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魔力とマナと大いなる力

「うぁっ、何これ!?」

 時は朝の9時、魔術学院セアニアのk49にて、僕はノウさんに魔法やマナについて学びに来ていた。

「では始めようか」

「お願いします」

「魔力とは何か知っているかな?」

「変わりやすいエネルギーですよね?」

「そうだ。炎 風 氷 電気と様々な状態に変化し、我々の日常生活でも大いに役立っている」

「あ、でも気になるんですけど。ここでの移動で使われている魔法ってどんな原理なんですか?エネルギーで説明できないような気がするんですけど」

「ふむ……」

 考え込んでしまった。

 まともに説明してもわからないだろうから、噛み砕いた説明をしようと考えてる顔だ。

「君は鋭いな」

「いやそれほどでも…ん?」

 ノウさんの方がよっぽど鋭いじゃないか。

「そうだな、魔力が炎や電気に変化するのを正に変化していると考えるなら、転送魔法での魔力は0に変化している」

「ん?」

「正確には0以上1未満の状態に変化している」

「ん〜?」

「1を魔力が物質に与える影響力の最低値とした場合、1未満の状態になると影響を与えなくなり、そして影響を受けなくなる。その状態だと物質を通り抜けることができ、魔法陣を目印にして一瞬で移動するようになっている」

「ん〜〜???」

「一時的に幽霊となって壁をすり抜けている」

「なるほど!」

「順番に説明すると、まず1未満の魔力で対象を包む、対象のマナと融合し幽霊状態となる、魔法陣が対象の望む場所の近くにある同じ形の魔法陣に対象を魔力として送る、そして到着した瞬間に対象を魔力から出せば転送の完了だ」

「そんなすごい技術よく作れましたね」

「いや、魔力が1未満に変化できることを発見したのはつい最近のことだ。転送に使えることは最近新たに発見されたマジクの魔導書に書かれていた」

「えぇ?じゃあ、マジクはとっくのとうにその魔法を発見し、技術を作っていたんですか?」

「そうだ。この学院には700を超える大魔法使いが集まっているが、未だたった1人の魔法使いを変えることができていない」

「すごいなぁ…ところで、転送魔法が見つかる前はどうやって学院内を移動してたんですか?」

「飛んで移動、もしくはテレポートを使用していた」

「テレポートは転送魔法とは違うんですか?」

「原理は転送魔法に近いが、なにぶん安定しなくてな……ちゃんと条件を決めないと壁に埋まったりするんだ」

「怖っ!?」

「なので最近ではあまり使われていない」

「そりゃ安全な方を使いますよね…」

「あ、ところでずっと前から気になってたんですけど、マナってなんなんですか?魔法と何か違うんですか?」

「ふむ、マナの説明をするにはまず魔法の触媒について話さないといけないな」

「触媒?」

「君の仲間のエルフはどうやって魔法を出している?」

「手から出してますね」

「だがこの都市に住んでいる魔法使いの殆どが杖を持っているだろう?」

「そうですね、なんでだろ」

「それは杖を触媒として魔法を放つ魔法使いが多いからだ」

「手で放つのと何か違いがあるんですか?」

「ふむ、杖の方が魔力が圧縮され、放つ魔法の威力が上がる」

「なるほど?」

「水で例えるとわかりやすいな。水を手で掬ってかけるより、ホースを用いて水をかけた方が効率がいい」

「なるほど!」

「ただその分必要となる水の量が必要となる。その場合、手から出す魔法の方が調節ができるし、小回りが利く」

「適材適所ってことですね」

「その通りだ。だが、エルフの彼は魔力量が見たところ少ないようだ。エルフにとって魔力の少なさは差別の対象になる。だから、彼は私の部屋にいたときも複雑な顔をしていた」

