ダンジョンにおける生態系 それはそれとしてヘビは嫌い
「ヤダーーーーーっ!!」
初仕事の成功から3日たった。
ドンさんから次の仕事が来るまでの間
「自分に合う装備を探したり勉強したりしとけ」
と言われたのでこの3日間僕が扱えそうな武器を探したり、防具の機動力を取るか防御力を取るか悩んだりした。
そして今日は勉強用の本を買いにきている。
幸い初仕事の報酬で懐は暖かい、やっぱり冒険者の稼ぎって凄いんだな。
「あ、ここだ、マナビヤ書店」
エリフさんによると、技の指南書や呪文や魔法陣、魔法式が書かれた魔術書などの実戦用の本が置かれている書店と、生物の図鑑や武器の図鑑、魔法の原理を記した本などの知識を得るための本が置かれている書店の2つがあるらしい。
当然、僕が訪れたのは後者の方だ。
「色々あるなぁ」
よくわかる!武器の使い方、魔法の原理、マナの原理(魔法と何か違いがあるんだろうか?)、生物図鑑、魔法生物図鑑、学ぼう!エルフ語、世界の挨拶とその意味。
「キリがないな」
「ねぇ、あんた」
「え?」
振り返ると、女性が立っていた。
装備を見る限り冒険者ということがわかるが、今のところ僕には冒険者の知り合いもいないし、女性の知り合いもいない。
でもどこかで見たことあるような。
「あんた、名前は?」
「いや、知らない人に名前を教えるのは」
「いいから!名前!」
「ランポです」
「本当のこと言わないと、その舌切り裂くわよ」
「トランです」
何で偽名って分かったんだろう。
「やっぱり、あんたがトランね!」
「あの、どこかでお会いしましたっけ?」
女性に会ってたなら必ず覚えてるはずなんだけど。
「会ってるわよ、その時私石になってたけど」
「石?あっ!」
「やっとわかった?」
「はい、3日前に僕たちが救助した人、ですよね?」
「そうよ、あんたにお礼をしにきたのよ。」
「お礼って、拳で?」
「何でそうなるのよ!?」
「いやせっかくの稼ぎを半分も取られて怒り心頭なのかと思って」
「あのね、あんた達に助けてもらえなかったら私、お金どころか人生までなくなってるのよ?これで怒るようだったら、私とんでもないクズよ」
「でも、何で僕がここにいるってわかったんですか?」
「あんたの名前のややこしいお仲間に教えてもらったのよ、きっとここにいるだろうって」
「なるほど。でも僕、あの時ほとんど役に立ってないですよ?」
「でも、あんたが第一発見者だって聞いたわよ?」
「まぁ、そうですけど。でもあれはたまたま…」
「だったら私にはその恩を返す義理があるわ!何かして欲しいことはない?」
ナニかして欲しいことかぁ。
う〜ん、変なこと言ったら切り刻まれそうだな。 あ、そうだ。
「僕、ダンジョン初心者だから自分に合う装備と勉強用の本を買おうと思ってるんですけど、何かオススメの装備や本とかありますか?」
「それだけでいいの?」
「はい、お願いします」
「じゃあまず、あんたの職業は?」
「職業?ダンジョンレスキュー隊です」
「そっちの職業じゃないわよ」
「え?じゃあどっちの…」
「剣士とか僧侶とかの方よ、私はシーフをやってるわ、あんたは?」
「え、じゃあ、あなたは職業欄にシーフって書くんですか?」
「ぶっ叩くわよ!?職業ってのはダンジョン内での役割のことを指すの!攻撃役だったら剣士、回復役だったら僧侶とか」
「へ〜、そうなんですか」
「あんた、本当にダンジョン初心者なのね。レスキュー隊に入った時に何か役割を任せられなかった?」
「えっと、偵察役を頼むって言われましたね」
「あら、じゃあ私と同じじゃない、確かにあんた小柄で身軽そうだものね」
「え、じゃあ僕は人のものを盗まないといけないんですか?!」
「違うわよ!シーフってのは素早く動いて偵察をしたり、敵の気を引く役割のことよ。まあ私みたいに単独で活動するシーフもいるけどね」
「なるほど」
