EGO~eyes glazing over(3)
ジモク達が姿を変えたことには、南の戦闘をサポートしていたみさ達にも少なからぬ衝撃を与えた。
「ジモクが姿を変えるなんて……」
澤野が呟いていると、福田は電子タバコを起動して咥える。
「遠渡星様から聞いたんだが、ジモクっていうのは元となった人間達の心の有り様でその姿形が変わるらしい」
それを聞いたみさが福田に尋ねる。
「この先戦い続ければ、ククライ側のリスナー達の視聴者のテンションに応じてジモクは色々姿を変える……ということですか?」
福田は電子タバコを口から離して一息ついてから答える。
「そういうことだろうね」
そして福田は南達の状況を映してる大型ディスプレイを一瞥する。
「まあ、もしかしたら形態毎にコードネームとかつけといた方が良いかもね、この先のことを考えると」
「そんな、ごっこ遊びじゃ無いんだから……」
福田がふざけていると思ったみさは彼を睨みつける。そんなみさの視線を受け流しながら福田は答える。
「遊びじゃなくて本気だよ。この先、様々な種類のジモクと戦うことになると言うなら、対策を立てるためにはジモクの類型化と能力の把握はしておいて損はないでしょ?」
「……」
ふざけたことを言うようなら思いっきり文句を言ってやろうと思っていたところ、想定とは真逆にまともな回答が福田から帰ってきたことにみさは黙り込む。
「……」
そんなみさの様子を見ながら福田は再び電子タバコを軽く吸う。
「今回は君の友人が被害者だ。色々と冷静じゃいられないだろう所を、君は君で私情をおさえてよくやってくれているよ」
「……分かったようなこと、言ってくれますね」
みさはわざとらしく大きくため息を漏らす。そんなみさに福田は苦笑しながら答える。
「おっさんてのはそう言う生き物だからね。まああれだ。取り敢えず、俺は少なくともジモクの被害を抑えると言う点に関しては真剣に取り組んでいるということは理解してもらえると助かるかな」
「……」
相も変わらず飄々とした物言いをする福田を細めた横目で見る。福田はそんなみさの目線に気づいていないかのように、じっと戦いを中継しているモニターを眺めている。それを見たみさは右手で頭をわしゃわしゃと掻いて息を吐く。
「わかりましたよ。まったく……」
そんな二人のやり取りを背中越しに聞いていた澤野と西山は互いに目を見合わせた後にほっと息を吐く。
「で、どうするんです?コードネーム」
「そ、それなら異端審問官型とかどうです?」
みさの質問に対し、西山が提案する。それを聞いた福田は目を細める。
「インクイジター……なるほど、この光景はさながら魔女狩りだもんねえ」
「人の友人捕まえて魔女狩りの真似事とかふざけたことしてくれますね……」
みさはそう言ってディスプレイに映し出されたジモク達を睨みつけた。
福田達がそんなやり取りを終えたのと時を同じくして、けたたましい警告音が鳴り響き、続いて南の視界に大量のアラートともに予測された敵の攻撃軌道が表示される。
(――来るっ!)
敵の攻撃の気配を察知した南はアバターの体を跳躍させる。突然の加速に夢野が絶叫マシンに乗ったかのような悲鳴をあげる。しかし、戦闘が始まってしまったため、南は彼女に言葉をかけるよりも回避を優先する。
同時にジモク達が一斉にに銃剣を投げつける。スターゲイザーがいた空間に大量の銃剣が突き刺さる。そしてその後、スターゲイザーは着地する。
(かわした……!)
(油断をするな)
南がそう考えた直後に、遠渡星の警告と同時にまたも大量のアラートが視界に表示される。南は慌てて視界を上げる。
「!!」
南の視界は、手にした獲物でスターゲイザーを攻撃しようとするジモクの群れで埋め尽くされる。
「うわわわわわっ!?」
スターゲイザーは立て続けに後ろ回転跳びをしながらジモクの攻撃を交わしていく。その度に夢野が悲鳴をあげるが、目の前の敵に対応するので手いっぱいな南には彼女に寄り添った言葉をかける余裕などない。
「しつこい……!」
南は追い縋りながら攻撃してくるジモクの一体の顎を蹴り上げる。そのまま宙に浮いたジモクの身体を蹴り飛ばし、ジモクの群れへと叩き込む。叩き込まれたジモクはまるでボーリングの球のように他のジモク達を吹き飛ばしていく。
「危ない!」
別のジモクが横合いから夢野を目掛けて銃剣を突き出す。スターゲイザーは身体を回転させて、それをかわす。そしてその勢いのままに後ろ回し蹴りをジモクに叩き込む。それをうけてよろけたジモクにスターゲイザーは前蹴りを叩き込み、背後にいるジモクごと吹き飛ばす。
「またっ!?」
さらに背後からジモクが襲いかかる。スターゲイザーはしゃがみこみながら攻撃をかわし、さらに足払いをかける。強烈な一撃を食らったジモクの身体が宙に浮く。そのジモクの身体をスターゲイザーはボレーシュートの要領で蹴り飛ばす。蹴られたジモクは他のジモクを巻き込みながら吹き飛んでいく。
「まずい!」
しかし、飛び道具を警告するアラート共に他の健在なジモク達が再び銃剣を投げつけてくる。スターゲイザーは講堂のステージの上を縦横無尽に駆け回りながらそれらをかわす。
「こうも数が多くちゃキリがない……」
南は少し荒い息を吐きながら未だに半数以上健在なジモクの群れを見る。そんな南に澤野から通信が入る。
『だったら司馬君、このアバターに実装した特殊機能を使おう!』
「特殊機能?そんなのあるんですか?」
澤野からの提案に南は首を傾げる。
『あるんだなあ、これが!こんなこともあろうかと用意しておいた、一対多戦闘において効果を発揮するお約束機能が!」
「お約束……ですか。わかりました、使いましょう!」
澤野の妙に高いテンションに一抹の不安を覚えながら澤野の提案に同意した。
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