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identity(1)

 ――高町幸音騒動から数日後……。

 

 デジタルツインの街の上空に巨大な鳥居状のゲートが開かれる。そのゲートから現れた巨人――スターゲイザー・アークは、轟音を鳴り響かせながら街に着地する。

『司馬君。目標1km先、右方向だ!』

 スターゲイザー・アークに憑依した南の耳に、澤野からの通信が入る。

「分かりました!」

 南が返事をすると同時、視界にナビゲーションのための矢印が現れる。それに従い、南が視線を動かした先にはビルの屋上で縄に縛られた女性がいる。

「今回の被害者はあの人ですか……」

『そう。歌い手のYUKIよ』

 南の呟きにみさが答える。

「歌い手?普通の歌手と何か違うんですか?」

 南の相も変わらない世間知らずな質問にみさがため息を漏らす。

『ネット配信で歌う人と思っとけば良いわ』

「はあ。しかし……一体何が理由で炎上したんで……す……?」

 みさに問いかける南の声が急に上擦る。

『?どうしたのよ?』

「ええと……なんというか……なんだ、あれ……」

 そんな南の様子を訝しんだみさに尋ねられるも、南は困惑の声を上げたきりである。

『?何その返事?』

 埒が明かないと思ったみさは目線を戦いの様子を中継しているディスプレイの方へと向ける。そこには、YUKIを取り囲んでいたジモク達が合体して2体の巨大なジモクとなった姿が映っていた。これだけならば、これまで経験した出撃と大して違いは無い。問題はその姿である。片方のジモクは巨大なきのこ、もう片方のジモクは巨大なタケノコに手足を生やしたような姿をしている。

『なるほど』

 その姿を見たみさが納得の声を上げる。

「なるほどって……あれが何か分かるんです?」

 南の質問に、通信越しにみさが鼻を鳴らす。

『あれ多分、市販のチョコお菓子モチーフのジモクでしょ』

「は?」

 みさの言っていることが分からず南は間の抜けた声を上げる。

(あれが……お菓子モチーフ?)

 困惑しながら南は目の前のジモク達を見る。

 ――すると、さらに困惑する事態が起こる。なんと、目の前の二体のジモクが互いに同士討ちを始めだした。

「ええっ!?」

 予想外の事態に南が驚きの声を上げる。そして、そんな様子から南の状況に対する理解度を察したみさが解説を続ける。

『……件のお菓子、きのこの形とたけのこの形の奴があるんだけど、どっちがおいしいかって言うジョークがあるのよ』

「どっちも変わらないのでは?」

 南の正直な感想にみさは苦笑する。

『そりゃあね。まあ、どっちがおいしいか論争する……というごっこ遊びを楽しむジョークみたいなもんね』

「はあ……。しかし、どうして目の前のジモク達がそのお菓子の姿をして仲間割れを?」

『今回の被害者は、自身の雑談配信できのこたけのこ論争を冗談で煽ったのよ。そして、リスナー達も悪乗りしてそれに乗っかったところを炎上扱いされてククライに取り上げられたってワケ』

「なるほ……ど……?」

 みさの説明を聞いた南は、ジモク同士の戦いもそっちのけで、なんとも言えない間の抜けた声をあげながら首を傾げる。それに合わせてデジタルツイン上のスターゲイザーも首を傾げる。

『まあ、本人に対してそこまでヘイト向いてない……と、いうか冗談の内容を反映してきのこ派とたけのこ派のジモクで互いに争ってるくらいだから、各個体はそんな強くないと思うわよ』

「そういうもんですか」

 南は尋ねながら必殺の光線技であるアークスマッシュを二体のジモクに向けて放つ。アークスマッシュを受けたジモク達は抵抗することもなく、あっけなく光の粒子となり、空気中に霧散する。

「あ、本当だ」

 その結果を見た南は感心する。

『あんたそういう時にためらいゼロで技をぶっぱするわね……』

 南の身もふたもない振る舞いにみさは呆れかえる。

「まずかったですかね?」

『あたしの見立てが間違ってる可能性もあるんだから……』

「ああ、なるほど。気をつけます」

『まあいいけど……』

 相変わらず素直な南の反応に、みさはそう返すとため息を漏らした。


「いやー、南ちゃんお疲れー!」

 ジモクとの戦いが終わって程なくして、配信を終えて防音ブースから出てきたあいねが福田達と会話をしていた南に声をかけてくる。

「お疲れ様です」

 南は返事をすると頭を下げる。そんな南の様子を見ていたあいねはあることに気が付く。

「およ?もう荷物まで持っちゃって。すぐ帰る感じ?」

「はい。今日は出撃した時間遅かったですし」

 そう言って南は室内の壁に掛けられた時計に目線を向ける。時計が指し示す時刻は既に22時を過ぎていた。

「たしかに。もういい時間だねえ」

「ですよね。でも、明日は朝一で大学でレポート書こうと思ってるので……」

「なるほど」

 あいねが頷いていると、福田が横で電子タバコの電源を入れて吸い始める。

「感心感心。そういうことならさっさと帰って寝なさい」

「そうさせていただきます。お疲れさまでした」

 南はお辞儀をすると、配信室から出ていく。そんな彼の背中に室内の面々は労いの挨拶を投げかけた。


 ――しかし、その時南は知る由もなかった。南を見送る福田が何やら人が悪そうな意味深な笑いを浮かべていたことを。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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