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インパーフェクト(4)

「よし……!」

 敵の触手を片っ端から斬り落としたことで、南の中で自信が生まれる。

「何が何だかさっぱり分からないけど……これなら戦える!」

 そう言うと南はジモクに対して構えを取る。

「ああ。そうだ、戦いはこれからだ」

 そんな南を鼓舞するように遠渡星は言葉をかける。


「すごいすごい!怪獣の攻撃全部叩き落しちゃったよ!」

 興奮した様子でいるかがスターゲイザーの戦いを実況する。

『おお、全部斬り落とした』

『かっけぇ……!』

『つーか敵のデザインがエグくてきもいな……』

 そんないるかに呼応したのか、コメント欄が活気づく。それを確認したいるかはスターゲイザーと遠渡星を応援するようにリスナー達に呼びかける。

「よーし!みんなで怪獣を倒すよう、二人を応援しよう!がんばれー!」

『うおおおおお、がんばれー!』

『やっちまえ!』

『いけいけ!』

 そして、そんな盛り上がりがネット上で拡散されているからか、同時接続者数がどんどんと増加し、現在は8000人近くに達していた。


「もーう、なんなのよ!なんで急に強くなるのよ!なんであたしたちの邪魔をするのよあいつは!」

 ククライは、急に強くなったスターゲイザーに苛立ちを覚え、配信中にもかかわらず駄々をこねる。しかし、訓練されたククライの視聴者達の大半はそれを受け入れていた。

『はー、駄々こねててもかわE』

『もっとキレさせたい』

 そんなリスナー達の様子にククライはさらにブチ切れる。

「あたしはどうだっていいんだよ!それよりもあいつらだよ、あいつら!あいつらを断罪するのー!」

 ククライの見せる断罪への執着にリスナー達は同意する。

『そうだそうだ!』

『あいつらは悪人だ、潰せ潰せ!』

『断罪!断罪!』

 だが、そんな盛り上がりには目新しい面白さがないからであろうか、ククライの配信の同時接続者数はあまり伸びることなく、現在も5000人前後であった。


 スターゲイザーは街の中を駆け抜け、巨大ジモクに接近を試みる。その進撃を阻もうと、ジモクは触手による攻撃を試みる。

「来るっ!」

 ジモクに赤いエフェクトがかかり、想定される攻撃軌道と対応プランが次々と南の視界に表示される。

「落ち着いてよく見るんだ。今の君なら対処できるだろう?」

 遠渡星の言葉に頷く。それに連動してスターゲイザーの頭が下がり、そしてその頭上を触手が掠める。さらにスターゲイザーは頭を下げた反動を利用して今度は跳躍する。足元を狙った触手が次々と地面に突き刺さる。

「これで!」

 さらにスターゲイザーは空中で左手の掌から光弾を何度も発射し、空中にいるスターゲイザーを追撃しようとする触手の初動を潰す。

「いっけぇ!」

 さらに空中で回転したスターゲイザーは、その勢いを利用して右手の光の刃をジモクに叩きつけようとする。

 その瞬間、相手の攻撃を避けれないと悟ったジモクは咄嗟に体の一部を剣に変え、その剣でスターゲイザーの斬撃を受け止める。

「!?」

 その剣を見た瞬間、昨日の戦いでマウントを取られ、大量の斬撃を浴びせかけられた時の恐怖が南の脳裏を過る。一瞬恐怖で身体が委縮しそうになるが……その時……!

『司馬っ!折角あたしたちがあんたをパワーアップさせたんだから、ここでヘタれて負けるなんて許さないんだからね!』

 アバターへの通信機能を介してみさの叱咤激励が届けられる。

「まったくもってナイスなタイミングだな。しかし、一人で戦っているわけではないというのは心強いものだろう?」

 遠渡星の言葉に南は苦笑する。

「でも、同時に……負けたらただじゃ済まなさそうですけどねっ!!」

 みさからの鞭を受けて、南は自身の中にある恐怖をすべて吐き出し、己を鼓舞するかのように叫ぶ。そして、スターゲイザーはジモクの刃をいなしながら流れるようにエルボーをかます。さらに、その一撃を受けてよろけた相手に後ろ回転蹴りを叩き込む。連撃を受けたジモクがよろける。

『全部聞こえてるんだけど。誰がおっかないって?』

「あっ」

 みさからの通信に思わず『しまった……』というような間の抜けた声を出しつつ、スターゲイザーはジモクとの間合いを詰める。そして、クロスレンジで斬撃と防御の高速での応酬を始める。


 バトルの勢いと迫力に、いるかやククライの配信コメント欄がさらに活気づく。

『うわ、バトルの迫力凄い』

『早すぎてみえねぇよ』

『インファイトのボクサー同士の殴り合いみてぇ』


 そんなコメントの勢いに後押しされるかのようにスターゲイザーとジモクの攻防も速さと勢いが増していく。至近距離での高速での攻防の読み合いに南の脳が悲鳴をあげ始める。そしてその悲鳴はそのまま南の口からも漏れ始める。

「ああああああああああっ!読み合いがキツイ!頭がっ!頭がっ……!」

「ふむ。次からは変身前にラムネ大量摂取し、そのうえで冷えピタでもおでこに貼ってから戦うか?」

『んなこと言うてる場合ですか!?』

 遠渡星のまじめだが気の抜けるような発言に、みさが思わずツッコむ。その間もスターゲイザーの攻撃と防御、そして南の脳は止まらない。そしてついに、スターゲイザーの斬撃が、ジモクの剣をたたき割る。そして、そのままスターゲイザーは追撃の斬撃を叩き込む。


「今だ」

 好機とみた遠渡星が南を静かに導く。その言葉に従い、スターゲイザーは流れるように構えを取る。そして、右腕の腕輪の水晶部分から勢いよく光線を発射する。光線は勢いよくジモクの身体に突き刺さる。そして、そのままスポンジにかけられた水のように、光線はジモクの身体へと浸透していく。そして、光線が全身にいきわたったジモクは青白く発光しながら、分解され、霧消していく。


「……倒した?」

「ああ」

 南は遠渡星の言葉に安堵のため息を漏らす。

「そうだ、牧野さんは……」

 南は避難させたビルの方へと目線を送る。牧野はビルの屋上から必死にスターゲイザーの方を見ていた。そして、スターゲイザーの勝利を見てから、安堵したのかその場にへたり込んでいた。

「そっか、無事で良かった……」

「君が守ったんだ」

 そう言われて南は、少し自身の中に今までになかった感情が芽生えていた。これは喜びなのだろうか。



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