「その場合、軽くて動きやすい装備がいいわね。武器も取り回しのいいダガーとかおすすめよ。あと収納の多いポーチも持った方がいいわ」
「ふむふむ」
「まぁ、装備はこんなとこね。次に本だけど、まず生物図鑑は持ってて間違いないわ」
「そうなんですか?」
「そりゃそうよ、その生物の生態の他に、危険な部位や毒の有無、調理法まで書いているものもあるわ」
「なるほど。でも僕、記憶力悪いから覚えられるかな」
「大丈夫、これがあるから」
彼女は本棚に手を伸ばして、本を取り出した。
その本は手のひらほどの大きさで、他の図鑑に比べると薄く、背表紙には小さい水晶のようなものが埋め込まれている。
「こんなのに生物の情報が網羅されてるとは思えないんですけど」
「まあまあ、中身を見ればわかるわ」
「はぁ…?」
手渡された本のページをペラペラとめくる。
だが、どのページを見ても生物のことはおろか、文字すら書かれておらず、全て白紙だった。
「あの、中身を見てもわからないんですけど」
「じゃあ、こうしたらどうかしら?」
彼女が背表紙に触れると、白紙だったはずのページに文字が浮かび上がってきた。
(ホシテントウ 背中に黒い⭐︎のマークがついている虫。捕食した量に応じて、その背中の星は増えていき、それに比例して成長し、凶暴さが増すため、極限まで成長すると人間を捕食できるほどに巨大化する。だが、そのほとんどは成長過程で駆除、捕食されるため、分布の多さに対し、人間に対する被害量は少ない。)
「すごい、何をしたんですか?」
「このポケット図鑑、通称ポケカンはね、背表紙の水晶に生物を映すと、生物の対処法を解説してくれるのよ。直接水晶に生物が触れた場合は生態を解説してくれるわ。あと、生物の名前を言えば簡易的な説明もしてくれるのよ。今浮かび上がったのは、そこら辺にいた虫の解説ね」
「すごい!」
「もし自分の知らない生物が出たら使うと良いわ。まぁ、1番は全部の生物を頭に入れることなんだけどね。勉強用にこれも買っときなさい」
ここに置いてある本の中で最も分厚いであろう生物図鑑を渡される。
「重っ…!?」
「日常でよく見る生物、毒を持ってる生物、獰猛な生物、危険な植物、あまり見かけないけど気をつけたほうがいい生物、伝説の生物とか、細かな分類で載ってるから便利よそれ、暇な時見たら良いわ」
「は、はい」
「あと、よくわかる!武器の使い方 ダガー編ね、基本的な動きは頭、いや、体に覚えさせといたほうがいいわ。あんた、魔法は…無理そうね」
「ご名答」
「う〜ん、まあ一応魔法生物図鑑も買っときなさい、魔法の専門用語が多いから魔法の原理もあると良いわね。まぁ、こんなもんね」
「じゃあ、ちょっと買ってきます」
お勧めされた5冊の本は合計で24500エニーもした。 僕にとっては高額だが、冒険者にとってははした金に過ぎないのかもしれない、事実、この3日間でかなりお金を使ったと思っていたが、仕事の報酬の半分も使ってないのである。
「何エニーだった?」
「24500エニーです」
「そう?思ったより安いわね」
「やっぱり、冒険者の稼ぎだと安く感じるもんなんですか」
「そうね、ハイリスクハイリターン、一度冒険で稼いだらもう病みつきよ、多くの人が冒険で夢を掴もうとしているわ。まぁ挑戦者が多い分、失敗する人も多いわけだけど」
「なるほど」
「だからこそ、あんた達がやってることはすごいことだと思うわ、今時人助けなんてやってる冒険者なんてほとんどいないし。この先、あんた達がやってることに感謝する人が増えると思うわ、だから頑張ってね」
「は、はいっ!」
クールに去っていく彼女の背中を見送る。
やっぱりかっこいいなぁ、冒険者って、僕も頑張らないと。よし、帰ったら早速勉強
ぐぅ〜
の前に腹ごしらえをしよう。お金どのくらいあったっけ……ん?
「なんだこれ、お金…?」
ポケットの中にくしゃくしゃになったお札が入っていた。
合計で24500エニー……まさか!
