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変わりやすいエネルギーと変な人

「なるほどわかりません」

 メイリルでの暮らしやダンジョンの探索にも慣れ、レスキューの仕事を始めてから1ヶ月が経った。

 今、僕達は馬車に乗っている。

「なんで?」


2時間前


「あのー、エリフさん?」

「あれ、どうしたんですかトランさん。あなたが図書館に来るなんて珍しい」

「魔法生物図鑑を読んでたんですけど、いかんせん書いてあることが難しくて」

「でしたら、魔法の原理という本がおすすめですよ」

「それも僕が理解するには少し難しくてですね」

「……」

 マジかこいつって顔してるな。

「トランさん、魔法に触れたことは?」

「ほとんどないですね、仕事の関係で引っ越してきた都会の子が持っていた魔力で動くゲームと、家で使ってた原理のよくわからない魔力製品ぐらいしかないです」

「ふむ、場所を変えましょうか」

 僕とエリフさんは図書館を出てエリフさんの家に行った。

 エリフさんの家は思った3倍は大きく、エリフさんによるとドンさんとオーニシさんもここに住んでいるそうだ。

 中は思ったよりも綺麗だった。

「少し待っててください」

 そう言うと、エリフさんは2階へ上がり、何枚かの紙を持って下りてきた。

「これは?」

「紙です、何の変哲もない」

「これを何に使うんですか?」

「まあ、見ててください」

 エリフさんが紙に手をかざすと、紙が少しずつ浮き始めた。

「おぉ!」

「これが魔法です」

「なるほど?」

「そして」

 エリフさんが指を動かすと、紙は折られていき、紙飛行機になった。

「これが魔術です。」

「なるほどわかりません」

「じゃあ前提として魔力について説明しましょう。あなたが読んだ本にはなんと書いてありましたか?」

「状態が非常に変わりやすいエネルギー、だったと思います」

「エネルギーってなんだと思います?」

「え、えっと、何かの力?」

「ざっくり言えばそうですね。例えば、この紙を私が持ち上げたとします。この場合、この紙を動かしたのは私が与えたエネルギーです。このエネルギーの代わりに魔法を使うと、どうなると思います?」

「さっきみたいに紙が浮かぶわけですね」

「その通り、魔法とは魔力を用いて物体に影響を及ぼすことを言います」

「じゃあ、状態が変わりやすいというのは?」

「魔法にも種類がありますよね、炎魔法とか氷魔法とか、あれは魔力の状態を変化させているだけなんです。人1人が簡単に状態を変えれるほど変わりやすいんですよ、魔力というものは」

「どうやって変化させてるんですか?」

「魔素と呼ばれる魔力の原子のようなものがありまして、これの配列をいじることで火になったり、雷になったりします。逆に、生じた雷や火の配列を戻すと魔力になります。魔力は、ほとんどのエネルギーの元となるものなんですよ、今使われているコンロや冷蔵庫、ゲーム機とかの製品は全て魔力で動く魔力製品ですからね。製品の中にあるマジックコンバーター、通称MCが魔力を火や冷気、電気など用途に合わせたエネルギーに変化させてるんです」

「なるほど、便利なエネルギーが魔力で、それを使って物を動かしたり火をつけたりするのが魔法なんですね。じゃあ、魔術というのは?」

「魔術は、魔法技術の略称で、簡単に言えば魔法に応用を効かせたものです」

「応用?」

「紙を浮かせたり、飛ばしたり、丸めたりするのは魔法の範囲ですが、紙飛行機にしたり、バラバラに千切るのは魔術の範囲です」

「ん、んん?」

「紙を持ち上げる、投げる、丸めるは片手でできますが、折り紙をしたり、千切るのは基本的に両手を使いますよね?そんな感じです」

「なんか、曖昧ですね」

「そうですね、私の相手が考えそうなことを予め予想しておいて、もし相手が自分の予想したことを考えた場合、それがわかる魔法も魔術の部類ですけど、やってることは地味なんで魔法って言ってますね。まぁ、携帯魔法電話のことを携帯と呼ぶみたいに、魔法技術を魔法と呼ぶ場合もありますし」

