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REAL×EYEZ(3)

『いい?もうすぐ私がそっちにつくから、あんたもいつでも出られるように荷物とかまとめておきなさい』

「分かったよ」

 南達がククライのボーカルライブなる得体の知れないイベントの告知を見た少し後、あいねはみさと通話でやり取りをしていた。

 ――直後、乾いた破砕音があいねの背後で鳴り響く。

「え……?」

『あいね?何があったの!?』

 あいねは恐る恐る背後に振り向く。そこには、ローテーブルにぶちまけられ、そのままフローリングの床へと垂れていくミルクと、そのミルクの海に浸かったマグカップの破片、そしてローテーブルに突っ伏して倒れこむ夢野の姿があった。

「……!?つかさちゃん……?」

 驚いたあいねはつかさの名を呼ぶ。しかし、つかさは夢野の言葉に反応をしない。

「つかさちゃん……!つかさちゃん!」

 あいねは夢野肩を掴み、彼女を揺する。しかし、夢野から反応はない。

「そんな……でも配信までは時間があるはず……どうして……」

 あいねは震える声で呟く。

『あいね!?何があったの、あいね!!』

 あいねはただ、呆然とする。スマートフォンから聞こえるみさの声もどこか遠くの出来事のように感じられる。

『ああもう!今家入るから待ってなさい!たしかつかさの家、今日ご両親不在だったわよね!』

 みさがスマートフォン越しにそう言った直後、玄関が開く音がし、そして足音が聞こえてくる。

「あいね!何があった……の……?」

 みさの声は部屋に入るなりトーンダウンする。彼女が夢野の自室に入って目のしたのは、突っ伏している友人と、その横で口元を両手で押さえ、呆然自失になっている妹の姿だ。

「まさか……」

 みさは二人の傍に駆け寄ると、夢野の肩を叩く。

「つかさ?しっかりしなさい、つかさ!」

 しかし、夢野からの反応はない。そのことを確認したみさは今度はあいねに声をかける。

「あいね、何があったの?あなた見てたわよね?」

 しかし、あいねは目の前の現実を受け入れられないといった感じで相変わらず、涙を流しながらぶつぶつと何かをつぶやいており、彼女の目は焦点が合っていない。

「はぁぁぁぁぁぁっ……」

 状況を理解したみさは深く息を吐く。

「ふんっ!」

 それから、あいねの頭頂部にチョップを勢いよく叩きこむ。

「痛ぁっ!?」

 頭部に走った衝撃にあいねは思わず悲鳴をあげ、今度は頭頂部を抑える。

「何するの、みさちゃん!」

 頭部に走る痛みに、あいねは思わず反射的に抗議する。それを見てみさは満足げに頷く。

「よーし、あいね。正気に戻ったわね」

 みさの言葉にあいねは我に返る。

「そ、そうだった……。急につかさちゃんが倒れたから、私取り乱しちゃって……」

 みさはそっとあいねの両肩の上に手を置く。

「まあ、平静でいられないのはわかる。でもね、あいね……こういう時こそ私達は冷静さを失ったらだめよ。今、つかさを助けられるのは私達だけなんだから」

「うん……」

 あいねは目を涙ぐませながら頷く。

「よし!」

 それを見たみさは満足げな声をあげてから腕を組む。

「しかし……配信まではまだ時間があるはずなのに、どういうこと……?」

 みさは首を傾げる。直後、みさの携帯の着信音が鳴り響く。

「誰から……って司馬から?」

 みさはスマホを取り出し、発信者の名前を確認する。

(このタイミングで司馬からの連絡ということは、現在の想定外の事態に対する情報の可能性が高い……)

