ入らず寝ちゃったんだろう?さあ行った行った!」

「はあ……」

 男に言われて、混乱しつつも南は素直に寮の共同浴場へ向かおうとする。――その瞬間……


「うわぁ!」


 聞き覚えのある悲鳴が廊下から聞こえる。それを聞いた南の意識は今度こそはっきりと覚醒する。そして、事態を把握しようと考えると同時に身体が動いていた。南は勢いよく自室を飛び出す。

「うんうん。素人なりに実戦経験しただけはあるね。判断は中々早い。ちょっと無警戒だけど」

 そして、南の背中を見ながら男は一人頷いた。

(何事……?)

 そんなことを考えながら飛び出した南は、直後目にした光景に困惑する。

「眠い……だるい……嫌だ……助けて……」

「なんなんだよ、この人……。なんでこんなところで……」

 そこには、糸の切れた人形のように床に転がりながら呪詛を吐くジャージ姿の澤野と、それを見下ろしながら困惑する飯塚の姿だった。どうやら悲鳴は飯塚のものであったらしい。


 ――それから1時間後。

「ちくしょー!なんでこんなことになってるんだ!?」

 飯塚は叫びながら星降スマートシティの一角にある歩道橋の上を走っていた。

「……なんでだろう」

 その横で同じく走っていた南は首を傾げる。

 そんな二人を後ろから追い立てるように走る男が、さわやかな笑顔で声をかけてくる。

「はっはっはっはっはっ!元気いっぱいで結構結構!しかし、そんなに飛ばしてると持たないぞ!まだ予定の半分も走ってないからな」

「……え……まだ半分行ってないの?」

 それを聞いた飯塚が顔を強張らせる。

「そもそもどこまで走るんだろ?」

「分からねえ……」

 南の問いに飯塚は首を左右に振る。

「っていうか……そもそもあの人は誰なんだよ?」

 飯塚に問われて、今度は南が首を左右に振る。

「分かんない」

 南の反応に飯塚はため息を漏らす。

「それに、あの人に背負われてるのうちの情報学基礎とかゲームプログラミングの授業担当してる博士の人だよな?どうしよう、寮の廊下で倒れてるところを気づかなくて踏んじゃったんだけど……」

「それもどうしたらいいかはわかんないや……」

 そう答えてから、南は改めて背後の男の方に目線を向ける。たしかに男は体力の限界を超えてしまい白目をむいている澤野を背負って走っている。それでいながら呼吸が乱れている気配が一切無い。まったく恐ろしいフィジカルだ。

(……朝から澤野さんひっぱり出せてるってことは、福田さんの関係なのかな……)

 南はそんな推理をしながら走る。

(そういえば……)

 南は周囲の景色に目線を配る。

 ――近くに見える河川、その横に設えられた運動場、そして対岸に見える工場……そのどれもに見覚えがある。もっとも普段は自動運転車の車内から窓を通してぼんやりと眺めていたそれらは、歩道橋の上からという異なる角度から見てみると、自身が知っているものとはまるで別物のように見える。

(なんか新鮮かも。でも多分……こっちの方角ってことはやっぱり……)

 男が自分達をどこに連れて行こうとしているのか南は察する。

「……」

 ゴールがどこか見えてきて不安が解消されてきた南は、一度下を向いて大きく息を吸って吐く。

「よしっ!」

 呼吸を整える目線を上げると、南は走る脚を早める。

「あ、おい!待てよっ!つーかどこが行先か分かってんのか?」

 南の加速に驚いた飯塚が驚いて追いかける。

「うん、多分あってると思うよ」


 その様子を見た男は小さく笑う。

「……なるほど、察しも悪くないみたいだ」

 そんな男の背中の上で澤野が呻く。

「うぅ……気持ちが悪い……。ここどこ……」

 男は苦笑する。

「いやー、ごめんね。でもほら、研究者は体力勝負なところあるし、鍛えといて損は無いと思うよ。ここから頑張っていこう」

「そんなこと……言われ……うぅぅぅぅ」

 澤野の言葉を遮るかのように男が加速する。

「さてさて、とりあえず急ぎますか。星降神社まで」

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。


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