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unsteady(7)

「うーん……」

 粗方化粧を施し終えた南の顔を見て、あいねは首を傾げる。

「ど、どうされました?」

 そんなあいねの様子が気になったのか、西山があいねに尋ねる。

「いや、つい本能の向くままに美少女顔にしてしまったが……そうすると今の髪型が合わなくてどうしたものかなと……」

 そんなあいねの言葉に一ノ瀬が頷く。

「司馬君は髪質が固いうえに今大分短くしてるからね。ウィッグでもあればよかったんだろうけど」

「はあ」

 西山は二人の回答に気の抜けた声を漏らす。


 ――直後、勢いよく個室の扉が開く。

「そう言うことであればっ!」

「お貸し致しましょう!」

「「そう、我ら……演劇サークル『ライトイヤーズ』が!」」

 そしてその扉の向こうから二人の女性が現れる。


「……は?」

 それを見た南達は思わず目を丸くする。しかし、そんな中でみさだけはいつもと変わらぬ様子で、演劇サークルの二人に声をかける。

「えーと二人ともたしかつかさと同じ演劇サークルの……」

 みさの言葉に二人は頷く。

「ええ」

「こっちの方につかさが来てるっていうから迎えに来たのだけど……その時にたまたま貴方達の会話が聞こえた上に、中にあったその”芸術”が見えたものでね」

 そう言って演劇サークル員の片方が南を指さす。

「はあ」

 自身が指されてどう答えたものかわからず、南は気の抜けた返事を漏らす。

「ちょうど学祭前で舞台に用いるウィッグや衣装等を準備していたところなんです。これを使ってください」

 しかし、そんな南に構わず演劇サークル員達は鞄からウィッグや衣装をいくつか取り出す。そしてそれらを一ノ瀬とあいねに差し出す。

「おお!」

「一ノ瀬さん……これは、いけますよ……!」

 それを見た一ノ瀬とあいねは目を輝かせた。


 ――それから数分後……。

「完成だ……」

 一ノ瀬が絞り出した言葉に、あいねが静かに頷く。

「やりましたね……」

 ――そう、そこには可愛らしいポニーテールの美少女となった南が佇んでいる。

「素晴らしい……」

「これが私達の求めていたもの……」

 その出来栄えに、演劇サークルの二人も腕を組んで頷く。そんな場の空気に飲まれたのか、西山も感動した無垢な少女のような目で南を見ている。一方で、みさは心底興味がないと言った顔でスマホを弄っている。

「本当は服の方も変えたかったんだけどねえ……」

 あいねはため息を漏らしながら南を見る。首から上は別人だが、その下はコンビニバイトの制服そのままである。

「流石に女性に囲まれたところで服を脱ぐのはちょっと……」

 南がそう言うと一ノ瀬が苦笑する。

「本人からそう拒否された仕方ないよね。それに……」

 そう言って一ノ瀬はみさの方を見る。その視線に気が付いたみさが表情を険しくし、牙を剥く。

「司馬……あんたが着替えてる最中の見苦しいパンイチなんて見るのは御免だからね?見せたらぶん殴る」

「だから脱ぎませんって……」

 南は居心地が悪そうな顔でみさを見る。

「南ちゃーん!」

 そんな南の背後からあいねが抱きつく。

「うわっ!?」

 あいねの行動に驚いた南は思わず声を上げる。

「見てよ、見てよアレ!」

 しかし、そんな南に構わずあいねは演劇部員が手にしているサイズの大きい鏡を指差す。南はあいねに言われるがままに鏡に映る姿を見る。

「もはや別人ですね」

 南は淡々と、正直に思った感想を口にする。そんな南の反応にあいねは口を尖らせる。

「えー、なんかその"別人"に変身した気分とか感想とかないのー?」

 そんなあいねの言葉に南は一瞬考える。そんな彼の脳裏にここまでのデジタルツイン上での戦いの記憶が蘇る。

(もうすでに、別人どころじゃないもんに何度もなってるからなあ……)

