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亜人と差別と僕たちと

「そういう意味では勇者なんですね」

「んか」

ここどこだ?

 なんか懐かしい匂いがするような…えーと、ここはたしか、亜人の街……

「デミュールか」

 そうだそうだ、僕達はデミュールのエミアンさんの家に泊まったんだった。

 慣れてない場所で寝ると、起きた時毎回混乱するんだよな。

「ドンさん達がいない……」

 書き置きが置いてある。

「なになに、デミュールの人達が人間の文化を知りたいと言うので、教えに行ってきます。か、デミュールの人達も歩み寄り始めたってことなのかな」

 着替えを済ませ、部屋から出る。

 下に降りると、エミアンさんがいた。

「おはよう」

「おはよう、ございます」

「君の仲間達は広場で人間のことを教えてくれてるよ、みんな興味津々だ。これがお互いの偏見や差別をなくすきっかけとなればいいのだが……」

「そうですね」

「あ、朝食は台所に置いてあるよ」

「ありがとうございます」

 台所には、薄いパンのようなものと、目玉焼きが置いてあった。

「パン……?」

「安心してくれ、調理過程全てに棒を使用しているから、毛は入っていないはずだ」

「あ、いや、ただ見たことない形だったから、どうやって食べたもんかと」

「おかずをパンに乗せて巻くんだ。木の実を巻いておやつとして食べたり、肉を巻いて食べたりする」

「こうですか?」

 パンに目玉焼きを乗せ、くるくると巻く。

「そうだ。味付けは自分好みで」

 置いてあって塩胡椒を少しだけかけて食べる。

 パリモチ食感のパンと黄身の濃厚な味とマッチしている。

 確かにパン自体にはあまり味がついてないから、いろんな食材と合わせられるだろうな。

「美味しいです、とっても」

「だろ、亜人がいつか人間に食事をご馳走する時に出せるように、これを作ったんだ」

「へぇ……」

「それに、亜人の口は人の形と異なるから、棒状に巻くことで比較的食べやすくしたんだ」

「なるほど、しっかり考えられてますね」

「あぁ、小さいことからコツコツとやっていかないと。亜人と人間の確執はこの長い歴史の中でどうしようもないくらい凝り固まっている。たとえ意味のないことだとしても、私はできることは全てやりたい」

「エミアンさん……あの…」

「なんだい?」

「僕に教えてくれませんか、亜人のこと、差別のこと」

 エミアンさんは目を薄くして、僕を見つめる。

「いいのかい、知ったら後悔するかもしれない」

「知らないで後悔はしたくありません」

「知っても、何かが変わるわけでもない」

「でも、変わろうとすることはできます」

「…………」

「…………」

 外から、誰かの笑い声が聞こえる。

「わかったわかった。話そう、君に」

「お願いします」

「前提として、君は勇者を知ってるかな?」

「……異常性癖者のことですよね」

「そうだ。亜種族と関係を持った者、それを勇者と呼んで揶揄しているというわけだ。だが、彼らのした行為に亜人は感謝している。ただ人間に忌むべきものとして駆除されるだけの亜種族がある程度は人と暮らせるようになったのだから」

「そういう意味では勇者なんですね」

「そうだ。だが、人間達は亜人達をあまり良くは思わなかった。なぜだと思う?」

「……人よりも力が強いから?」

「そうだ。元々人を襲っていた存在が人の形をしているだけ、危険なのは依然として変わらない。そんな考えが人間達にはあった、だからこそ亜人達が自分達に逆らわないよう徹底的に打ちのめすべきだと考えてしまったんだ」

「で、でも亜人は亜種族と違って、人と意思の疎通ができるんでしょう?」

「あぁそうだ。でも君は考えなかったか?勇者が亜種族と関係を持てたのは何故だろう?と。意思の疎通が取れない存在が人間と関係を持つと思うかね?じゃあ、勇者が特別な存在だったのか?いや違う、勇者はただの異常性癖者だ、特別な力を持っていたわけじゃない」

「じゃあ、亜種族は人間と分かり合える存在なんですか?」

「そうだ、少なくとも意思疎通が不可能というわけではない」

「じゃ、じゃあなんで?」

「人間にもさまざまな性格があるだろう。例えば君のようなハーフリングはおとなしくて平和好きな性格とされているが、君は実際のところどうだ?」

「平和は好きですけど、おとなしいかと言われたら、違いますね」

「だろう、だが、人間達は人を襲う亜種族を見て、亜種族全てが危険な存在だと決めつけてしまった。同じ種族であっても、人間との対話を望む亜種族もいたというのに」

「そんな……!」

「君は言ったね。未知への恐怖より、既知への恐怖の方が強いと。だが、実際のところ君のような考えを持つものは稀だ。人間は知らないと言うだけで拒否反応を起こす。知らないから怖い、知らないから触れたくない、知らないから理解したくない、だから、少し知るだけでそれが全てだと決めつける」

「そうですか…」

「それに、君の仲間のハーフエルフ。彼はマジク・マジカで差別されていなかったか?」

「されて、ました」

「だろう?あの賢いとされるエルフも、魔力量や血といったものに縋り、自分達を優位に立たせるため魔力の少ない者、純血でない者、それらを劣等だと決めつけ差別する。同じ種族同士でさえこんなにも酷い差別をするのに、種族が違ったらその差別が酷くなることは容易に想像できるだろう?」

