Hello, world!(2)
福田達が打ち合わせをした数時間後、南はバイト先の24フレンドに来ていた。今日もシフトの時間が被っているため、あいねが既にレジに立っている。見回してみると珍しく店内に客は来ておらず、他に誰の姿もない。
「お、司馬君。お疲れ~」
あいねは笑顔で手を振ってくる。
「お疲れ様です」
そう言いながら南はあいねを見る。それから今朝会ったみさの様子を思い浮かべる。両者を比較してみると、あいねは随分と通常通りに見える。そんなことを考えながらまじまじと見ていたせいだろうか、あいねは怪訝そうな顔をして首を傾げる。
「司馬君、どったの?」
そんなあいねの反応に南は少し慌てる。
「ああ、いや……大したことじゃないんです。ただ、今朝あったみさ先輩があまりにも体調悪そうだったから、あいね先輩はそれに比べて元気そうだなって」
南の言葉にあいねはああ、と言いながら納得する。
「みさちゃんはお酒あんまり強くないからね。昨日も加減ちょっと間違えちゃったみたいだし」
「なるほど……」
同意しつつも南の脳内には『本当にそれだけだろうか?』という疑問が浮かび上がる。
「ちなみにみさ先輩って昨日どれくらい飲んだんですか?」
「缶チューハイ一缶くらいじゃないかな?」
(それであんなになるのか……)
南は昨夜のみさの暴れっぷりと今朝の状態を思い出す。
「あの人、もうお酒飲まない方がいいんじゃないですかね……」
「私もそう思う」
そんなやり取りをしていると、南はふとレジのすぐ横に置かれているディスプレイラックに取り付けられたポップに気が付く。ポップには『子供の日におすすめ!子供の日限定スナック!』という宣伝文句と共に、様々なアニメのキャラクターのイラストが描かれている。
「これは……」
「ああ、これ?うちのスタッフが描いたんだよ。もうすぐ子供の日だからね。限定スナック宣伝しようって」
「ああ、そういうことですか」
あいねの説明に南は納得する。
「しかしこのイラスト、めっちゃうまいですね。あいね先輩が描いたんじゃないんですか?」
南の質問にあいねが苦笑しながら首を横に振る。
「うん。あたしは絵は人並みだからね。これ描いた子、まだ司馬君シフト一緒になったことなかったんだね。まあ、今丁度入ってるから会えると思うよ」
あいねがそう言うや否や、バックヤードから制服を着た一人の女性が出てくる。
「あっ」
その人物の顔を見て、南は軽く驚きの声を上げる。そして、相手もその声に反応し、顔を上げて南の顔を見る。
「あっ」
そして、相手も南の顔をみて驚きの声を上げた。
その場に立っていたのは、丁度朝に南がみさといるときに会った人物、夢野さつきだった。
「あれ?二人とももう会ったことあるの?」
あいねの質問に南は頷く。
「ええ、まあ。と言っても知り合ったのは今朝で、それも本当たまたまですけど」
南の言葉に夢野も頷く。
「あいねちゃんとも知り合いだったんだね。なんだ、みさちゃんも教えてくれたらよかったのに」
「知り合いっていうか、うちのスタッフだよ。今までシフト被ったこと無かったから知らなかったんだろうけど」
「あー、そうなのか。んじゃあ司馬君。改めてよろしく」
「よろしくお願いします」
二人は互いに頭を下げる。それを見たところであいねが話題を転換する。
「ちなみに丁度今、さつきちゃんの話してたんだよ」
「私の話?」
あいねの言葉に夢野は首を傾げる。
「そう。これのこと」
そう言ってあいねはディスプレイラックのポップを指差す。それを見て夢野はああ、と納得する。
「ちょっと店長に頼まれて片手間で描いた落書きだよ。大したものじゃないから」
そういって後頭部に手を当てて夢野は謙遜する。そんな夢野の言葉に南は忌憚ない感想を口にする。
「片手間でこんな絵が描けるんですか。すごいですね」
南の言葉に夢野は頬を赤くする。それからあいねに耳打ちする。
「あいねちゃん、この子なんなの……」
「とっても素直なだけだよ。彼、嘘とかお世辞とかそういうのは全然ダメなタイプだから」
「余計タチ悪いよ……」
「まあまあ、素直にほめてくれてるんだから」
二人が内密で何やらやり取りをしている様子を見て南は首を傾げる。
「どうかされました?」
夢野はそんな南にため息を漏らす。
「なんでもないよ……」
「うん、なんでもない」
あいねの笑顔の言葉に南は首を傾げつつも引き下がる。
「はあ、そうですか」
南がおとなしくなったことを確認してからあいねは話題を引き戻す。
「さつきちゃん、絵がとっても上手なんだ。SNSとかでもイラストあげるとすごい拡散されたり高評価がついたりするんだよ」
そういってあいねはスマホの画面を見せる。画面に表示されているのはショートメッセージ型のSNSのあるアカウントの投稿履歴ページだった。そこには『春サクラ』というユーザー名と、そのユーザーが過去に投稿したイラストが表示されている。イラストに描かれているのはアニメやゲームのキャラクターのものだが、それらのイラストはどれも1000以上の高評価がついている。
「はあ……すごいっすね。絵もすごい上手です」
「なんかこういう感じのピュアな子に言われると……こう、なんていうか……アレね」
「え?」
さつきが何を言わんとしているのかわからず、南は疑問の声を上げる。その時、あいねが画面をスクロールし、新たに別の過去の投稿済みイラストを表示させる。その中には『R-18 センシティブ画像』という記載と共にイラストにフィルターがかけられているものもあった。
「あれ?これとか絵が見えないですね。どうやったら見え……」
「ストーップ!!」
さつきが咄嗟に大きな声をあげて南が隠されているイラストの中身を見ようとするのを阻止する。
「え!?」
予想していなかった夢野の行動に南は一瞬フリーズする。直後、夢野はあいねに耳打ちする。
「私の18禁イラストは推しちょっとエグめなBLモノなのあいねちゃんも知ってるでしょ!こんなピュアボーイにいきなり見せていいもんじゃないよっ!」
「ああ、ごめんごめん」
夢野の言葉に苦笑しながらあいねはすぐに画面をスクロールする。その時、ふと一枚のイラストが目に入った南は驚きの声を上げる。
「え?」
そんな南をあいねが怪訝そうに見る。
「ん?どうしたの司馬君」
「いや、これ」
そう言って南はあいねのスマホの画面を指さす。そこに表示されているのは遠渡星のアバターのイラストであった。
(もしかしてもう、信者……出来てる?)
南は思わずそう、内心で呟いた。
それから南は軽い気持ちで夢野に疑問を投げかける。
「このキャラクター、ファンなんですか?」
それを聞いた夢野の目が妖しく輝いた。
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