「そうだったんですか、そんな理由が」

 というかこの人、人の感情に頓着しなさそうなのに、めちゃくちゃ感情の機微に気づいてるな。

「話を戻そう。杖以外の触媒として、呪文と魔法陣が挙げられる」

「呪文?言葉も触媒になるんですか?」

「魔力は音にも変化できる、これを利用し、放った言葉に魔力を乗せ、特定の言葉の波長に反応させることで魔力を変化させる」

「声でも変化するんですね」

「ノームの考え方だと、魔力には意思が宿っており、魔力にしか通じない言語でお願いをすることでいうことを聞いてくれるという考えらしい」

「へぇ、捉え方も色々なんですね」

「次に魔法陣だが…」

「知ってますよ、魔力が通る回路のような者ですよね?」

「その通りだ。基本は円の形で円の中にコードを書き込む、これに魔力を流し込み魔法を出力する。魔力製品には魔法陣が刻まれており、魔力が供給される限り動き続ける。だが、魔法を長いこと流し込むと魔法陣が魔力により削れてしまい、回路が機能しなくなるなど回数に制限がある。しかし、魔法陣の大きさと流し込む魔力の量で威力が変わり、魔法の触媒の中では手間がかかる分、最も威力が高くなる」

「ロマン技ってことですか」

「いや、基本的には既に紙に描かれているものを使用したり、魔力を使って魔法陣を描いたり、地面に仕込んだ魔法陣を遠隔から起動させてトラップとして使用するなど、応用を効かせて使用している」

「遠隔から起動って、どれくらい離れて起動できるんですか?」

「前は遠くから杖で魔力を飛ばして起動させる方法が主流だったが、転送魔法の発見により魔力を転送する魔法陣を罠用の魔法陣の中に組み込み、離れた場所からもう一つの転送魔法陣から流し込み発動させることでより遠隔からの起動が可能になった」

「なるほど、魔法も日々進化してるんですね」

「尚、これらの触媒は併用が可能だ。杖から放った魔力を呪文で変化させ、より威力を高める方法や、杖の魔力で魔法陣を描き、杖から魔力を流し込み、より素早く魔法陣を発動させる方法、魔導書に書かれた魔法陣を呪文で起動させることで、相手の予測できない魔法を放つ方法など、組み合わせ次第で戦い方が変わる」

「なるほど、触媒のことはよくわかりました。で、マナってなんなんですか?」

「人を触媒とした魔力」

「え、それは手から放つ魔法じゃないんですか?」

「違う、魔力は人の体の外にあるものだが、マナは人の体の中にあるものだ」

「じゃあ違う場所にあるだけで、本質は同じものなんですか?」

「少し違う」

「じゃあどのような」

「…………」

 ノウさんは少し黙った後、自分の腕を魔法で傷つけた。

 血が溢れ出し、床に血溜まりを作っている。

「あっ、なにを!?」

「この傷は魔法では直せない。せいぜいできて止血ぐらいだ」

 ノウさんの腕から溢れ出している血が、その量を減らしていき、しまいには血が出なくなっていた。

「血が止まってもひどい傷ですよ!は、早く病院に行かないと…!」

「あぁ、そうだ、肉は裂け、骨にヒビが入り、血管も断ち切れている。だがここにマナを注ぐと…」

「あ……!」

 パックリと開いた傷がまぶたをゆっくりと閉じていくかのように、塞がっていく。

 あまりに異様な光景に開いた口が塞がらない。

「ほら、元通りだ」

「どうなって…?」

「マナは人の生命エネルギーに反応して変化した魔力だ。人体に強い影響を及ぼすことができる。マナを治癒力に変化させることで、このように傷も塞ぐことができる」

「なにも実演しなくてよかったんじゃ…」

「こっちの方がわかりやすいだろう」

 あんなにひどい傷だったのに、表情一つ変えないなんて怖いなこの人。

「魔力によって生命活動を維持する生物を我々は魔法生物と呼んでいるが、我々人間もマナが尽きると、非常に危険な状態になる」

「ぼ、僕にもマナがあるってことですか?」

「魔力が充満している世界で生きている以上、マナがない人間はありえない」

「へぇ…!」

「手を出してみてくれ」

「あ、はい」

 手を出すと、ノウさんに手を握られた。

 次第にノウさんの手と僕の手が溶け合って混ざり合うような奇妙な感覚になる。

「うぁっ、何これ!?」

「君のマナと私のマナを反応させている。マナは人の感覚であり、感情でもある。だからこんなこともできる」

 ノウさんの手に力が入る。

 すると、次第に視界が暗くなっていき、何も見えなくなる。

「うわっ!怖っ!」

「君の目の働きをマナで妨害した。このようにマナは人の生命活動を補助することも妨害することもできる」

 ノウさんが手を離すと視界が正常に戻る。

「マナってやばいですね」

「そうだな、マナが人体にどこまで影響があるのかなど、分かっていないことの方が多いな。ただ、妖精などの種族はマナを多く持つ特徴がある」

「妖精…見たことないですね」

「妖精は魔力が多い森の奥深くで暮らしている種族だ、魔力に触れる時間が長い分、マナの量も多くなっている。魔力を効率よくマナに変化させる器官があるようだ」

「人間にはないんですか?」

「あるにはあるが、作る量は妖精に比べると少ない。魔力の少ない土地に住んでいる人には器官が確認されていないから、魔力の多い土地に住む人間が魔力に適応するために進化したものだと考えられている」