「え、じゃあ魔術って、見た目がなんかややこしそうなことをしてる魔法ってことですか?」

「そうですね。ここら辺の定義は魔法学者とかじゃないと説明できないでしょうし。私が使う魔法と、火が矢の形になって飛ぶ魔法、どっちが魔術っぽいかと言われたらどう思います?」

「……後者の方ですね」

「でしょう」

「なんか、ざっくりしてるんですね、魔法って」

「そうですね、最初に魔力を見つけたマジク・マジカという大魔法使いもその難解さに頭を悩ませたそうですよ。様々な状態へ変化をするものだから、魔力の研究が難航して魔素の配列による魔力の変化のパターンがマジクによって解明されるまでは何となくの推測だったり、何の根拠もない迷信だったり、神の力の残滓だとか、我々の知らない第二存在の痕跡だとか、宇宙の破片だとか無茶苦茶な扱いを受けてたそうですよ。最終的に魔素の解明と、それを裏付ける落雷地点に発生する魔力と木々に燃え移った火の構成要素が魔素であるという研究結果によって、魔力の性質が解明されたそうです。ただ、それを用いた魔法と魔法技術に関してまた一悶着あったそうで、魔法を使うものを悪しきものとして迫害する風習だとか、魔法技術の独占だとか、一時期は魔法を使える者と使えない者を分断するという話も上がったようで、各地で魔法使いがひっそりと暮らすために結界が張られたと思われる魔法陣が入った建物が大量に見つかって、それが…」

 エリフさんは途切れることなく魔法の歴史を語っている。

 なんか、僕のイメージしていたエルフとはかけ離れている人だと思っていたけど、ここまでとは思わなかった、エルフって寡黙だと思ってたんだけどな。

 まぁ、それ言ったら僕みたいなハーフリングも平和な暮らしを愛する種族とか言われてるらしいけど、僕は冒険者を目指したから人のこと言えないか。

 ていうか、まだ喋ってるよこの人。

 え、2時間前とか書いてたけど、まだ1時間しか経ってないんだけど、あと1時間もあるのこれ?



