狂乱 Hey Kids!! (3)
「でもどうやら炎上してるのは本当だよ。見てみなよ」
そう言って福田は配信のコメント欄を拡大する。そこには「トレパク絵師を庇うとかクリエイターの風上にも置けない」とか「はいはい。有名絵師だから庇って必死に擦り寄ってるんでしょ」といったコメントが投げ込まれている。
「それじゃあ、今日は僕のおススメのファンデーションを紹介するね」
しかし、そんなコメントも意に介さないと言った風に高町幸音は化粧品の紹介をしようとする。しかし、「厚化粧じゃ炎上隠せないですよ」などと言ったコメントが流れており、心無い言葉の投げつけは一向に止む気配がない。
「うわあ……こりゃひどいな」
それを見た澤野は思わずため息を漏らす。
「なかなかの盛り上がりっぷりだよねえ」
そう言いながら福田はビールを次の缶ビールに手を付ける。
「でも、どうしてこんなことになったんです?」
こうなった経緯を全く知らない南はいまいち状況を理解できずに首を傾げる。
「んー?まあそりゃ、この高町幸音が春サクラを庇うような発言をしたからだね」
そう言って福田はビールを置き、自身のスマホを再び操作する。すると、画面が現在のリアルタイムの配信から過去の配信アーカイブへと切り替わる。画面には、先ほどまでの配信とは異なる衣装を纏った高町幸音が映っている。
「今日の配信も見てくれてありがとう、最後に雑談配信と行こうか。じゃあちょっと視聴者コメから話題を拾うとして……」
高町幸音がそういうと、配信のコメント欄に『この間のトレパクファンアート描いた絵師どう思う?』と言ったコメントが何件か流れる。最初は高町幸音はそのコメントをスルーし、別の話題をピックアップしていたが、どうやらそれが逆効果だったらしい。いくつかの話題を消化すると、気がつけばコメント欄は春サクラについてとるどう思っているのかを問うコメントで溢れかえっていた。
「ええ……」
高町幸音は困惑の声を上げる。それから一つ咳払いをすると、ぽつぽつと今回の炎上騒動について私見を述べ始めた。
「……今回の件については、皆さんには落ち着いてほしいと思っているというのが正直なところです」
その一言に、コメント欄がざわめき出す。そんなコメント欄の様子を見ながら、高町幸音は静かに言葉を続ける。
「今回、ファンアートを描いてくれた絵師さんが悪意を持ってトレパクしたという証拠は現在明確に出てきていません。絵に限らず、創作というものはいろんな人達が作ってきた土台の上に乗っかっているものです。その結果、意図せずとも過去に誰かが作ったものに似てしまう……ということは十分にあり得ることなんです。ですから、状況がはっきりするまでは落ち着いた行動をとっていただけたらと思います」
そう言って高町幸音は頭を下げる。そして頭を上げる。
「私の配信のリスナーの皆様に置かれましては、絵師様本人への誹謗や中傷など行き過ぎた行動をすることないようにお願い申し上げます」
再び高町幸音は頭を下げる。
「へー、立派なもんだなあ」
澤野は感心しながら缶に残ったビールを一気に飲み干す。
「だねえ。まあ、それで万事うまく解決するなら苦労はないんだけどさ」
福田はそう言ってプライドチキンを齧る。
高町幸音の配信のコメント欄は拍手の絵文字が流れる。しかしその直後に流れたコメントが配信の空気を変えてしまう。コメント欄には『俺達がパクリ絵師に注意したことが誹謗中傷ってこと!?』『なんであんな奴を庇うんだ』『絵師だからって優遇してるんだろう!』といったコメントが流れる。そして、そのコメントが火種になり、高町幸音を非難するようなコメントがコメント欄に一気に溢れ返り出したのだった。
「うわぁ……」
炎上の経緯の一部始終を確認した澤野は思わずため息を漏らす。
「これが高町幸音が炎上した経緯の一部始終……ってワケ」
福田はそういうと、画面を高町幸音のライブ配信へと戻す。ライブ配信のコメント欄には相変わらず誹謗中傷コメントが投げ込まれている。
「気が滅入りますね……」
西山が呟く。どうやら前回の焼肉会を反省したのか、彼女はオレンジジュースを飲んでいる。
「でもまあ、彼?彼女?が炎上してくれたお陰で夢野さんは炎上のターゲットからは外れたワケだ」
福田はこともなげに言う。
「でも、これじゃあ高町幸音がジモクの攻撃対象になってしまいますよね?」
南は福田に問う。それを聞いた福田は食べ終わったフライドチキンの骨を取り皿の上に置く。
「いや、大丈夫だよ。基本的なルールの再確認になるけど、ククライの配信でデジタルツイン上に対象の魂を連れて行くには、リスナー達がみんな対象の実物を知っている必要がある、さらにその本人がこの星降市に住んでる必要があるからね」
「ああ……」
南は福田の説明に納得する。
「そうか、高町幸音の正体をみんなが知っている必要があるのか……。それに、仮に正体がバレても、その人がこの街の住人じゃなかったら……」
「そういうこと」
福田が最後のフライドチキンに手を伸ばしながら頷く。
――直後、大地が揺れた。
「地震っ!?」
驚いた南達は慌ててこたつテーブルの下に頭を隠す。
「思ったよりでかいな」
呑気にフライドチキンを齧りながら福田がぼやく。
……しばらくすると、揺れが収まる。それを確認した南達はこたつテーブルの下から這い出る。
「ふむ。皆、大事ないか?」
「はい」
遠渡星に問われて南は頷く。
「いや、思ったよりデカかったな……」
澤野は酔いも覚めた様子でため息を漏らす。
「震度6だそうです。震源も近かったみたいですね……」
西山が自身のスマホで地震速報を見ながら言う。
「……」
口々に自身の感想を言う澤野達の横で福田が無言でテレビを睨んでいる。そのことが気に掛かった南は福田に声をかける。
「福田さん?」
「……」
しかし、福田は何も答えず画面を見ている。その表情からは福田の感情を読み取れず、南は困惑する。しかし、そんな南に福田が不意に声をかける。
「司馬君。君には近いうちにもう一仕事頼むことになるかもしれない」
「え!?」
福田がそう言う理由が分からず困惑する南は、ディスプレイに目線を向ける。
「す、すみません。ちょっと急に地震があったもので……。しかも家具も倒れてきたので……。今日の配信はここまでとさせてください」
そこには、時を同じくして自身にあったと告げる高町幸音が配信を中止する姿があった。それを見た澤野は思わずつぶやく。
「これもしかして、高町幸音の中の人……近くに住んでる?」
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