「へぇ…面白いですね」

「だろう?ところで君のマナに触れて分かったんだが、君、マナが濃ゆいな」

「濃ゆい?」

「あぁ、マナは魔力が人の生命力に感応して変化する、だからその人が持っている魔力と生命力がマナの量と質を決める。君の場合、魔力量は少ないからマナの量も少ないが、生命力が強い、だからマナの質が良い。君、怪我の治りが早かったりしないか?」

「そうですね、子供の頃は毎日なんらかの怪我をしてましたけど、翌日には治ってました」

「なるほど、マナの使い方を学べば、何か役に立つかもしれないな」

「どんな使い方があるんですか?」

「すまないが、マナは私の分野ではない。私の友人にマナの使い方をよく知る者がいるから、機会があったら紹介しよう」

「お願いします」

「ふむ、こんなものかな、魔法とマナの違いは分かったかな?」

「はい、わかりました」

「よろしい、次は君に軽い魔法を教える」

「え?そこまでしてくれるんですか?」

「あぁ、ちょうど試したいことがあったから」

「え?」

 ノウさんはほぼ机として機能してないであろう机の引き出しから紙を取り出し、何か描いている。

「これだ」

「これは?」

 円が描いてあることから考えるに魔法陣なんだろうけど、円の中には雑に描かれたℓのようなものが描かれている。

 なんだか僕のイメージしてた魔法陣と違うな。

「なんだか僕のイメージしてた魔法陣と違うなって顔だね」

「心を、読んだんですか!?」

「マナを使えば可能だろうが、これはただの観察さ」

 この人もエリフさんと同じで油断ならないな。

「これを見てどう思う?」

「雑、ですね」

「だろう、じゃあこれは?」

 もう一枚の紙には円の中に六芒星、その中心には十字の入った魔法陣が描かれている。

「イメージ通りかな?」

「まぁ、はい。僕の想像より簡単に書けそうですけど」

「あんまり難しいのを描いたら、君が困るだろうと思って」

「お気遣い痛み入ります」

 舐められてるけど、実際その通りだから何も言えない。

「実はねこれ、同じ魔法が出るんだ」

「え?でもだいぶ見た目が違いますけど」

「昨日君達の助けによって、私の助手が発見した魔導書に書いてあったんだ。魔法陣の簡略式らしい」

「簡略式?」

「果たして本当に同じ魔法が出るのか、実験してみよう。さ、魔法陣に触れてみてくれ」

「は、はい」

 魔法陣が描かれた紙に触れると、紙が手に吸い付いてくるような感覚になる。

「うおぉ、手が吸い込まれそう…」

「それは君の魔力を吸収しようとしている状態だ。その状態で手に力を込めて見てくれ」

「は、はいっ!」

 力を込めると、手がじんわりと暖かくなる。

「手に熱が溜まってきただろう?その熱をゆっくりと魔法陣に流し込むようイメージで魔法陣に手を押し付けてみてくれ」

「んっ!」

 手の熱が魔法陣へと移動していく。

 次第に魔法陣に光が溜まっていき、光が魔法陣を満たした瞬間、魔法陣から閃光が生じる。

「ウワッ!!」

「あ、すまない、閃光魔法なのを言い忘れていた」

「う〜チカチカする。で、でも成功しましたね」

「そうだな」

「なんでこんな適当に描かれてるのに正常に作動するんですかね?」

「マジクの魔導書にはゲームでいうバグのようなものを利用したものらしい」

「バグまで利用するなんて、底が知れませんね」

「全くだ」

「これで全部ですか?説明」

「他に説明することは……もうないかな」

「そうですか、今日はありがとうございました」

「あぁ…そうだ、軽い小話なんだが、魔力が人間の生命力に反応したのがマナだと説明したが、もし魔力が他の生物の生命力に反応したらどうなると思う?」

「え?」

 他の生命力か、でも確かに人間の生命力に反応するんだったら、人間より強いドラゴンとかの生命力に反応したらすごいことになりそうだ。

「更にすごい力になりますよね、それこそドラゴンとか」

「そうだ、ドラゴンが放つブレスも、マナに近い状態に変化した魔力だと最近の研究で分かった」

「へぇ!」

