EGO~eyes glazing over(4)
――澤野の提案に同意した南の視界の右端に、円、そしてその円周上にアイコンが並べられたようなU Iが表示される。
「これは……」
未知の機能の突如の出現に、南は軽く驚く。
『その中で人が走ってるような絵の書いてあるアイコンがあるの、分かる?』
澤野に言われて南はUI上のアイコン群に目を走らせる。その中に一つ、走ってる人のようなピクトグラムが描かれたアイコンが確かに存在している。
「あった!」
『じゃあ、それを選択して!』
澤野の指示に南は困惑する。
「選択ってどうやって……」
そう言いながらアイコンを凝視していると、何やら音が鳴り響き、アイコンが更に大きく表示される。どうやら澤野に指定されたUIは視線によって操作が出来るようだ。そして、澤野がしていしたアイコンはその操作により意図せず選択できたようだ。
「!?」
南が軽く驚くと同時、ガイダンス音声のようなものが南の聴覚に響く。
『これより、迅雷刹華を起動します。連続使用可能時間は10秒です。それでは、良い旅を!』
「え?」
流れてきたガイダンス音声の意味がわからず、南は困惑する。そんな南の背後の空間にはウィンドウが現れ『迅雷刹華』と表示される。さらに自身のアバターの身体から、低いうねりのような音が鳴り響き始める。それと同時に、身体を覆う装甲の隙間から青白い光が漏れ出し始める。
「これ……大丈夫なんです?」
理解ができない現状に不安が募り、南は疑問を口にする。
ククライは圧倒的な数の有利がありながらもスターゲイザーを倒せていない現状に苛立ちを募らせていた。
「もう、なんなのよ!あいつ!一人しかいないくせに!」
そんなククライの反応に視聴者達は同調する。「しぶとい」「いつかは倒せるでしょ」「戦いは数だよ、兄貴!」そう言ったコメントが画面上を流れていく。
「誰が兄貴だ。でもまあ、そうだよね!この調子で攻め続ければ倒せるよね!それじゃあこのまま断罪!だーんざ……」
そこまで言いかけてククライが止まる。改めて画面上を見ると、スターゲイザーが発光している。
「あれ?まだなんかやばそうなこと……起こる?」
ククライは首を傾げる。そんなククライの発言にコメントが応じる。
「ガハハ(フラグ)、立ったな。風呂入ってくる」
「いや、まだわかんないから!まだわかんないから!」
ククライはそう言いながら改めて戦闘の様子を確認する。
――スターゲイザーの発する光は更に強まっていた。それを見てククライは呟く。
「あっ、やばいかも……」
一方で風雷華の登場から盛り上がった宇宙野いるかの配信は、ここにきてスターゲイザーの新機能の発動というシチュエーションに、その盛り上がりを更に増していた。
「おおっと!?スターゲイザーの背後に何やら文字が!迅雷刹華とはどういう意味なのか!これから何が起こるのか!これは目が離せません!」
いるかの実況に視聴者達は同調する。コメント欄には「盛り上がってまいりました」「やっぱ新フォームの醍醐味は新機能だよね」「いいぞ、もっとやれ」と言ったコメントが溢れていく。
――その日、スターゲイザーが戦闘をしていたのと時を同じくして、現実の星降市民会館の講堂には多くの人が集まっていた。講堂の入り口には『星降東高校演劇部公演 遠渡星物語』と書かれた看板が立てかけられている。そう、現地に来ていたのは、学生達の演劇を見に来ていた親族や友人だ達だ。
とある席では、母親と小学生低学年くらいの年齢の娘が座席に丁度腰を落としていた。
「お姉ちゃん、結構大事な役みたいよ。どうなるか楽しみだね」
「うん!」
妹は笑顔で頷くのを見た母親は、鞄からスマートグラスを二つ取り出す。
「ママ、これ何?」
妹は母に尋ねる。
「この眼鏡はスマートグラスって言ってね、現実の世界に映像を重ねて表示することが出来る眼鏡なの。演劇が始まったらこれをつけてね」
そう言って母親は妹にスマートグラスの一つを手渡す。それを受け取りながらも、母の説明に妹は首を傾げる。
「お姉ちゃんの劇にどうしてこれをつける必要があるの?」
妹の質問に母親は笑う。
「この劇は演出に、スマートグラス越しに見える映像を使うんですって。昔はそういった映像演出使うような演劇なんて、設備が整った劇場じゃないとみられなかったのに……。今は高校生がこんなことできるなんて、時代の進化はすごいわね」
母親は、かつて推し活をしていた劇団の過去の公園に思いを馳せながらため息を漏らす。
「ふーん」
妹は母の言っている意味が良く分からないらしく首を傾げる。そんな娘に母親は苦笑する。
「まあ、実際に見てみればわかるわ。劇が始まったらこういうふうにこのスマートグラスをかけるのよ」
そう言って母親はスマートグラスの電源を入れて装着する。
「!?」
しかし、その直後に自身の眼前に繰り広げられた光景に母親は絶句する。
――まず周囲の客席。そこには大量の目や耳がついたような気持ちの悪い人型の化け物たちが立っている。
何かのバグだろうか?それとも講演前に事前に何かしらの演出の確認をしているのだろうか?
母親は一度スマートグラスを外す。そんな母の様子が気になったのか、娘は怪訝な顔をして声をかける。
「ママ?」
娘に尋ねられて、母は取り繕う。
「あ、ううん。なんでもないの」
母親は改めてスマートグラスをかける。しかし、かけなおしても得体の知れない黒い人型は消える気配がない。それどころかよく見ると得体の知れないものがさらに増えていた。それは、平安武士と日曜朝の特撮ヒーローを混ぜ合わせたような姿をした何かだった。その平安武士のような何かは、一人の女性を抱きかかえている。
(……これは?)
理解しきれていない状況で新たな存在が現れたことで、母親は益々困惑する。
「!?」
直後、その平安武士もどきの全身が発光し始める。
――直後、講堂中に雷撃のようなものが走り、さらに桜吹雪が舞い落ちる。そして、気が付くと得体の知れない化け物や平安武士もどきは消えていた。
「……今の高校生の演劇ってこんな映像演出使うの……?すごいわねー」
母親は感心し、一度スマートグラスを外した。
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