奇縁ロマンス(1)
牧野の騒動から2週間後、南は大学の学食にいた。少しずつ学生生活にも馴染んできた南は注文した日替わり定食の白身魚のフライ定食を慣れた様子て受け取り、昼食を取る席を探す。すると、近場の席で食事を取る澤野と西山を見つけた。
「澤野さん、西山さん」
何故澤野達がここにいるのか分からず、南は思わず声をかける。
「ああ、司馬君」
「こ、こんにちは、司馬さん……」
澤野は空いている左手を軽く上げて南の声掛けに応じる。どうやら澤野は今日の昼食は常設メニューのチャーシュー麺にサラダのセットらしい。その横では西山は大学生協で買った思われるカロリーメイトと野菜ジュースだ。
(西山さん、食欲無いのかな……)
そんなことを思いながら、南は西山たちに尋ねる。
「相席、良いですか?」
南の問いに澤野達は頷く。それを受けて南は澤野の対面に座る。
「澤野さん達はどうしてここに?」
南はフライにソースをかけながら質問をするが、その内容に澤野は苦笑する。
「どうして……は、ひどいなあ。俺、一応ここの学生なのに」
「え?」
予想外の回答に南は驚く。
「だって……福田さんのところであんな働いているからてっきり社員なのかと……」
南の回答に福田は得心したような顔をする。
「まあ、確かに博士だからもう全然働いても不思議じゃない年齢な上に、福田さんに頼まれた仕事してるからねぇ……でも、ありゃうちの研究室への業務委託みたいなもんだよ」
「業務委託?」
南は鸚鵡返しに聞き返す。
「そ、業務委託。この間福田さん言ってたでしょ?Stargazerは俺達に開発させたって」
「ああ、確かに」
澤野に言われて南は先日の福田との会話を思い出す。それと同時に南は脳内に浮かんだ疑問を澤野にぶつける。
「じゃあ、西山さんも澤野さんと同じ研究室に?」
南の質問に西山は首を左右に振る。
「いえ、私は朝起の下請けの会社の社員です……」
西山が恐る恐るといった様子で応える。
「へぇー、そうなんですね」
南は何故西山がここまで怯えたような態度をとるのか理解できず内心困惑する。
「ところで澤野さん、Stargazerの開発ってそんなに特殊なものなんですか?大学の研究室にプログラムの開発依頼するって、あんまりなさそうな話のように見えますけど」
南の質問に澤野は大きくため息を漏らし、虚空に目を泳がせる。
「そりゃまあ、人の魂をデジタルツイン上のアバターに移そうって代物だからね……」
澤野の様子に南は一瞬たじろぎつつも、脳内に疑問が浮かび上がる。
「実際それを体験してる身でいうのもなんですけど、どうやったらそんなことが出来るんです?」
人間の魂をデジタルデータに憑依させることなど現代の技術で到底実現できるようなものとは思えない。その正直な体感が質問という形で南の口から洩れる。
「まあ、詳しい原理までは理解出来ないんだけどね……遠渡星様曰く、特定の周波数の電磁ノイズを、祝詞のようなリズムで対象となる人間の近くで発生させると、人間の魂に影響を与えるんだと。だからまあ、Stargazerはアプリのハードウェア構成を解析して、そのうえで特定の周波数の電磁ノイズが遠渡星様が指定したリズムでスマートフォン周辺に発生するようにしているんだ」
澤野の説明を聞いて南は呆気にとられたような表情になる。
「……電磁ノイズ?それって人体に影響あるんですか?」
南の問いに澤野は首を横に振る。
「まあ、普通はないよ。でも、遠渡星様曰く『特定の条件が揃うと魂だけがデジタルツイン上に移動する』らしい」
「……それ、科学的に証明されてるんです?」
南は訝しむ。
「してないね。科学的どころかStargazerをインストールする記録媒体は遠渡星様が自らの霊力を付与しないといけないみたいで、完全にオカルトとかそっちの世界の話にしか見えないよね。そこらへんが原因で作ったプログラムだってデータなのに複製できないっていうんだから。なのでまあ、現行でStargazerを扱えるのは君のスマホだけだよ」
「よくその状況でアレ使ってジモクに対処しようと思ったもんですね」
改めて話を聞いてみても不確定要素の塊のような事態である。
「ほんとだよね。アレでジモクに対処できるって言うことについては俺も半信半疑だったんだけど……君がこうやって実際に使えてるからね。SF世界から来たような巨人たちの科学見識?っていうのも想像を超えるよねえ」
澤野はまたも虚空を見据えて遠い目をする。
「そんなよくわからんもんを使って戦うことになるってのもなんだかいいんですかねぇ」
南は首を傾げる。そんな南に西山は勢いよく頭を下げる。
「ご、ごめんなさい、司馬さん……!司馬さんがこんなことに巻き込まれたのは私のせいなんです」
西山の突然の告白の意味が分からず、南は首を傾げる。一方で澤野は『あちゃー……』と言った感じで額を抑える。
「どういうことです?」
「あの日、私は澤野さんが開発したプログラムの入ったSDカードを一足先に星降神社に届けるように頼まれていたんです……。ですが、その時にSDカードを落としてしまって……」
西山の話に南は納得する。
「ああ、だからあのSDカードあんなところに落ちてたのか……」
「そのせいで、司馬さんはこの件に巻き込まれてしまって……だから、私のせいなんです」
西山は泣きそうになりながら南に頭を下げる。周囲の目線がある中で女性に泣かれそうになるのは誤解を受けそうだと思った南と澤野は少し焦る。
「ま、まあまあ……そのおかげでこうして我々としては戦える人材と出会えたし、司馬君も金銭面の問題が解決したわけだし……これも何かの縁だったというわけで……」
そういって澤野は咄嗟にフォローを入れる。
「でも……」
溢れそうになる感情を必死に西山は堪えようとする。
「あれ、澤野さん、西山さんに……司馬じゃない」
そんなやり取りをしていると、聞き覚えのある声が呼びかけてきて、南達は声の主の方へと目線を向ける。すると、そこにはトレイに乗ったミートソースパスタを持ったみさが立っていた。
「みさ先輩」
「勝間さん」
「あ、みささん……」
三人はそれぞれみさの名前を呼ぶ。
「どうも。隣、座るわよ」
みさは挨拶もそこそこに、同意を得る前から南の横に座る。
(そういえばあいね先輩が、みさ先輩は俺と同じ大学っていってたもんな)
特にそんなことは気にせず、南はバイト初日の頃にあいねとした会話を思い返していた。
「で?こんなところで何の話してたの?西山さん泣きそうになってるけど」
そう言いながらみさはパスタをくるくるとフォークで巻き始めた。