1時間後



「とまぁ、この魔法戦争によって魔法使いが一般的になったと言われており、その後マジクの手によって魔術都市が作られたんです」

「ま、魔術都市?」

「魔術都市マジク・マジカ、世界中から魔法使いが集まる都市で、そこには長年の研究によって積み重なった魔法技術がたくさんあるんですよ」

「へぇ、行ってみたいなぁ…!」

「じゃあ行くか!!」

「うわあっ!?」

「あら、いつの間に帰ってきてたんですか」

「ついさっきだ、仕事もらってきたぞ」

「場所は?」

「今言っただろ、魔術都市に行くぞ」

「え!?」

 というわけで今に至る。

「なんで魔術都市から仕事が来たんですか?」

「レスキューの個人依頼の他に協会からの仕事も受けてただろ?仕事の報酬として、他の場所の協会に俺たちのチラシを掲示板に貼ってもらってたんだよ」

「じゃあそのチラシを見た人が仕事を依頼してくれたんですね」

「僕達も少しだけ知名度が上がったんだね」

「…………」

「エリフさん、どうしました?」

「いえ、なにも」

 エリフさんも魔法使いだから喜んでるかと思ったのに、なんだか浮かない表情だな。

「着いたぞ、ここが魔術都市マジク・マジカだ」

「おぉ!」

 メイリルとは比にならないくらい規模が大きく、均整のとれた建物が立ち並び、通りは杖を持った人々で賑わっている。

 そして、街の中心には天にも届かんばかりの塔がそびえ立っている。

「すごい!」

「なんでも魔法を組み込んだ建築技法があって、多少無理な形でも風が吹こうが地震が起ころうが壊れないそうだ」

「すごいなぁ、うちの国もそんな技法があればいいのになぁ」

「ひとまず、宿を取りましょう」

 僕たちは都市で評判のマリルの宿に泊まることにした。

 なんでも、500を超える部屋をもつ宿屋を女将が自分の魔法を駆使して1人で切り盛りしているそうだ。

「ここか、444号室」

「不吉だなぁ」

「そうですか?」

 部屋の中は広く、完璧なベットメイキング、窓からの美しい景色、どこをとっても素晴らしい。

「どんな魔法を使えばこんな綺麗な部屋になるんですかね?」

「さっき、チラッと聞いたんだが分裂魔法が使えるらしい、数は20人まで増えるそうだ」

「20人でもかなりキツくないですか?」

「元冒険者で元シーフだから、相当手際がいいらしい」

「冒険者って、引退してもすごいんだねぇ」

「そうですね」

「この後すぐにダンジョンに行くんですか?」

「いや、まず依頼者のところへ行って依頼内容を聞く、内容によってはすぐに行く必要があるかもしれんがもしそうでない場合は、ダンジョンの下調べをして翌日に探索を開始する」

「依頼者はどこのいるんですか?」

「あの1番でかい建物」

「マジすか」

 宿を出て塔を目指す。

 塔は都市の中心にあり、たとえ都市の端であってもすぐ近くにあると錯覚するほど大きい。

「あんなのが倒れたらって思うとゾッとしますね」

「大丈夫だろ、優秀な魔法使いがたくさんいるらしいし」

「魔術学院セアニア、マジクの弟子セアニアがその技術を継承し発展させるために作った魔術研究の最先端を行く場所です」

「そんな場所から依頼をもらうなんて、すごいですね」

「しかもこの手紙に書いてある魔法陣を受付に出せばすぐに入れるんだそうだ」

「魔法陣?」

「いわば魔力が通る回路です。魔力を変化させるためのコードが組まれており、魔力を流し込むことで発動します。その手紙の魔法陣は魔力を流すことで中に入っている情報が開示されるようになっていますね」

「魔法ってなんでも出来るんですね、人の心を読んだりとか」

「それはどっちかというとマナの力ですね」

「ずっと気になってたんですけど、マナってなんなんですか?」

「そこを話すと少しややこしいんですよね」

「多分、その話が終わる前に目的地に着くと思うぞ」

「学院なら教えてくれるんじゃないかな?」

「そうかもな」

 その後、30分もかけて塔に辿り着いた。

 見上げてみても塔の頂上は見えない、こんなに大きいと移動だけで1日が終わりそうだ。

「本日はどのようなご用件で?」

「これを」

受付が手紙の魔法陣に手をかざすと文字が浮かび上がる。

「k49…ノウ様の研究室ですね。こちらにある移動式魔法陣をお使いください」

 受付の示した場所には、地面に魔法陣が書かれている。

 その上に立つと、一瞬の光と共に景色が変わる。窓から外を見ると足がすくむほど高い。

「k49、ここか」

 ドンさんがノックをする。

 が、返事が返ってこない。

「留守…ってわけじゃないよな」

「研究に没頭してるとかじゃないですか」

「入ってみるか」

 扉を開けるとまず目に入ったのが大量の本、本、本。

 自分が一生の間で見る本の5倍の量はあるんじゃないか?

「いないのかな?」

「待つにしても、この部屋で待つのは難しそうだな」

「本しかないですしね」

「なんの本なんでしょうね」

「魔力解析の本さ」

「へぇ……ん?今の誰が答えたんです?」

「俺じゃないぞ」

「僕じゃないよ」

「私でもありません」

「私だ」

 積み重なった本の山の中から声が聞こえる。

「え?」

「君達はあれか?ダンジョンレスキュー隊の方達か?」

 本が浮かび上がり、真っ直ぐと本棚へ入っていく。

「すまない、考え事をしていてね、本が倒れていたのに気づかなかった」

 倒れていたというよりかは押し潰されていたというほうが正しい気がするが、本の中から出てきたその男は服に皺も埃もついておらず、僕達に対して興味があるかのような、見透かすかのような、それでいて眼中にないかのような視線を向けてくる。