「……はい」

「我々は価値観の差異の分、相手に対し、よくない感情を抱くものさ」

「だからって、差別していいわけがないでしょう…!」

「だがトラン君、人間がこうやって差別するのは仕方ないことなんだよ?」

「え?」

「君は肉を食べるね。だかその肉はどこから来たものなのだろうか?まぁそのほとんどは牧場から出荷されてきたものだろうね、牧場の牛、豚、鶏、これらは人間に管理され、最終的には屠殺される。これも君は差別だと考えるかね?」

「考えませんね」

「うん、素直でいいね、その通りだ。これは差別じゃない、人間が生きるために仕方のないことだ。じゃあ、亜人達を差別するのも、亜人達が人間を殺さないようにするためにやってること、だから仕方のないことだ」

「それは…!違うでしょう!?そんなのはあまりにも…!」

「あまりにも?」

「極端だ」

「じゃあなんだい?君は亜人達が人に形が似ていて人語を解すから差別はダメだと言うのかい?じゃあ君は家畜がやめてくれと叫んだら喜んでやめるかね?」

「わかってます!わかってますよ……生きてる以上、僕達がしていることは全てわがままでしかない、生きるためには仕方がないだなんて言い訳するつもりもありません。僕達が立っている場所は、大量の犠牲によってできている」

「そうだ、その犠牲によってできた地面が人々を不安にさせる。自分もこうなるのではないかという不気味な考えが頭をもたげる。トラン君、それを知ってもなお、君が亜人達に対して持っている考えは変わらないか?」

「変わりません、僕は自分の考えが正義だなんてはなっから考えちゃいません。これはただのエゴだ」

「その考えを忘れないでくれ、この街の亜人達も、人間に対して悪いイメージを持ってはいるが、だからといって自分達が正しいだなんて思っちゃいない。結局、どんな種族であれ、矛盾を孕んでいるんだ」

「矛盾……そうですね」

 確かに、僕が亜人達に対して持つ考えや感情はもしかしたらただの自己満足かもしれない、亜人達のことを知ろうとする心の裏で、自分はなんて良いことをしている善人なのだろうと喜ぶ心があるのかもしれない、考えてもわかるはずがない、考えても自分の胸が苦しくなるだけ、でも、その考えを持って進まないと、僕は今までの僕でしかなくなってしまう。

 嫌なことから逃げるのは生き物の性だろうけど、それに直面して進もうとするのが人間の矛盾なんだろう。

 少なくとも、僕は矛盾を正すことが人間の全てではないように思える。

「亜人の差別は未だ多い、奴隷扱いを受ける亜人がほとんどだ。私はそういった亜人達を守るためにこの街をつくった。この街を訪れた人間が少しでも亜人達を知ろうとしてくれるようにするために」

「そう、だったんですか」

「人間を憎み、恐れていた彼らは今、君たちのおかげで外に目を向け始めている。ほんのちょっとずつ変わろうとしているんだ。君の言うとおりだよ、変わることが不可能でも、変わろうとすることができる、その意思が重要なんだろうな……」

「ですね…」

 窓の外を見ると、ケモ人の子供達が遊んでいた。

 遊んでいる子供の中には、尻尾が切られている者や、耳が片方ない者がいた。

「僕、ちょっと散歩してきます」

「あぁ、そうしたほうがいいだろう。私も少し会話に熱が入ってしまった」

 外に出ると、乾いた風が頬を撫でた。

 一歩一歩足を踏み出すたび、僕が今まで犠牲にしてきたものを感じる。

 でも、そのほとんどは忘れてしまっているのだろう。

 どうしようもない無力感と悔しさが胸をぐちゃぐちゃにする。

「な、なぁ、あんた」

「は、はい?」

 振り向くと、昨日救助したケモ人の2人がいた。

「どうしました?」

「あ、あの、その」

 ネコのケモ人はウサギのケモ人の足に隠れる。

「いや、お礼を言いたくてさ、俺はチナツ。俺じゃこいつのこと助けられなかったから。ありがとうな。ほら、お前も」

「う、あの」

「ダメだ、悪いな、こいつまだちょっと人間のことが苦手なんだ」

「あの、2人はどういった関係なの?」

「同じ屋敷で奴隷として働いてたんだよ、俺はなんとか働いてたけど、コイツの方は主人がいじめるわ他の使用人もいじめるわで散々だったんだよ。だから、俺とコイツで逃げ出してきた」

「両親は…いないの?」

「さぁな、どっかでくたばってるかもな。俺にとっちゃ、コイツが唯一の家族だ。だからほんとに感謝してる。な?」

「あ、あ、あ、ありがと」

 ネコのケモ人はぺこりと頭を下げ、またチナツの足に隠れてしまった。

「言えたじゃねぇか、えらいぞ」

 撫でられたネコのケモ人は照れくさそうに笑った。

 その顔を見たら、目から涙が溢れ出てきた。

「ど、どうしたんだあんた?腹でも痛いのか?」

「同じじゃないか…!同じじゃないか……!なのに……!」

嬉しさと悔しさとよくわからない感情でぐちゃぐちゃになって、ずっと泣いていた。

 その間、僕の背中と足ををさすってくれたウサギとネコの手の温かさは、僕が泣き終わった後も、じんわりとその形を残していた。

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