unsteady(3)
「……」
一ノ瀬はじっと南の顔を見る。
「……ふふ。ふっ……はは……あっはっはっはっ!」
それから吹き出し、笑い出す。
「?」
南は一ノ瀬の反応が理解できず首を傾げる。そして、説明を求めるような目でみさを見る。その視線を受けて、みさは思わずため息を漏らした。
「先輩、こいつは大丈夫ですよ。世情に疎い超絶ド素直なんで。今の質問も、疑問をそのまんま口にしただけで他意は無いです」
そんな夢野の言葉に南は頷く。
(軽くディスり入ってる認識も無いんだもんなあ)
みさは再び南に呆れる。
「みたいだね」
一ノ瀬はみさの言葉に頷く。
「とりあえず、俺がこうなったのはSAの仕事が忙しかったからで、炎上云々は関係ないよ」
一ノ瀬はそう言って、机の上に山積みになっている紙束を親指で指す。
「そうなんですか?」
南は首を傾げながら、一ノ瀬が指さした紙束に目線をやる。紙には何やら文章が印刷されており、さらに赤いペンで書きこんだと思われる文字や線がある。
「レポートの採点ですか?」
紙束を眺めたみさは一ノ瀬に尋ねる。それを受けて、一ノ瀬は頷く。
「そう。本当なら先生がやるはずだったんだけど、急遽出張が入っちゃってね。で、しょうがないからSA達がやることになったんだけども……こんな時に限って他のSA達もみんな風邪ひいちゃったんだよね……」
「で、先輩一人がハードな量のレポートを採点することになったと」
「そういうこと」
一ノ瀬はみさに同意しながら髪をかき上げる。
「それと丁度、インターンの方でも期限まで時間が無いタスクが色々出てきちゃってね。で、キャパオーバーでこの有様ってわけさ」
「なるほど……」
みさは一ノ瀬の説明に納得する。どうやら身バレや、それに伴うジモクの被害にはまだあっていないらしい。
「まあ粗方タスクは片付けたし、なんとかはなったよ……」
一ノ瀬はそう言って安堵のため息を漏らす。
「お疲れ様です」
「ありがとう」
真摯な南のねぎらいに、一ノ瀬は笑う。
「で、やりきったところで力尽きてちょっと気絶しかけたと。しかしまあ、結構無茶しましたね」
やつれた様子の一ノ瀬にみさは呆れた顔をする。
「いやあ、面目ない。インターンもSAも実入りが良いからね。ちょっと欲張ってしまった」
申し訳なさそうに頭を掻く一ノ瀬にみさはため息を漏らす。
「でも、インターン大丈夫なんです?バーチャルストリーマーなんてやってて炎上して、へたすりゃ身バレするかもなんてことがあったら……?」
そう言ってみさはさりげなく、一ノ瀬が高町幸音の中の人であるかどうか、改めて確認をしようとする。そんなみさの質問に一ノ瀬は苦笑する。
「大丈夫だよ。インターン先にはそこらへんの俺の事情はもう話してあるんだ」
一ノ瀬の回答にみさやあいね、西山は意外そうな顔をする。どうやら、本人的には別段隠すつもりは無いらしい。
「一ノ瀬先輩のインターン先って……」
みさが尋ねると、一ノ瀬が笑う。
「広告代理店系列のシンクタンクだよ。で、現在のインターン先で担当している業務もストリーマーのマーケティング関係なんだよね。だからまあ、配信する側を実際にしてきた経験は活かせるだろうって会社側も納得してるんだ」
「あー、なるほど」
みさは一ノ瀬の回答に納得する。
「それに今回の炎上の件についてはちゃんと、会社の方に報告してあるんだ。それで、発言内容などについては特に問題無いと回答をもらっているよ。まあ、今回の件はだんまり決め込んでしばらく配信は控えてという指示は出たけどね。手も丁度ケガしたし丁度良いと言うか不幸中の幸いというか……」
一ノ瀬はそう言って包帯を巻いた手をひらひらと振る。
「その怪我、大丈夫なんです?」
南が尋ねると、一ノ瀬が笑う。
「あの地震の時に家の棚が倒れそうになってね。慌てて支えた時に軽く両手をくじいちゃったり突き指したりしてね。まあ、骨が折れたりとかはしてないから大丈夫だよ」
それを聞いて南は軽く安堵のため息を漏らす。
「それは良かったです」
そして、一ノ瀬の話を聞いたみさが改めて問いかける。
「じゃあ、進路とかに影響も特には無いってことですかね?」
「まあね」
みさの問いに一ノ瀬は頷く。
「それなら問題ないですね」
そう答えつつ、みさは今後の対応を考える。
(じゃあ後は身バレとかせず、ククライのターゲットが外れるまでやり過ごせるかどうかを様子見する……という感じか)
みさがそんなことを考えると、南が一ノ瀬に質問を投げつける。
「一ノ瀬先輩って、バーチャルストリーマーとしての配信活動って進路目当てでやってたんですか?」
それを聞いたみさと西山も同様に呆気にとられたような顔をしている。
(司馬君、思い切ったこと聞くなあ。すごい)
そしてあいねは、そんな質問をする南に感心していた。
――そして、当の一ノ瀬はと言うと……
「あははははははっ!君は本当に素直にこっちに物事を聞いてくるね」
南のドストレートな質問に爆笑していた。
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