 そんなことを考えつつ、さらに思ったことを南は口にする。

「そこは特にないんですが……でも、俺に化粧を施しているときに楽しそうに先輩たちがしているのは、何かいいな……って思いました」

 南の反応にあいねは苦笑する。

「まあ、期待する反応とはちょっと違ったけど……何か思うところがあったのなら良しとしますか!」

 あいねはそう言って一人首を縦に振る。


「……ところであいね先輩」

「何かな、南ちゃん」

「そろそろ離れてくれないでしょうか……」

「何、恥ずかしいの?」

 南の懇願にあいねは首を傾げる。その時、彼女は南が冷や汗を浮かべながら震えていることに気が付く。

「いえ、そうではなくてですね……。すぐそこにいるあなたのお姉さまから……すさまじい圧が放たれていましてですね……」

 南の回答に、あいねはみさの方を見る。

「およ?」

 するとそこには、すさまじい形相で南を睨んでいるみさ……そしてその横で怯えた顔をしている西山の姿があった。すべてを悟ったあいねは、おとなしく南から離れるのであった。その瞬間、みさの形相が一瞬で元に戻る。

「ははははは……」

 みさの圧から解放された南は乾いた笑いを漏らした。



 ――それから数時間後、星降神社の客間で福田と澤野、そして遠渡星は対面の打ち合わせをしていた。

「風雷華の追加装備、もうここまで仕上げてくれるとはね」

 タブレットに表示されたデータを見て福田は感嘆する。そんな福田をやつれた顔で恨めし気に見ながら澤野は答える。

「元々仕様やデザインは固まってましたからね……。あとはAIにテストとリファクタリングさせます。多分、明日の朝には使えるようになっているはずです……」

「助かる。無理を言って済まなかったね」

「いいですよ。人命もかかってますからね」

 遠渡星のねぎらいに澤野は力なく笑う。

「ありがとう。しかしもう、こんな時間か……」

 福田はそう言って時計を見る。既に時間は10時半を過ぎており、今から夕食を調達するとなるとフードデリバリーでも選択肢が限られてきそうな時間帯だ。

 

「お疲れ様でーす!」

 

 そんなやりとりをしていると、あいねが襖をあけて客間へと入ってくる。

「おや、どうしたんだい?」

 福田は首を傾げる。よく見るとみさや直帰だったはずの西山も一緒にいる。

「大変そうだって聞いたんで、差し入れ持ってきたんです」

「おお……ありがとう……」

 疲弊しきっているのか、力ない声で澤野が礼を言う。

「ろくに飲まず食わずで開発してたから……流石に腹減っちゃって……」

 そう言う澤野に食料や飲料が入っていると思しきビニール袋が差し出される。それを受け取りながら澤野は袋を差し出した人物の方へと目線を向ける。

「……」

 そして、その人物と目と目が合った瞬間に澤野は言葉が止まる。彼の眼前には見知らぬ美少女が立っている。それを見た澤野は首を傾げる。

「どちら様……?」

 そんな澤野の様子をみてあいねがニヤリと笑う。

「さて、誰でしょう~?」

 あいねは楽し気に問いを投げかける。その様子をみた福田が、いつもと変わらぬ調子で疑問を投げかける。


「そんな恰好してどうしちゃったの、司馬君」


「――!?」

 福田のまさかの一発看破に、女性陣と女装したままの南が驚きの表情を浮かべる。

「なんで分かるんですか……」

 みさが訝し気に福田を見る。

「え?だって骨格とか重心の動かし方とかいつもの司馬君じゃない」

 福田の回答にその場にいた者達(遠渡星を除く)は顔を見合わせた。

「え……こわっ……」


「……へっくし!」

 ――時を同じくして、大学の休憩スペースに捨て置かれていた夢野は、くしゃみをしながら目を覚ました。

 周囲を見回し、自身が深夜の大学に居ることを認識する。何故、自分がこのような場所にいるのか訳が分からなくなり、正直な言葉が彼女の口から漏れた。

「え……こわっ……」

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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