「私はノウ・レッジ。君達の名は?」

「俺はドン、一応レスキュー隊のリーダーだ」

「僕は大西 良介」

「私はエリフ」

「僕はトラン・ハイランダーです」

「なるほど、ドワーフ、オーガ、エルフ、ハーフフット、それぞれのハーフか、面白い。じゃあ早速依頼内容を説明しよう。いや、その前にこの都市が管理するダンジョンについて説明した方がいいかな?」

「あぁ、そっちの方がこちらも助かる」

「よろしい、ダンジョンというものは人によって作られたもの、自然発生したものなど様々な種類がある。そしてダンジョンが発見された場所は急速に発展し、街が形成される。君達が住んでいるメイリルという街もダンジョンによって発生する利益によって成り立っているわけだ。だが、魔術都市マジク・マジカのダンジョンは他のダンジョンとは形式が違う。ここのダンジョンは魔力の発見者であり、魔術研究の第一人者マジクが魔法使いの試験場として作ったものだ」

「試験場?テストとかがあるんですか?」

「そうだ。その試験にクリアすることで次の階層へ進むと共にマジクの残した魔導書を手に入れることができる。入るものを拒む一般のダンジョンと違い、人が先に進むことを望んでいるダンジョンなのだよ。だからこのダンジョンに来る冒険者のほとんどは魔法の知識を得たい探究者達だ」

「そんなに人が来てたらあっさり攻略されちゃうんじゃないですか?」

「それが残念なことにこの200年でクリア者はいない、未だマジクの研究の全貌は明かされていないんだ」

「それ僕たちが挑んで大丈夫なんですか?」

「大丈夫、マジクのダンジョンで人が死んだ事例は一つもない。それに浅い階層なら試験もそこまで難しくはない」

「まぁ、ダンジョンの概要は大体わかった。依頼内容の説明を頼む」

「わかった。私には一応弟子?助手?のようなものがいてね、彼が自分の研究した魔法を試すためにダンジョンへ潜ったんだがいまだに帰ってきていない、彼が生存しているか、どこにいるか、可能なら救助を頼みたい」

