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けっかおーらい(3)

 星降神社に設えられた配信室の片隅で、福田は電子タバコを吹かしながらククライの配信を眺めていた。その傍ではみさの指揮のもと、あいねが配信を進めている。

「……なるほど、こういう盛り上げ方か」

 彼はそういうと、電子タバコを吸い始める。

「どういう意味です?」

 その横で、出撃まで待機をしていた南が福田に尋ねる。南の反応に福田は一度、目線を中空に向けた後に改めて南を見る。

「高町幸音がみんなのイメージする理想の姿から外れた……これはファンに対する裏切りだ!って印象付けることでみんなの怒りを煽ってるんだよ」

 福田の説明を聞いた南は首を傾げる。

「そんなバーチャルストリーマーに対する皆のイメージって一致してるものなんです?」

 南の質問に福田は苦笑する。

「まあ、一致してる部分もあれば、そうじゃない部分もあるとしか言いようがないよ。今回のククライが面倒なのは『ファンを大事にする王子系』ってイメージから『公明正大』ってイメージまで拡大解釈し、それに反して身内贔屓をしようとしてるという筋書きに持っていったってことだ」

「……それに反した先輩は『断罪』して、正さなければいけない……そういうストーリーってことですか?」

「そういうこと」

 南の理解に同意した福田は、一度電子タバコを吸い、そして吐き出す。

「勝手なイメージを人に押し付けて、そうじゃないから間違ってるなんて……そんなの、対応なんてできるわけないじゃないですか……」

 南はそう言って俯く。その反応を見た福田は鼻を鳴らす。

「……まあ、君は特にそう考えるだろうな……」

 福田は南には聞こえないように小さく呟く。それから気を取り直して改めて答える。

「だからまあ、顔を売る商売ってのはイメージやそれに合わせた振る舞いのコントロールが難しいんだ。とはいえ、今回の件に関してはそもそもの発端が言いがかりみたいなもんだし、件の先輩が余計なことを言わず、ククライの配信を何度か乗り切ることができれば事態は沈静化するでしょ。だから……」

 福田はそう言って南の肩を叩く。

「頼んだよ」

 南は無言で頷いた。


「ん……」

 身体に違和感を覚えた一ノ瀬は、不意に目を覚ます。

「ここは……?っていうか、寝てた……?」

 そう呟きながら一ノ瀬は首を振る。まだ不明瞭な意識の中、視界に映る光景に違和感を覚える。自室や大学の指導教官の個室とも異なる見覚えのない風景……特に目の前にある巨大な時計は一体何なのか?そこまで考えたところで、一ノ瀬は自身が簀巻きのような状態で拘束された上で天井からぶら下げられていることに気がつく。

「は?」

 そこで彼の意識が一気に覚醒する。

「これは一体……?」

 一ノ瀬がそう呟いたその瞬間――

 突如巨大な時計の方から鐘の音が鳴り響く。どうやら時間が6時になったことを知らせるためのものらしい。さらに時計から何やら明るい音楽が流れ始める。一ノ瀬にはその明るさがかえって不気味に感じられた。

「ここって……」

 だが、その音楽と巨大時計が一ノ瀬に、自身がいる場所がどこかを思い至らせた。

「地下鉄星降駅のコンコース……?なんでこんなところで俺は吊るされているんだ……?」

 何故自身がこのような状況になっているのかわからず一ノ瀬は困惑する。普段利用している見慣れた場所が、今はとても不気味に見えた。


「さあ、6時を告げる鐘も鳴り、この配信も盛り上がってまいりました!」

 吊るされている罪袋を被せられたアバターを見ながらククライはリスナー達に向けて叫ぶ。そしてそれからククライはわざとらしく涙を拭うようなしぐさをする。

「ごめんなさい、高町幸音先輩……。同じバーチャルストリーマーとしてこんなことはしたくないんですが……でも、先輩を正しい道に戻すためには……私達の"正義"の鉄槌で目を覚まさせる必要があるんです!」

 そんなククライの言葉にリスナー達は同調する。

『そうだそうだ!』『私達の好きだった高町幸音に戻って!』『目を覚まして!』『俺達で高町幸音をあるべき姿に戻すんだ』

 そんな視聴者の言葉にうんうんと頷いたククライはいつものように視聴者を煽る。

「それじゃあ今日も元気にやっていきましょう!だーんざい!だーんざい!ほらだーんざい!だーんざい!」

『断罪!』

『断罪!』

『断罪!』

『断罪!』

『断罪!』

 リスナー達はそんなククライのコールと同調し、盛り上がる。それと同時に、コンコースの天井から黒い人型達がワイヤーのようなモノを利用して、罪袋を被せられたアバターと同じ高さまで天井から降下する。


 ククライの配信の様子、そしてあいねの配信の様子を見ていたみさが南に叫ぶ。

「司馬!GO!」

 南は頷くと柏手を打つ。

「掛けまくも畏き遠渡星命 以下略ッ! アバターライド!」

 そういうと南はアクロスを装着し、いつも通りにソファへと倒れこむ。それを見た福田とみさは顔を見合わせる。

「……省略、出来るんだ……」

「みたいだねぇ」

 その後ろで遠渡星が腕を組み頷く。

「南も大分私の霊力になじんだからな」

 その回答を聞いた福田とみさは再び顔を見合わせた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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