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Excite

「よっと!」

 

 俺はそんな声を上げながら街に降り立つ。


 周囲を見回すと、様々な高いビルが聳えている。だが、これらのビルは本物ではない。全てデータだ。


 ――デジタルツイン。今自分が立っているこの場所は、現実世界を模して作られたデータの集合体だと言う。


 俺が今生活をしている街……星降スマートシティでは、”こちら側”の世界を構成するデータを使って、現実の世界にある様々なモノを制御しているという。


 例えば今、俺の目の前を走っている車。これ自体はデータなのだが、”こちら側”のこいつが走るとそれに応じて現実の世界でも対応する実体の車が走るそうだ。そして現実の車や周囲の状況が変化すると”こちら側”も変化する……そんな双子のような関係らしい。


 だが、例外はある。現実には存在しないデータだけの存在……現在の俺はその例のうちの一つだ。


 俺は今の自分の姿を確認する。形は人型だが、その体躯は馬鹿でかい。街のビルに負けないくらいの大きさ……身長にして50mは有るだろうか。そして、その容姿も銀色の肌や仮面を被ったような顔と、まるで子供の頃に見た特撮ヒーローのようだ。


「ところで……。今回は被害者はどんな人なんです?俺、授業終わったばかりで状況を把握していないんですけど」


 俺は通信を介して、戦いを支援してくれるメンバー達に疑問を投げかける。


『これを見なさい。そうすれば分かるわ』


 そんな俺の疑問に落ち着いた女性の声が返ってくる。


「みさ先輩」


 俺が返答をした女性の名前を呼ぶと同時、視界にマーカーのようなものとサブ画面のようなウィンドウが二つ現れる。


 みさ先輩……俺の戦いをサポートしてくれるメンバーの一人、そして大学の先輩でもある。


 俺は彼女の指示通りに片方のサブウィンドウの情報に目を通す。そこにはマーカーが指し示した場所の映像が表示されている。


 映像をよく見てみると壮年の男性が電波塔のような建物からロープで吊るされている。


「あの人が……どこかで見たことあるような……」

 

 その姿を見て俺が呟くと同時、もう片方のサブウィンドウにニュースのスタジオのような場所が映される。


 しかし、そのスタジオの席に座っているのはとてもアナウンサーやキャスターのようには見えない人物……と、いうか明らかに実在の人間ではない。


 アニメ調のビジュアルの3Dキャラクターの女の子……ピンク色の髪をお団子ツインテールにまとめている。


 ただ、服装は黒縁眼鏡にレディースのスーツと妙にお堅い。


「ククライ……!」


 俺が画面に映ったキャラクターの名前を呟く。


 中身がAIのバーチャル配信者……それがククライ。


 そして、彼女こそが俺達が戦うべき『敵』を生み出している元凶だ。

 

『時間になりました。ククライ断罪チャンネル……ニュースの時間です』


 そんなことを考える俺に構うことなく、ククライが自身の配信を進行させる。


『先日、国民的にニュース番組のメインキャスターが番組内で内閣総理大臣について『死ねばいい』と暴言を吐き、炎上しました』


 直後、淡々と落ち着いていたククライの語りが豹変する。


 自身の配信のリスナー達の怒りを煽るかのように、声としぐさをくねらせる。


『で・も・さ~?そんなの駄目だよね~?頑張っている総理大臣に、いくら自分と考えが違うからって死ねばいいなんて民主主義の否定?みたいな~』


 そんなククライの言葉に配信のコメントが盛り上がり始める。


『そうだそうだ』


『大体、メディアは権力側のくせしていつまで反権力ごっこ気取ってんだ』


『既得権益産業のくせにつぶれそうになるわけだ』


 そういったコメントが配信を盛り上げる。そして、そんな様子を眺めたククライが薄ら笑いを浮かべながら視聴者に尋ねる。


『そんな思いあがったメディア人がどうされるべきか……みんなわかるよね?ダ・ン・ザ・イ……されるべきだよねぇ?』


 ククライの言葉に応じて配信のコメント欄が『断罪!』一色に染まりあがる。


 そんな様子を見ていた俺に、今度は男の声の通信が入る。


『――ま、今ので事情は分かったでしょ』


「福田さん」


 俺は声の主の名前を呼ぶ。福田さん……彼が俺をこの戦いに巻き込んだ人物だ。なんでも大手の電機メーカーの管理職らしい。


『君くらいの世代ともなるとこういう人達に思うこともあるとは思うんだけどさ。とりあえず仕事だし助けてあげてよ。彼がこっちの世界で断罪で殺されたりすると、現実世界で何が起こるかは知ってるでしょ?』


