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怪物(3)

「ん?」

 南は不意に身体を走った悪寒に、思わず目の前で鮭の切り身をほぐそうとしていた箸を止める。

「どした?」

 南の急な挙動に、目の前でサンドイッチをつまみながらノートPCのキーボードを叩いていた飯塚が手を止めて一瞬南に視線を向ける。

「なんか……嫌な予感がした?何か……悪いおじさんに無理なことをさせられそうな予感というか……」

 そんなことを言う南の脳裏にはいつものようにへらへらと笑っている福田の顔が過る。

「なんじゃそらよ」

 得体の知れない南の回答に飯塚は首を傾げた後、再びキーボードを叩きはじめる。

 そう、二人は講義終了後、昼食を取りに学食へ来ていたのだった。――もっとも、飯塚は提出期限が迫ったレポートを書きながらではあったのだが。まあ、似たり寄ったりな状況の学生は他にもいるのか、そこそこにぎわっている学食内には昼食を取りながら教科書やノートPCを広げている学生たちの姿がちらほらと見える。

 南は飯塚がレポートを書いている間に、本日日替わりの焼き鮭定食を黙々と食べる。

「はあーっ、終わった……」

 飯塚はノートPCを閉じながらため息を漏らす。どうやらレポートは無事提出できたらしい。

「お疲れ」

「あんがとさん」

 南のねぎらいに飯塚はそう応じると、残ったサンドイッチを一気に平らげ、勢いよく残った牛乳を飲み干すし、両手を合わせる。

「ごちそうさまでした」

 それから一息吐くと、飯塚は南に尋ねる。

「そういや司馬っちさ、朝のあの先輩ってどこで知り合ったんだ?」

「ああ、夢野先輩のこと?」

 南の回答に飯塚は頷く。

「バイト先の先輩のお姉さんの友達、ということで昨日知りあったんだよ」

「あの子の友達と私は友達とか言ってるギャグマンガ日和じゃないんだからさ」

 南の回答に飯塚は苦笑する。南は飯塚の言っていることがいまいちわからず首を傾げる。そんな南の様子を見て飯塚は軽く咳払いをしてから続ける。

「で、なに。あの人絵師で高町幸音のファンなの?」

「って言ってたよ」

 飯塚の問いに南は頷く。

「高町幸音なー……。男で見てるのはあんまいないと思うけど、やっぱ人気あるよなー」

「そうなんだ」

 自分よりはエンタメに詳しい飯塚がそう言うということは実際人気があるのだろうと南は納得する。

「俺はやっぱり宇宙野いるかとかの方が好きだけどなー」

(……先輩、こんなところにもファンいたのか……)

「歌とかうまいし……トークも優しくて天使でママ味が強い……。疲れた心に効くんだよな……あの配信……」

「はあ……」

 いい年してママ発言はどうなんだと思いつつ、南は言葉にするのを控える。もっとも、世の中には母性の強そうなバーチャルストリーマー達をママと慕う人たちはそれなりに数多く存在しているのだが、南はそのことを知らないのであった。そんな話はさておいとき、前回のジモクとの戦い以来、宇宙野いるかの配信を直接見たことが無いことに南は改めて思い至る。

(そんなにファンいるなら改めて普通の配信ちゃんと見てみるか……)

 そんなことを考えていると、ふと思い浮かんだ疑問を南はぶつける。

「高町幸音はその……ママ感……はないんだ?」

「無い」

 飯塚、即答。

「まあ、ファンを大事にしてるし性格良いストリーマーだと思うけどね。ファンは王子様みたいって評してるよ」

 そう言って飯塚はスマホを操作し、その後画面を南に見せる。そこには、高町幸音のSNSアカウントが表示されていた。そのまま飯塚がスクロールするままに高町幸音のタイムラインを眺めていると、誕生日を祝ってくれたファンへの感謝の言葉や、ファンの描いてくれたイラストの紹介などを丁寧な言葉で行っている。そんな誕生日祝いのファンのイラストのうち、ある一枚が南の目に留まる。見覚えのある画風だったため、改めてイラストの投稿主を確認すると『春サクラ』と表示されている。

「あ、夢野先輩だ」

 南がそう言うと、飯塚がスマホの画面をスクロールさせていた指を止める。

「え?どれ?」

「これ。この春サクラって人」

「ああ、これか」

 飯塚は一度、スマホの画面を自身に向けてユウの示した投稿を確認する。

「はあー、この春サクラって人、フォロワー万単位でいるじゃん……えっぐ。しかもイラストも超うめえ」

 感心しながら飯塚は夢野こと春サクラの情報をSNS上で漁る。しかし、ふとした瞬間に飯塚の探索の指が止まる。

「……司馬っち。司馬っちって夢野先輩と直接連絡とれる?」

「いや、連絡先知らないなあ。でも、お世話になってる先輩達は連絡先知ってるはずだから、そこ経由で連絡とれるかも。でも、どうして?」

「……杞憂に終わるかもしれないけど、夢野先輩、炎上するかもしれねえぞ」

 飯塚の言葉に南は衝撃を受ける。

「夢野先輩が?どうして?」

 南の疑問に対し、飯塚はスマホの画面を提示する。そこには、高町幸音が夢野のファンアートを紹介している投稿に対するリプライが表示されている。そこには『このイラストトレパクじゃない?』という文章と共に、確かに似たような構図・ポーズのイラストが表示されていた。

「……つまりこれって……?」

 文字は読めるが、書いてある内容の意味が分からない南は解説を飯塚に求める。それを受けて飯塚は軽くため息を漏らしながら答える。

「要は、あの先輩が他人の絵をパクッて自分のイラストにしている……と、因縁つけられているってことだ」

 それを聞いた南はやはり、事の重大さがいまいち理解できないでいた。

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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