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けっかおーらい(2)

 みさの言葉を聞いたあいねはため息を漏らす。

「身元がはっきりしちゃえば一ノ瀬さんをデジタルツイン上に落とせるもんね……」

 あいねの言葉に澤野が頷く。

「こうなった以上、ククライが動き出すのは時間の問題だ」

「っていうかもう、ククライ動いちゃってるみたいなんだけどね」

 澤野の相槌を聞いた福田が頭を掻きながらボヤく。

「え!?」

 澤野が驚いている横で、みさが表情を険しくする。そんな二人の様子を横目で見ながら、福田はタブレットを再び操作する。それに伴い大型ディスプレイでは、ククライのアカウントが表示される。

「これは……」

 それを見た南は思わず声を上げる。ディスプレイにはククライの最新の投稿が表示されている。投稿されたのは半日程前だ。その内容をあいねが読み上げる。

「えーと……『緊急生放送!本日夕方にファンを裏切りトレパク絵師擁護で話題のバーチャルストリーマーを断罪!』……かぁ……」

 あまりにもな内容にあいねは思わずため息を漏らす。

「……まあ、内容はいつも通りって感じではあるか……」

 澤野はそう言うと頬杖を突く。そんな澤野を横目に福田は鼻を鳴らす。

「なんにせよ、配信開始まであまり時間はなさそうだ。みんなククライの配信が始まるまでに、各々準備に取り掛かってくれるかい?」

 福田の言葉に、その場にいた一同は頷いた。


 ――まるで城を背景にした演劇のような舞台の空間に、舞台袖からククライが軽やかなステップを踏みながら現れる。それから片膝をつき、右手を伸ばして三文オペラのようなわざとらしい名乗りを上げる。

「あぁ~!今日もみんな元気かな~?みんなのAIバーチャルストリーマァァァ、ククライちゃんだよぉぉぉぉ!」

 その様子にコメント欄が活気づく。『いきなりどういうテンション!?』『なんだ急に壊れたか?w』『様子がおかしすぎるw』などと言ったコメントが流れてくる。

「いやあ、今日の断罪相手はなんたって中性的王子様?王子様系女子?な方だからね~。ちょっとこっちも姫とか王子とかそっちに寄せた演出取っちゃった!」

 そう言ってククライはウィンクをし、下を出しながら首を傾ける。そんなククライの仕草に『可愛い』『たまんねえな』といったコメントが流れる。そんなコメント欄の様子をみて一度頷くと、ククライは本題に入る。

「それじゃあ、本題入りましょう!今日の断罪相手はぁ……とあるバーチャルストリーマーですっ!」

 ククライがそう言うと、コメント欄にまたも大量のコメントが流れ出す。『ついに同業者を断罪か』『今話題の渦中の人か』といったコメントが配信画面の中を流れていく。

「なんとこの人……あろうことかトレパク絵師を庇ったんですね~。で、どうも調べてみると……この絵師とバーチャルストリーマー……個人的に知り合いらしいですよ!」

 ククライの発言にコメント欄が軽く反応する。『らしいね』『そうだったのか』といった感じで、知っている人とそうでない人で半々といった割合であろうか。そんなコメント欄の様子を見ながら、ククライはまたしても仰々しい三文芝居を始める。

「あぁ~なんと嘆かわしいことでしょう~!本来ならば、身内であろうと不正があるならそれを正すべき立場の人が~私情に目が曇るなんて~!それが~ファンのみんなが愛する~”王子様”のあるべき姿でしょうか~?」

 その問いかけに視聴者達は応える。『まあ、気持ちは分かるけどやっぱ身内びいきは良くないよな』『自分の推しに同じことされたら許せないよな』『自分は推してたから正直許せないかな』といったコメントが画面を流れていく。最後のコメントにククライは力強く反応する。

「そうっ!やっぱりファンがつくような活動をしているんだからさ、みんなが持ってるイメージを大事にしてほしいよね~?」

 ククライの再度の問いかけに視聴者達が同意する。そんな様子を見てククライは人の悪い笑みを浮かべる。

「個人的な感情で、そのイメージを投げ捨てるなんてファンに対する裏切りだよね?」

 その言葉に視聴者達は『そうだよなあ』『それはやっちゃだめだよなあ』と言った反応をする。

「ファンを裏切るような配信者は……ダ・ン・ザ・イ……されるべきだよねぇ?」

 ククライのその言葉に、コメント欄が『されるべき』『断罪すべき』といった言葉で埋まり始める。それを見たククライは笑顔でうんうんと何度も頷く。そして、それからコールを始める。

「だよねぇー?それじゃあ皆さんご一緒に!だーんざい!だーんざい!ほらだーんざい!だーんざい!」

 そんなククライのコールに呼応し、動画のコメント欄に断罪の文字列がさらに溢れかえる。

 直後、ククライのいる場所の風景がガラリと変わる。今度は、地下街の中のホールのような場所だった。商業テナントへ入る通路の上に巨大な時計がしつらえられている。

 その時計の前に天井から吊り下げられた、罪袋を被せられたアバターが現れる。そしてその下には黒い人型がわらわらと現れ始めた。

 


 

 

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