けっかおーらい(1)
――南が一ノ瀬によってメイクアップされた二日後、星降神社の社務所の一室では、みさ、福田、澤野と西山の四人が座っていた。みさは額を抑え、俯いているのに対し、福田はいつもと変わらぬ様子で煎餅を齧っている。西山と澤野は気まずそうにみさと福田の間で目線を泳がせている。
「おつかれさまでーす!」
そんな部屋の重たい空気を吹き飛ばそうとするかのように、明るい挨拶と共にあいねが入ってくる。
「お、おつかれさーん」
そんなあいねに福田が軽く応じる。よく見ると、その後ろには南と遠渡星もいる。
「二人とも一緒だったか」
「はい。たまたま鳥居のところで鉢合わせしまして……」
そこまで言ったところで、南はみさが既に室内にいること、そして何やら深刻な顔をしていることに気がつく。
「およ、みさちゃん?どったの?」
南同様、みさの様子がおかしいことに気がついたあいねが声をかける。そんなあいねの質問にみさが小さくため息を漏らした後に目線を上げる。
「……今から福田さんから説明があるわ。まずは二人とも座って」
「?」
予期せぬみさの反応に、南とあいねは顔を見合わせた後首を傾げる。それから改めて二人してみさの方を見ると、みさはため息を漏らしつつ『早く座れ』というかのよう手招きをする。それを見た南達は大人しく卓に着く。
「さて……」
二人が卓についた事を確認したところで福田が話題を切り出す。
「まずは、大事な知らせ。一ノ瀬千秋が高町幸音の中身だと身バレした」
「!!」
福田の言葉に南は身を強張らせる。
「予測はしていたとはいえ、ついにこの時が来ちゃったんですね……」
南がそう言うと、一度頷いた福田がお茶を啜る。その様子を見ながらあいねが尋ねる。
「ちなみにどういった風にバレたんですか?」
「――!!」
その言葉を聞いた瞬間、今度は澤野と西山の表情が強張る。
「?」
その様子をみたあいねは首を傾げる。
直後……
「はあぁぁぁぁぁぁぁっ……」
俯いていたみさが盛大にため息を漏らす。
「……みさちゃん?どうしたの?」
みさのただならぬ様子に思わずあいねが尋ねる。それを聞いたみさは顔をあげて、渋々と答える。
「……一ノ瀬先輩が身バレした原因は……私達よ……」
みさのことばを聞いた南とあいねは目を丸くする。一方で西山が気まずそうに目線を下に向ける。
「……どういうことです?」
みさの言ったことの意味が今一つ理解できなかった南が尋ねる。
「それはこういうことだよ」
そんな南の疑問に応えたのは福田だった。福田は室内に置いてある大型ディスプレイに、自身が手にしているタブレットの内容を表示させる。
「これってSNSの……?」
南が尋ねると、福田が頷く。その横で画面を眺めていたあいねが軽く驚きの声を上げる。
「あっ!これってもしかしてこの間の演劇サークルの人達のアカウント?」
「……そうよ」
あいねにみさが重たい声で同意する。みさが凹んでいる理由が未だにわからないあいねは、引き続き福田が示した投稿の内容を読み上げ始める。
「えーと、なになに……?『あの有名な一ノ瀬先輩、実はメイクが趣味だったんだよね!中性的なイケメンでメイクが得意って、まるでどっかのバーチャルストリーマーみたい!と……いうわけで、先輩の腕とうちのサークルの衣装で……作り上げちゃいました、美少女!』」
そんなあいねの読み上げに応じて、福田は画面をスクロールさせる。するとその先には、一ノ瀬により仕上げを施されている最中の南と、包帯を巻いている一ノ瀬の手が写っている写真が表示される。
「あ……」
「あっ!」
それを見た南とあいねは思わず声を上げる。そしてあいねは恐る恐るみさに尋ねる。
「みさちゃん……もしかして、一ノ瀬先輩の身バレの原因って……」
みさは無言で頷く。そんなみさにかわって、福田が代わりに答える。
「まあ、そういうこと。この間の一件に関わった演劇サークルの子達が他意なく書き込んだ内容がきっかけで、一ノ瀬千秋が高町幸音だって考える人が出てきちゃったのよね。そこからはネットの有志達が動き出しちゃって、あれよあれよとまあ……あっという間だったねぇ」
福田は腕を組み、しみじみとため息を漏らす。
「ぬあーっ!もう!よりによってこの私がこんなミスを犯すなんて!演劇サークルの連中入ってきた時なんで止めなかったのか!ああいうリスクがあったことくらい分かってたでしょうが!!」
みさは奇声をあげて頭を掻きむしる。その様子に澤野や西山は思わず身を強張らせる。
「まあ、なっちゃったもんはしょうがないでしょ。問題はここからどうするか、だね」
そんなみさを福田は宥める。そんな福田の言葉に、みさは俯き、そして一度大きく息を吐き出す。それから、勢いよく顔を上げる。その表情は、先ほどとは打って変わって、強い意志を宿したいつものみさのものに戻っている。
「……分かってます。まずは直近で片付けないといけない課題を片付けます」
そんなみさの態度に福田はいつも通りの人の悪そうな笑いながら頷く。そんな二人のやり取りに、南が続く。
「直近で片付けなきゃいけない事……つまり、これから一ノ瀬先輩に直接襲いかかる危機のことですよね?」
南の言葉に、室内にいる一同が頷く。それを見てからみさが改めて、皆が認識している課題を言葉にした。
「そう。これから起こる、ククライの配信……まずはこれへの対処よ」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
皆様の応援が執筆の励みになります。
もしよろしければブックマークや評価ポイント、感想やレビューなどお願いします。
引き続き、この作品をよろしくお願いします。