「なるほど承知した。だが、ダンジョンの仕組み的に他の魔法使いに頼めばよかったんじゃないか?」

「私を含め、ここで研究をしているものは知識に対し貪欲で独善的だ。救助に時間を割くより魔法の研究の方を優先したほうが良いと考えるだろう」

「なるほどな」

「では頼むよ」

 ノウという男はそう言うと、また研究に没頭し始めた。

 僕たちは塔を出て、宿へ戻った。

「どうします、ダンジョンへ行きますか?」

「要救助者がいる以上、一刻も早く救助する必要がある。支度ができたらすぐ出発しよう」

「うん」

「はい」

「……」

「エリフ?大丈夫か?」

「あ、はい、大丈夫です」

「よし、行くぞ」

エリフさん、大丈夫だろうか、さっきのノウさんの発言に対しても思うところがあったのか、冷ややかな目を彼に向けていた。

 確かに、ノウさんは僕が初めて見るタイプの人だ。 感情を心でなく、脳で理解しているような印象を受けた。

 ドンさん達みたいな他種族よりよっぽど他種族している気がする、相容れない、理解できないと理解する感覚。

 まぁいわゆる変な人ってやつだ。

 ノウさんの発言的にあの学院は変な人ばかりいるみたいだ。

「えらく綺麗なダンジョンだな」

 メイリルのダンジョンの入口が怪物の大口とするなら、ここのダンジョンは豪華なお屋敷の門のような印象を受ける。

 ダンジョン内も舗装されており、至る所にある魔力でできているであろう光の球によって道が明るく照らされている。

「すごいですね、このダンジョン」

「人を迎え入れるためのダンジョンらしいから、綺麗に造られてるんだろうね」

「文献によると、マジクはこのダンジョンを1人で7日かけて造り上げたそうですよ」

「それはすごいな……ん?なんだありゃ?」

 通路の先には、道を塞ぐ大きな扉があり、ちょっとやそっとじゃ壊れなさそうな、非常に大きな南京錠がかけられている。

「ピッキングでなんとかなるモンじゃないよな?」

「そうですね、魔力で開くようになっています」

 エリフさんは南京錠に手をかざし、目を瞑る。

 すると、南京錠に文様が刻まれていく。

「開きましたよ」

「オーニシ、扉を押してくれ」

「大丈夫です」

 エリフさんが軽く押すだけで分厚い扉がいとも簡単に開く。

「軽量化魔法がかかってるんですよ、本当はこんな当たり前みたいにかけるような魔法じゃないんですけどね」

「すごい人なんですね」

「まぁ、そうですね」

 扉の先には次の階層への階段と本があった。

「それは?」

「マジクの魔導書です」

「え?それってかなりレアなんじゃないですか?」

「いえ、試験をクリアしたものに与えられるものですから、浅い階層で手に入る魔導書はそこまでレアじゃありません」

「もらえる魔導書はランダムなんですか?」

「いえ、複製魔法によって複製された全く同じ魔導書です。新しい魔導書を手に入れたければ、次々と試験をクリアしなければなりません。それと魔導書はクリアした本人しか読めません」

 エリフさんが差し出した魔導書には何も書かれていないように見える。

「エリフさんには見えるんですか?」

「はい」

「どんな内容なんですか?」

 行ってもどうせわからないですよと言いたそうな顔をしている。

「次行きましょうか」

 その後も南京錠を解除するだけの試験が4回ほど続いた。

 エリフさんの解除する時間が長くなっているのを考えるに難易度は上昇しているのだろうが、絵面が変わらないため退屈だった。

「また次も南京錠なんですかね?」

「いえ、次から的当てになります」

「へぇ」

「さっきから詳しいけど、エリフはここに来たことあるの?」

「まぁ…はい」

「そうなんだ」

なんで黙ってたのか、なんでここに来たことがあるのか、色々問いただしたかったけど顔に聞くなと書いてあったのでやめておいた。

 その後の的当てはありえないくらい速く動く的をエリフさんが正確に撃ち抜いたおかげで5回とも早く終わった。

「試験は5階層おきに変わるんですね」

「そうです、次はゴーレムと戦わなくてはなりません」

「ゴーレム?」

「魔法で動く非生物の総称です」

「いきなり難易度上がってませんか?」

「マジクは飽き性の遊び好きで有名でしたから、ここら辺から適当になり始めてるんですよ。難易度調整もおかしいことになっていますし」

「だからクリア者がいないってわけか」

「私は攻撃魔法が得意じゃないので、ここで挫折したんですよ」

「え、大丈夫なんですか?倒せます?」

「仕事ですから、やるしかないでしょう」

階段を降りると、広い部屋にでかいゴーレムが待ち受けていた。

 僕のイメージしたゴツゴツとしたゴーレムとは違い、パーツの一つ一つが正確に組み合わさったゴーレムで、滑らかに素早く腕を振り回してくる。

「おかしい!難易度がおかしい!!」

「ほ、ホントに死人は出ないんだよね!?」

「大丈夫です!死にかけたら転送されるようになっていますから!!」

「一旦死にかけにならないと出られないんですか!?」

「とりあえず、倒すしかないだろ!?」

「あの背中にある、コアを狙ってください!魔法じゃなくても倒せますから!!」

 ゴーレムの背中には私の弱点はここですと言わんばかりの剥き出しの大きな球がついている。

 弱点はわかったが、ゴーレムが大きすぎて遠距離攻撃でも無ければただ届きそうにない。僕は次第に壁に追い込まれ始める。

「トラン!逃げろ!!」

「無理です!旋回速度が早くて逃げられません!!」

「くそっ!エリフ!なんとかならないか!?」

「待ってください!!今チャージしています!」

「早く!!」

 やばいどんどんにじり寄ってきてるし、手も振り上げ始めている。

 あぁ壁よ、もう少し後ろに行ってくれないかな!?

「…ぃ……ぉ…ぃ」

 ん?

「た…け……れ」

何か聞こえる?