 気の抜けるような福田さんの言葉に俺はため息を漏らす。

 

「それは良いんですけど……。あの人、全国規模で半端じゃないヘイト買ってるって言うことですよね?」

 

 俺はこれから起こる事態を想像し、肩が重くなるのを感じる。


(……しんどいことになりそうだ……)


「まあ、そこは彼女のサポート次第でマシになるかもしれないからさ、そこに期待ってとこかな」

 

 福田さんがそう言った直後、俺の視界の右側にウィンドウのようなものが現れる。そこにはイルカの被り物をした女性のキャラクターが映し出されている。


『こんにちは!今日も今日とて、宇宙野いるかの緊急配信だよ!見てくれてるみんな、ありがとう!今日も、街を脅かすおっかなーい化け物と戦う、スターゲイザーさんをみんなで応援しよう!よろしくね!」


 ――配信。そう、彼女……バーチャルストリーマー『宇宙野いるか』は今の俺ことスターゲイザーについて配信を行っている。


 その証拠に、彼女が映し出されているウィンドウに、ククライの配信と同様に様々な視聴者のコメントが流れている。それらのコメントはスターゲイザーへの応援や宇宙野いるかの可愛さを称えるものなど様々だ。


「ふむ、まるでヒーローショーだな」


 今度は、透き通っていて心に染みるような、美しい男性の声が頭の中に響く。


「遠渡星様」


 俺は声の主の名前を呼ぶ。


 ――遠渡星。この星振市の土着の神様であり、俺がデジタルツイン上で"戦う"ための力を与えてくれた存在でもある。


 そんな彼が言うように、今の俺が置かれている状況はさながらヒーローショーのようである。


 そして、ヒーローショーには必ず”敵”がいる。


「来たぞ」


 遠渡星様がそう言うと、ビルの陰から黒い、巨大な人型が現れる。


 俺達の敵である、その巨大な人型は良く見ると大量に人の目や耳のようなものがついており、生理的な嫌悪感が湧き上がりそうになる。


 ――ジモク。それが今の俺が戦わなければいけない相手だ。


 なんでも、人の心の集合体のような存在らしい。その中でも目の前のこいつは、人の悪意に染め上げられたような存在、とのことらしい。


 ジモクはよく見ると、巨大な盾とホースのようなものを手にしている。


 そして相手は手にしたホースを俺の方へと向ける。


 直後、高圧の水のようなものがホースから発射される。


「危な!?」


 俺は咄嗟に側転し、敵の水撃をかわす。


「このっ!」


 さらに俺は手から光弾を発射し、相手への反撃を試みる。


 しかしその攻撃は相手の巨大な盾にあっさりと防がれる。


『放水攻撃に盾……さしづめ機動隊<ライオットポリス>型ってとこかね……』


 福田が呟く。


『司馬、来るわよ!』


 みさ先輩が俺に注意を促す。


 直後、ジモクが盾を構えたまま突進し、俺に襲い掛かってくる。俺はそれをバックステップで一度かわす。そして、一度身を深く沈めた後、このアバターの身体を敵へと向けて勢いよく走らせる。


 そして、跳び蹴りを相手に叩き込む。


 巨大な質量同士のぶつかり合いに、電子の大地が、街が揺れる。


 俺は着地をすると、改めて相手を見据える。


 ――しかしそもそも、何故俺はこんなアバターで、神様と一緒にこんな訳の分からない化け物と電脳世界で戦っているのだろうか?


 事の始まりは、大学に入学したての数カ月前に遡る。


この話がどんな作品なのかをざっくりと伝えるために書いたプロローグです。

もし続きが気になったら是非続きも読んでいただけたら幸いです。


んでもって、さらにいうと感想やらブックマークやら評価ポイントいただけちゃったりすると幸いです。

よろしくお願いします。


2025/11/17

ちょっと加筆・修正して先頭に持ってきました。

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