「他にも、天使や僧侶が使用する祈祷と呼ばれるものは、神性によって変化した魔力だと発覚した」

「神性?ってことは神様のマナ?」

「そういうことだ。さすがに人間のマナと神のマナを同列に並べてはいけないという観点から、ドラゴンや神などの人間より上位の存在のマナを総じて大いなる力と呼ぶことにしている」

「えらく仰々しいですね」

「そうでもしないと、過激な信者が怒るんだそうだ」

「うわぁ、大変だなぁ」

「とまぁ小話はこんなところかな」

「あ、最後に質問いいですか?」

「どうぞ」

「魔力って1未満に変化できるって言ってましたけど、0、もしくは−1に変化できたりするんですか?」

「……いい質問だ」

 心なしかノウさんの口角が上がった気がする。

「私も1未満の魔力が発見された時、それを考えた。本来存在しないはずの−の存在、負に変化した魔力はどのように影響を及ぼすのか」

「どうなったんですか?」

「隙間ができた」

「す、隙間?」

「試してみるか?」

「え!?」

 ノウさんが虚空をなぞるように指を動かすと、空間に隙間ができた。

 どこから見ても、同じ形の隙間が見える。

 隙間の中には、僕の知識では説明できないような色をした空間が、シャボン玉液のように揺らめいている。

「な、にこれ?」

「まだ分からない、少なくとも軽々と扱っていいものじゃない」

「でしょうね!見ただけでわかる、エグいやつですよ!」

「あと、たまに何かがうつる」

「怖っ!?」

「ついでに、私のような存在が歩いているのが見えたこともある」

「え、別次元の存在とかですか?」

「そうかもしれない、だとすると、私は違う世界の自分に負けていることになる。これは非常に悔しいことだ」

「乗り越えるべき1番の障害はいつだって自分自身なのだよ」

「それは素晴らしい考えだと思いますが、とりあえず不安になってきたので閉じてくださいソレ!」

「わかった」

 ノウさんが隙間を握り潰し、手を開くと隙間は塞がっていた。

 なんだかどっと疲れた。

「もうお昼か、お腹すいたな」

「いい店を知っているが、一緒に行くかね?」

「え、いいんですか?」

「あぁ」

 研究にしか興味ない人だと思ってたのに、訪れた店はかなり大衆的な食堂だ。

「ここ、よく来るんですか?」

「あぁ、注文してから料理が出るまでの早さが素晴らしい」

 結局効率厨じゃないか。

「そしてなにより美味い」

 違った。

「おすすめはなんですか?」

「カルボナーラ」

「じゃあ、それで」

「私もそうしよう。すいません、カルボナーラを2つ」

 厨房を見ると、食材が魔法によって飛び交っている。

 なるほど、早いわけだ。

「こちらカルボナーラになります」

「どうも」

「……」

「どうしました?」

「いや、私の研究仲間だったら、また口うるさいことを言うだろうなと考えていた」

「何をですか?」

「今のなりますという言い方は少しおかしい。です、もしくは、でございますのほうが正しい、とか言わなくてもいいことを言うだろうな」

「研究者って全員変なんですね」

「そうだな。さぁ、食べよう」

 もちもちの麺に濃厚なソースが絡みつき、ピリッとした胡椒がいいアクセントになっている、カリッと焼けたたっぷりのベーコンも嬉しい。

 無我夢中で食べてしまった。

「あぁ美味しかった!」

「それは良かった」

 ノウさんはすでに食べ終わったようで、口を拭いている。

「食べるの早いですね」

「それはお互い様だろう?」

「そうですね」

「私はセアニアに戻るが、君はどうする?」

「僕は一旦宿に戻ろうと思います」

「じゃあ、ここでお別れだな」

「はい、今日は本当にありがとうございました」

「うん、それじゃ」

「ノォーーーーーウゥ!!!」

「ん?」

「え?」

 突然誰かがノウさんを引っ掴んで、ダンジョンへと走って行った。

 そしてなぜか僕もノウさんと一緒に掴まれている。

「え!?ちょっと!えぇーーー!?」

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