 そう考えたみさはそのまま通話を開始する。

「もしもし、司馬?あんたもしかしてなんか状況進展あったこと把握してる!?今すぐ情報よこしなさい!」

『はいどーも。まあちょっと落ち着いてよ』

「んあっ!?」

 南だと思っていて通話を開始したら、気の抜けるような福田の声が返ってきたことに驚き、みさは思わず奇声を上げる。

「福田さんっ!?なんだって司馬の電話から……」

『だってみさ君、私に連絡先教えてくれてないじゃない』

「んがっ……」

 心の奥底でどこか嫌がっていたからか、福田への連絡先の通知を後回しにしていたのだが、そのツケをこのような形で払わされると思っていなかったみさは言い淀む。

『まあ、そこは置いとくとして……ククライが配信待機時間にコンテンツをつけ始めたんだよ。それでどうもリスナー達が既にテンション上がっちゃってるみたいだったからね。そっちで何か起きてるんじゃないかと思ったけど、どうやら当たりだったか……』

「待機時間のコンテンツ?」

『ちょい、画面共有するから見てみてくれる?』

「分かりました」

 みさは福田の言葉に同意すると、スマートフォンを一旦耳から離す。直後、福田が共有した画面の情報がみさのスマートフォンのディスプレイに映し出される。

「なっ……!?」

 それを見たみさは思わず声を上げる。画面では、アイドルのような可愛い衣装に着替えたククライが、断罪やら潰せやら物騒な文言で彩られた歌詞の歌を歌いながら、ステージのような空間で踊っていた。


 ねぇねぇ なんでウソついたの~?

 キラキラの世界 汚れちゃうよ?

 みんなが見てる 目をそらさないで?


 やっちゃえ☆ ダンザイ!

 ウソつきにバイバイ!

 ごめんなさいより 罰が大事~☆


 だんざいっ♡だんざいっ♡

 コールして~みんなでGO!


 ハートが冷えても 許さないからね?


 わたしはAI でも正義は本気♡


 (\ダンザイ!/\ダンザイ!/)


 みんなの想いを! 断罪の力に!

 はいっ!いっちょダンザイ~っ☆


 そして、ククライのパフォーマンスに魅せられたリスナー達がチャット欄で盛り上がっている。そしてククライはそんなチャット欄の反応に対してウィンクをしたりして、盛り上がりを煽っている。

「福田さん、これって……」

『おそらくだけど、前回の戦いの反省点を踏まえてククライ側も対応したっていうことだろうね。リスナーの数というより、自身のリスナー達の熱狂度を上げることでジモク達の戦闘力をあげようって判断じゃないかな』

「なるほど……」

 福田の解説にみさは納得し、それから自身の所感を述べる。

「でも、この戦法を取るってことはククライは本当にAIなんでしょうね……」

『どういうことだい?』

「配信待機画面にコンテンツ流すなんて、実際にストリーマー本人が居るか、あらかじめ作り置きしておかないと難しいと思います。ましてやこんなライブコンサートみたいなコンテンツをある程度人手で作ろうとしたら、思い付きでやれるようなもんじゃないですよ」

『なるほど……。まあ、どちらにせよ向こうはテンション上げるタイムにはなってはいるけど、本番まではまだ時間あるから、今のうちに戻ってきてよ』

「分かりました。それじゃ失礼します」

 みさは通話を切ると、あいねの方を見る。みさの目線を受けてあいねは頷く。

「そういうわけだから……行こう、あいね」

「うん、みさちゃん……」

 あいねの返事を確認してからみさはドアの方へと振り向く。

「ちょっと待って、みさちゃん!」

 そんなみさをあいねは呼び止める。

「どしたの?」

 出鼻をくじかれたみさは気の抜けたような顔であいねを見る。

「……とりあえず行く前に……片付けないと」

 そう言ってあいねはぶちまけられたミルク、飛び散ったマグカップの破片、そしてミルクの海に頭を浸からせて意識を失っている夢野を指さす。

「……そうね」

 納得したみさはあいねと共にそそくさと掃除を始める。そして、掃除を手早く済ませると、ミルク漬けになった夢野の髪を丁寧に拭く。

 撤収準備を済ませたあいねは拳を握ってみさを見る。

「とりあえず、これで安心していけるね!」

「そうね……そうではあるんだけど……」

 みさはあいねの言葉に同意しつつ、改めてソファに横たえた夢野の頭部の匂いを嗅いだ。

「牛乳臭っ……」


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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