REAL×EYEZ(1)
土曜日の朝、草応大学の星降市学生寮の食堂は静まり返っていた。土日の朝食・夕食は事前の申請が必要なうえに実費を徴収されるからか、利用する学生が少ないというのがもっぱらの評判である。そして、その少ない学生のうちの一人が南だった。南はサラダを平らげると、黙々とバターを塗った食パンを齧る。
そんな南に声をかけてくる人物がいた。
「おっす、司馬っち。ちゃんと起きてるんだ、偉いな」
南が声に反応して振り向くと、そこにはスウェット姿の飯塚が立っていた。
「おはよう。そっちは今日はもう出かけるつもりが無いって感じ?」
南に問われて飯塚は苦笑する。
「まあね。ちょっと今週の土日はゆっくりするわ。なんの予定もないし、課題もあるしな」
そう答えながら飯塚は缶コーヒー片手に南の前の席に腰掛ける。
「なるほど」
頷きながら南はハムエッグを一気に口に入れる。
「そういやさ、夢野先輩の件は今どうなってる?あれから本当に炎上してたけど……」
飯塚の問いに南は口の中のものを一気に水で流し込み、それから軽く息を吐き、そして答える。
「……まあ、本人にも伝わったよ。で、そこら辺の対策で頼りになる先輩の友達が動いてくれたから多分大丈夫……とは思いたい……」
「……そっか」
飯塚は南の回答に頬杖をつき、ため息を漏らす。
「俺達もこれ以上は出来ることは無いからなあ」
飯塚の言葉に南も頷く。
「そうだね。なんでまあ、これ以上は何も起きないことを祈るばか……り……」
南の言葉の途中で不意に彼のスマートフォンの着信音が鳴り響く。
「ごめん、ちょっと出るね」
南がそう言うと飯塚は頷く。それを確認してから南はズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、画面を見る。画面に表示される電話をかけてきた相手は「勝間みさ」と表示されている。普段なら土曜の早朝などという非常識な時間に電話をかけてくることはないであろう人物からの急な連絡。それを受けて南は内心で思わず(……嫌な予感がするなあ)などと考えつつ、南はGUI上のボタンを押して通話を開始する。
「もしもし」
『あー、司馬。起きてたのね。よしよし、おはよう』
「おはようございます」
そう言って南は相手が目の前にいないにも関わらず頭を下げる。
『あんた、今日これから今すぐ星降神社に来なさい』
挨拶もそこそこに、みさは真剣なトーンの声で手短に要件を切り出す。
「……何かあったんですか?」
「あったわ。そしてこれから何かも起こる可能性が高いわ。そこらへんの事情は移動の間に説明する。自動運転車も寮に向けて、もう手配したわ。あんたはそれに乗ってなるだけ早くこっちに来なさい。時間がない」
「分かりました」
南はみさの命令を了承すると通話を切る。
「……夢野先輩の件か?」
その通話の様子を端から見ていた飯塚が問いかける。南は飯塚の問いに頷くと、食べ終わった朝食のトレイを手にもって立ち上がる。
「ごめん、さっき言った先輩の友達にちょっとこれから話聞きに行ってくる」
南がそう言うと飯塚は頷く。
「おう、行ってこい。後で何かわかったら俺にも教えて」
飯塚の言葉に南は頷くと、一旦食後のトレーを返すべく、食堂の食器返却口へと向かった。
――それから15分後。そこそこに身支度を整えた南は、みさが手配した自動運転車に乗って、星降神社へと向かっていた。車内に設置されたディスプレイは南のスマートフォンと連動しており、現在はWEB会議用のアプリの画面が表示されている。アプリのGUI上に表示されている通話相手はもちろんみさである。
「で、先輩。一体何があったんです?」
『つかさが身バレしたわ』
「身バレ?」
みさの言う言葉の意味が分からず南は首を傾げる。そんな南の反応にみさは軽くため息を漏らす。
『簡単にいうとインターネット上のイラスト書き春サクラが、草応大学の2年生、夢野つかさであると色んな人に知られてしまったのよ』
「それって……よく分かってない素人の俺でもやばい状態だって思えるんですけど、どうしてそんなことになっちゃったんですか?」
南の反応にみさは再びため息を漏らす。
『……24フレンドに貼ってたPOPよ』
「POP……って夢野先輩が描いた奴ですか?」
南の言葉に画面上のみさが頷く。そして直後に画面上にSNSの画面が現れる。そこには『近所のコンビニのPOP、やたらクオリティ高くて笑う』という文章と共に、夢野がイラストを描いたPOPの写真が添えられている。
『この写真のイラストを描いたのは春サクラじゃないか……と、ちょっと話題になってね。そこからネットの有志達による身元特定が始まったら、もうあっという間だったわ……』
みさはそう言って今日何度目かのため息を漏らす。
『こんな身バレしそうな要素をここに至るまでに放置していたなんて私としたことが抜かったわ……』
みさは悔しそうにつぶやく。一方でこれまでの説明を聞いていた南は絶句する。
「そんなわずかな痕跡から人を調べ上げるような人たちがネット上にはゴロゴロしている……ってコトですか!?」
南の言葉にみさは額に手を当ててため息を漏らす。
『世の中にはあんたの想像が及ばないようなムーブする人はいくらでもいるのよ。覚えておきなさい』
それから気を取り直してみさは話を続ける。
『とりあえずつかさの置かれている状況は最悪よ。ククライの話とは関係なく、つかさ本人に対して嫌がらせなんかをする人間が現れる可能性だってあるわ』
みさの説明に南は絶句する。
「わざわざそんなことをする人がいるんですか……」
『さっきも言ったでしょ。あんたの想像が及ばないようなムーブをする人はいくらでもいるって』
「……はい」
南の返事にみさは一度頷いた後に続ける。
『そのうえで、さらにククライによって断罪されるリスクが格段に跳ね上がったわ。今、色んな人たちが『推しのバーチャルストリーマーにパクり絵を送り付けた断罪すべき絵師は誰か?』と聞かれればつかさの顔を思い浮かべる可能性が高いのよ』
「牧野さんの時と似た状況になってきた……ってことですか」
その南の言葉に、画面上のみさが頷く。
『だからあんたはいつで出撃できるように星降神社でとりあえず待機しておきなさい』
「わかりました」
みさの言葉にうなずきつつ、南はふと浮かんだ疑問を口にする。
「ちなみにあいね先輩もそっちで待機って感じですか?」
南の質問にみさは頷く。
「ええ。ただこっちに合流する前に一度つかさの様子を見てくるって言ってたわ」
「なるほど」
みさの回答にユウは納得する。
(やさしい人だもんなあ)
そんなやり取りをしていると、南を乗せた自動運転車は星降神社付近までたどり着いていた。
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