fake town baby(2)
「どうしたい……ですか?」
何故今、遠渡星がこのようなことを聞いてくるのか分からず南は俯く。そんな南を見て遠渡星は微笑を浮かべる。
「なに、そんなに肩肘張って考えすぎることはない。ただ、この一連の戦いに纏わる様々な経験をして、君の中で何か思うところはあったのか、少し聞いてみたくなってな」
「……」
遠渡星の言葉に南はしばし考え込む。そんな南の、南自身の言葉を遠渡星は静かに待つ。
「そうですね……。助けたい、そう思いました」
そう言って南は顔を上げる。
「ふむ」
そんな南の目を遠渡星は真摯に見据える。
「今まで、自分は"しないといけない"と思って行動する事が多かったと思うんです」
――母の機嫌を損ねないようにしないといけない。
――自分の心を守るための選択肢を選ばないといけない。
そこに自分の意思というものは無かったように思う。今、戦っている事だってそうだ。別にヒーローの真似事なんて、したいと思ったことなどかけらも無い。ただ状況に流されて、その時に選ばざるを得なくなった選択肢の中から、自分にとって利がありそうなものを選んだ結果に過ぎない。
「この間、研究室で話をした時に……烏滸がましいかもしれないけど、一ノ瀬先輩はそんな自分に似てる……そう思ったんです」
遠渡星は目を瞑り、南の次の言葉を待つ。
「一ノ瀬先輩は自分を守るために逃げた先で、自分自身の大切なものを見つけ、そのために進んでいました。――そんな人が今の俺を肯定してくれました。そして、俺にも大事なものが見つかるかもしれない、だから焦ることはないと背中を押してくれました」
それから南は大きく息を吸う。
「だから俺は……あの人を助けたい。自分の金銭的な問題とか、誰かの大切な人だからとか、そう言ったことじゃなく……自分にとって身近な尊敬できる人だから、自分自身の意思で助けたい……そう思ったんです」
その言葉を聞いた遠渡星は、静かに目を開き頷く。
「君の想いが聞けてよかった」
それから一ノ瀬と同様に右手を差し出す。今度は南は躊躇うことなく、その手を握る。
「さて……この戦いの幕を下ろしに行こうか、南」
「はい!」
南は頷く。それから遠渡星の手を離すと、ランジャ•チェイサーを呼び出し、飛び乗った。
「もーっ!毎度毎度邪魔してくれちゃって!あいつ、許さないんだから!」
出薄駅周辺で整列する大量の罪袋を被った男達の映像を背景にククライは頭を掻きむしる。そんなククライに応じて、コメント欄には『まじ許せねえ』『断罪の邪魔すんな』などと言ったコメントが流れる。
「ほんとだよねえ」
ククライはそれらのコメントに頷く。そんなククライの反応の傍ら、さらにコメントが流れていく。
『イケメン無罪とか許されない』『女絵師と乳繰りすぎて善悪の判断を見失ったような配信者は必ず断罪されるべき』『こんな可愛い美少女と……許せねえ……』
「女と乳繰り合ってる……?」
ククライの配信のコメント欄を見ていた澤野が疑問の声を上げる。
「……今までの話を聞いている限りではそういう印象は無いんだけどな」
そう言って首を傾げる澤野の後ろで、福田がタブレットを操作する。
「多分これじゃないかなあ、そう言われた原因」
福田がそう言うと同時、ディスプレイの一つにSNSの画面が表示される。これは、一ノ瀬が正体バレするきっかけとなった演劇サークル・ライトイヤーズのメンバーの投稿だ。
「ああ、そう言うことか」
その投稿内容を改めて見て、澤野はククライの配信のコメントについて納得する。
「ど、どういうことでしょうか?」
男二人が納得している理由が分からず、西山が尋ねる。福田と澤野は一度目を見合わせる。それから澤野は後頭部を掻き、答える。
「んー、だってこの写真……顔は隠してあるけど見るからに女性だらけじゃない」
「唯一顔出しして映っている『美少女』は司馬君なんだけどもね。まあ、彼が男であるということはこの写真だとわかりづらいか」
澤野は福田の補足に苦笑しつつ説明を続ける。
「まあ、最終的に身バレして美形だと分かった人物が大量の女の子とワイワイ楽しくやってました……なんてなったら、嫉妬する奴が大量に湧くのもやむなしかもね」
「なるほど……」
自身がその現場にいた女性の一人であったこともすっかり忘れているかのように西山は感心する。
「まったく……。私は別に楽しくワイワイしていたつもりなんてコレっぽっちもないんですがね……」
澤野の解説を聞いたみさはため息を漏らす。そんなみさの様子に澤野は苦笑する。
「でもこれ、収穫かもしれませんね」
「それはどういうことだい?」
福田が興味深げに、みさに言葉の続きを促す。
「ちょっと今の話聞いてて気になったんで、ククライの配信のコメントを、今回、前回、前々回でテキスト分析をして比較してみたんです。そしたら、今回の配信は対象の断罪を諦めない粘着性の指標が高い傾向が見られました」
「うーん……。嫉妬のパワーってのは恐ろしいね……」
澤野はしみじみとため息を漏らす。一方、福田は興味深げに腕を組む。
「なるほどね。つまりリアルタイムに配信のコメントを分析することで、ジモクの行動特性や……うまくいけば攻撃パターンなんかも予測できるかもしれないってことか」
「まだ仮説ですが……。この戦いの後に検証してみる価値はあると思います」
みさのその言葉を聞いた福田は、改めてスターゲイザーの状況を映しているディスプレイを見る。そこには、ランジャ・チェイサーに乗って移動しているスターゲイザーの姿と『接敵まであと100秒』という表示が映し出されていた。
「とりあえずは、この戦いを乗り切ろうか。もう大詰めだ」
その言葉に配信室にいた者達は頷いた。
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