fake town baby(6)
――スターゲイザーが巨大化したジモクと戦闘を始めたのと時を同じくして、星降市の市役所庁舎のとある会議室では会議が行われていた。
会議室内のスクリーンには『星降市花火大会 イベント運営について』というタイトルのスライドが投影されており、その夜で一人の男性が会議の参加者に身振り手振りを交えながら話をしている。
「今年の9月末の花火大会ですが、会場の前売り券が当初の予想よりも早く売れています。この売れ行き速度から参加者、及び当日の会場付近に集まる人数はおよそ30万人になると予想されます。これは昨年から7万人の増加になるため、イベントの出店の配置や群衆の誘導、イベント会場の警備に去年以上の人員が必要になると見込まれます」
それを聞いた出席者の一人が手を上げて尋ねる。
「イベントの参加者が増えること自体は喜ばしいことですが、その場合はイベントの運営がかなり複雑化すると思われます。そちらについて問題は無いのでしょうか?」
その問いに、説明をしていた男性が横に立っている女性に目配せをする。それを受けて彼女は頷くと、タブレットの操作をしつつ説明を引き取る。
「はい。こちらをご覧ください」
女性がそう言うと、今度はスクリーンに星降市の一角と思われる空間の映像が映し出される。
「三年前から継続的にPoCを行っていたデジタルツイン上でのシミュレーションを用いたイベント運営プランの事前検証ですが、実際のイベント運営時に収集したデータと比較したことにより有効性が示されました」
彼女がそう言うと、スクリーン上に投影されている空間上に浴衣を着た人や警備員、出店などが配置される。そして空間上に配置された人々がモノの売買や移動、食事等を始める。
「よって、今年からはシミュレーションによるイベント運営のプランの事前検証を本格的に導入する予定です。様々なイベント運営プランの立案と検証を繰り返すことで、精度高く、そして安全・安心・快適な花火大会の運営を目指します」
その発言と同時に、同じ場所に対して出店や警備員の配置などを変えた場合を検証したシミュレーションの状況と、様々な指標に関するグラフが複数表示される。
「このシミュレーション結果を関係各所と共有し、事前協議することにより当日にスムーズに関係人員が動けるようマニュアル整備などを進めます」
その発言を聞いた別の参加者が、再び手を上げる。
「シミュレーション結果の共有とはどのようにされる予定でしょうか?このように俯瞰的にシミュレーション結果だけを見ていると、当事者感が欠如してしまい、情報共有の質が低下する可能性もあると思いますが……」
指摘を受けた女性は、今度は傍に立つ先ほど説明をしていた男性に目配せをする。男性の方は頷くと質問者に市販のVRゴーグルを持って近づき、それを手渡す。
「こちらをおかけください」
質問者は頷くと、VRゴーグルをかけた。
質問者の男性がVRゴーグルをかけると、スクリーンに一人称視点の映像が表示される。どうやら、視界に映っているのはシミュレーションが行われている空間らしく、周りに浴衣を着た人達が歩いている。
「このようにVRを用いて、関係者には実際の現場に立ったようにシミュレーション結果を確認してもらい、プランの検証や現場でのオペレーションの作りこみを行っていく予定です」
「なるほど……」
質問者はそう言いながら首を振り、視界を動かす。
「このVRは市販のスマートフォン用VRゴーグルとアプリを利用する予定ですので、コストも抑えられる見込みです」
「!?」
男性の説明を聞いていた質問者は、ふと大きい爆発音のような音が聞こえたために首を振って視界を動かす。その先の空に、大量の青白いまばゆい光の粒が大輪の花のように広がる。そして、その一粒一粒が夜の闇に溶けるように消えていく。その美しさに男性はため息を漏らす。
「おや。イベントの運営どころか花火のシミュレーションももう用意されてたんですか?随分と準備が良いですね。それにこれはまた出来が良い……」
それを聞いた説明をしていた男性と女性は一度目線を合わせた後、互いに首を横に振る。それから困惑した様子で男性に答えた。
「いや……そういったものはまだ用意していないはずですが……」
「え?」
その回答に男性は首を傾げる。それと同時に、スクリーンに映し出された映像が傾いた。
時を同じくして、デジタルツイン上で一ノ瀬は空に広がる光を見上げていた。
「……綺麗だな……」
思わず一ノ瀬の口から正直な感想が漏れる。
「!?」
その感想をつぶやいた瞬間、一ノ瀬は自身の異変に気が付く。自分の身体が空に消えていった化け物たちと同様に光の粒へと分解されて消えていく。
「これは……」
一体何が起きているのかわからず、一ノ瀬は呟く。一ノ瀬は、驚きはしたが不思議と嫌な気分はしない自分に気が付く。それから改めて怪物を倒した巨大な人型の方を見る。
「……」
巨大な人型も同様に光の粒へと分解され、消えようとしていた。
「終わった……ってことなのか?」
一ノ瀬の言葉に、巨大な人型は何も答えない。だが、互いに消えていく中で最後にお互いの目が合ったような気がした。
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