「か…べ……に…」

壁…?もしかして、壁の中にいる!?

「チャージ完了!いきます!!」

「ストップ!エリフさんストーーーップ!!」

「え!?」

 エリフさんの一瞬の動揺により、攻撃魔法が外れる。

 と、同時にゴーレムの大きく、固く、太い一撃が振り下ろされる。

「トラン!」

「緊急回避ィ!!」

 文字通り間一髪でゴーレムの一撃を避ける。

 堅牢な壁はより頑丈な腕によって無惨に破壊された。

「いやぁ〜、助かりましたよ!」

 壊れた壁の奥から人が出てくる。

「隠し部屋を見つけたと思ったら、タイミング悪くリセットが入って出られなくなったんですよ」

「おいアンタ!気をつけろ!!」

「ん?」

 ゴーレムは体制を立て直し、両手を振り下ろす。

「あぁ、はいはい。」

男はゴーレムに手を伸ばし、閃光を放つ。

 閃光は一瞬のうちにゴーレムの両手を貫き、胸を貫き、背中のコアを貫いた。ゴーレムは糸が切れたかのように崩れ落ちた。

「急がないと、先生待ってるだろうな」

「その先生って、ノウって名前だったりしねぇか?」

「どうしてそれを?」

 僕たちはことの経緯を話した。

「先生が心配してくれてたなんて感激だなぁ」

「心配……まぁ、よかったですね。」

 心配している人間は研究に没頭してないけどなぁ。

「じゃあ、安否も確認できたことだし、報告しにセアニアに行くか」

「そうですね、えい!」

「うぉっ!?」

男が杖を振ると、僕達はノウさんの部屋に移動していた。

「先生!帰りましたよ!」

「あぁ、どうだった?」

「隠し部屋を見つけました」

「ほう?」

「本来であればダンジョン内の壁は破壊できませんが、ゴーレムの攻撃により破壊できることが確認できました。そして破壊した壁の中には小部屋があり、中にはこれが」

「未発見の魔導書か」

「はい、内容は簡易魔法陣についてです」

「素晴らしい、見せてくれるか?」

「はい」

「あの、その魔導書って他の人には見れないんじゃ…」

「あぁ、だから彼の視界をジャックする。本人の視界を共有することで見えるようになる」

「魔法って便利ですね」

「いや、これはマナの力だ」

 またマナだ。

「とりあえず、こっちとしては報酬をもらいたいんだが?」

「あぁすまない、これで足りるか?」

 ノウさんはポケットから貨幣の入った袋を取り出し、ぞんざいに渡す。

 袋の中にはぎっしりと硬貨が入っている。

「ちょ!こんなにいいのか?!」

「正当な対価だろう?君たちの働きにより新たな技術が発見されたんだ。足りないなら増やすが」

「いやいやいやいや!十分だ」

「そうか」

「あ、でも、あんたがいいんならこいつに魔法とかマナのこと教えてやってくんねぇか?」

「え?」

「あぁわかった。明日の9時に来てくれ」

「いいんですか?」

「学ぶことは生物全てに与えられた平等な権利だ」

「じゃ、じゃあお願いします」

「あぁ」

 その後、僕達は宿に戻り、宿で食事を摂った。

 宿の料理は手が込んでおり、非常においしかった。

「今日は疲れましたねー」

 ベッドに飛び込んで体を伸ばす。

 柔らかいベッドは疲れた体を包み込んでくれる。

「明日はどうしますか?」

「そうだなぁ、トランも勉強することだし、俺たちもなんか勉強した方がいいかもな」

「うん、もしかしたらここでの新しい仕事がくるかもしれないしね」

「そうだな、数日滞在するか」

「そうですか…」

エリフさん、暗い顔してるな。

 心配だ。ダンジョンでもそうだったけど、ここに嫌な記憶があるのかもしれない。

「トラン、今日は早く寝ろよ?」

「グゥ」

「もう寝たのか…」

「今日頑張ってたもんね。僕達ももう寝ようか」

「おう」






「はぁ…あと2日、ですね」

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