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Identity(7)

「ま、教えるのが上手いかどうかは分からんけどね」

 福田はそう言って茶を啜る。それを聞いた光司は苦笑する。

「信用無いなあ。昔は師範代として道場で稽古つけてたことあるのに」

 それを聞いたみさとあいねが顔を見合わせる。

「そういえば神社で武術教室って確かにやってたね。知り合いの子とかも通ってたし」

「たしかに。何年か前に急に閉鎖しちゃってた気がするけど……」

 みさはそう言って首を傾げる。それを聞いた光司が後頭部を掻く。

「いやー、自分が師範代として道場運営してたんだけども就職を機に上京しちゃったからね。本当は兄貴がここの神職と一緒に道場運営も引き継ぐはずだったんだけど、色々あってね」

「兄貴?」

 光司の言葉に澤野が疑問を口にする。

「天司晴信って言えば澤野君にもわかるんじゃない?」

「ああ、あの政治家の。たしかに選挙区ここら辺でしたね」

 福田からの説明に澤野は納得する。

「そうそう、その人。本来はここの神職になるはずだったんだけど、6年前に議員だった祖父が死んでね。急遽地盤を引き継ぐことになったんだ」

 光司の説明に南は疑問の声を上げる。

「そしたら、その後はここには神職の人も誰もいなかったんですか?」

 南の疑問に光司は首を振る。

「いや、元々大叔父が神職してたんだよ。で、兄貴が政治家になって空白になった後継が決まるまで引き続き頑張ってたんだけど……元々悪かった腰が近年、さらに悪くなってね。で、引退もやむなし……という話になったんだ。そこで、後継として急遽俺に白羽の矢がたったってワケ」

「なるほど。大きい家の人は大きい家の人で苦労が色々あるんですね」

 南は感嘆の息を漏らす。

「そういうこと」

 光司は腕を組んで頷く。それから一度腕を解き、胸を張り、叩く。

「まあ、そういうわけなんで教える方も実績あり!信用してくれて構わないよ」

「はあ……」

 南はなんと返事をしたものか分からず気の抜けた返事をする。

「ちなみに、稽古してみた感想は?」

 福田に問われて光司は笑顔で答える。

「今度の成長性に期待大ですね!遠渡星様のサポートを受けて実践を経験したことで、基礎的な修練の結果を吸収しやすくするような下地はありそうです。鍛えがいありますよ!」

 さわやかな光司の回答にみさはため息を漏らす。

「要は実戦は経験したけどど素人に毛が生えたようなやつだから徹底的に鍛えるしかない……ってことよね……」

「すごいポジティブな言い方だねぇ」

 そんなみさの言葉に対するあいねの感想に、飯塚も頷く。

「でもまあ、そういう捉え方した方が前向きにやる気出るからいいかもね。ね、南ちゃん!」

「はあ。そういうもんですか」

 相も変わらずの南の回答にあいねは苦笑する。


「……」


 一方、そんな会話の最中、ふとみさは眉をひそめてこめかみに人差し指の先端を置く。

「……ん?どったの、みさちゃん」

 そんな彼女の様子が気にかかり、あいねが尋ねる。

「ん?あー……」

 みさは表を上げると、こめかみをとんとんと指でつつく。

「……冷静に考えたら、そんなに強いなら司馬じゃなくて天司さんがジモクと戦えばいいのでは?と思って……」

 みさの言葉に澤野達の視線一斉にが光司へと向けられる。光司はそんな視線に気後れする様子もなく、後頭部を掻きながら笑い声をあげる。

「あっはっはっはっは!いやー、それが出来たら本当は良かったんだろうけどねー。これがそうもいかないんだ」

「どうしてです?」

 光司の回答にみさは疑問を口にする。

「それは簡単。だって俺、遠渡星様の霊力に適応出来ないし」

 それを聞いたみさは腕を組んで頭を上下に振る。

「ああ、なるほどなるほど」

 みさはそれから、顎に指を当てて考え込む。そして首を傾げる。

「……」 

 それから福田を除くその場に居た者達は一度無言で顔を見合わせる。そして、あらためて一同は光司の方を見る。皆の視線に気が付いた光司が笑顔でサムズアップする。それと同時に彼らは驚きの声を上げる。

「えええええ!?」

「うわっ、びっくりした!?」

 一同が上げた驚きの声に、光司も身体を小さく跳ねあがらせる。

「そりゃびっくりもしますよ……」

 みさはため息を漏らす。その横で澤野が光司に質問を投げかける。

「だって、遠渡星様を祀る神社の神主になる人なんですよね?それが遠渡星様と霊的に波長が合わないとかあるんですか?」

 澤野の言葉にみさが首を縦に振る。

 そんなやり取りをしている一方で、あいねが遠渡星に耳打ちをする。遠渡星は頷くと光司に近づき、彼を指で何度かつついた。しかし、遠渡星の指は光司の身体を突き抜け、そしてつつかれている本人はそのような事態に気が付く気配もない。

「……あ、あの……。こちらの方、神様なんですよね?一体何を……?」

 どうやら飯塚にも遠渡星の姿は見えているらしい。そのため、目の前で繰り広げられる光景に疑問を抱いた彼はあいねに尋ねる。そして、それを受けたあいねは笑顔で答える。

「んー?本当に気が付かないのかなって、思って」

「見ての通りだ」

 そして、遠渡星は腕を組み頷く。そんな二人のリアクションを見て、飯塚は呆気にとられ、そしてみさがため息を漏らす。

「ん?もしかして今遠渡星様がこの場にいらっしゃる?」

「はい。さっきまであいね先輩に頼まれて、遠渡星様が光司さんを突いてました」

 二人のやり取りから察した光司に尋ねられて、南が答える。それを聞いた光司はあいねを見ると苦笑を浮かべる。

「こらっ、神様で遊ばない!」

「ごめんなさーい」

 怒られたあいねは小さく舌を出すと、遠渡星と光司に頭を下げた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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