彼女が去っていった方向を見る。
同じ職業でも、彼女と僕には天と地ほどの差があるようだ。僕もいつかああなれるだろうか……いや、無理だな。
僕が今やれることを頑張ろう。
「とりあえず、ロイさんのところに行こうかな?」
重い本を引きずりながらたどり着いたロイの酒場は相変わらず冒険者で賑わっていた。
だが、店員はマスターであるロイさんしかいない。 聞いたところによると、ロイさんは名のある冒険者だったようで、引退した後冒険者をサポートするためにこの店を開いたのだそうだ。
事実、料理を作ったり運んだりするロイさんの動きは、穏やかでありながら非常に俊敏だ。
「やぁ、トラン。まだ依頼はきてないよ」
「あ、いや、今日はご飯を食べにきただけです」
「そう、ご注文は?」
「フィッシュ&チップスと、クリンの実のジュースを」
注文をとるや否や、ロイさんは素早く厨房へ消えていった。
待ってる間に本を読んでおこう。
「何から読もうかな…やっぱり武器の使い方を知ってた方が良いよな」
よくわかる!武器の使い方 ダガー編をペラペラとめくる。
なになに、ダガーの利点はなんといってもその取り回しの良さ!初心者でも剣に振り回されることなく、振り回せます。
使い方のポイントとしては、相手の懐に深く潜り込み、弱点に突き刺す!首、頭、目、心臓!これらに突き刺せば殆どの生物はノックアウト!
「なるほど」
確かに一撃で決めることができればドンさんやオーニシさんのような力がなくても役に立てるな。
えっと、注意点もあるのか、ただし!硬い装甲を持つ生き物や、魔法生物などの弱点が狙い難い敵とは相性が悪い!この場合、潔く諦めましょう。
「辛辣だなぁ」
総評として、相手の隙をつく一撃必殺アタッカーに向いている武器と言えるでしょう。
なので、小柄で動きが素早い人に向いています。
「なるほどぉ」
確かに彼女も小柄で身軽そうだったし、僕のポケットにお金を入れられるほど素早かった。
足の速さに自信はないが、目立たなさには自信がある。
よーし、やる気が湧いてきたぞ。
「はい、おまち」
食欲も湧いてきたぞ。
カラッと揚げられた衣がキラキラと輝いている、ポテトも僕好みの細ロングタイプ。
揚げたてだから、項垂れることなくピンと頭を上げている。
「いただきます」
サクサクな衣に包まれたふわふわジューシィな魚が僕の舌を刺激し、魚のフライを支えるかのように積まれたポテトは、揚げたてホクホクで火傷しそうなほどだ。
そして、キンキンに冷えたジュースで油を洗い流す。
ふと、気づいた時にはもうなくなっていた。
「ご馳走様でした」
満腹だ、とりあえず帰ったら勉強を
「お前食うの早いな」
いつのまにか隣にドンさんがいた。
「おわっ!」
危うく椅子から転げ落ちそうになるのをオーニシさんが支えてくれた。
「ど、どうしてここに?」
「あぁ、お前を探してたんだよ。宿にいなかったから、ここにいるかなって」
「そうなんですか、何で僕を探してたんですか?」
「仕事だ」
「えっ!?」
「行きますよ」
「ま、待ってください!本を置いてからでいいですか?」
「大丈夫、うちで預かっておくよ」
「じゃあ行くぞ」
「え、ちょ」
抵抗虚しく引き摺り出されてしまった。
連れてこられた場所は僕の予想とは違い、ダンジョンではなく、メイリルで最も大きい建物だった。
「こ、ここは?」
「冒険者ギルド兼ダンジョン維持協会」
「ギルド?協会?」
「ギルドは冒険者の組合で、依頼の斡旋やアイテムの鑑定と換金、情報共有用の掲示板の管理とかやってる」
「ロイさんも同じことしてませんでした?」
「ロイも元冒険者だからな、ギルドと協力して店に訪れた冒険者に依頼を紹介とかしてんだよ。実際、ダンジョンから最も近いロイの酒場の方が色々と便利なんだよな、ギルドの本部と違って飲み食いもできるしな」
「じゃあ協会の方は?」
「ダンジョン維持協会、名前の通りダンジョンの維持を目的とした協会だ。例えば、ここのダンジョンは人の手で作られたトラップダンジョンだが、外部からの生物が住み着く場合もある。そうなると、トラップに加えて、生物による危険が増える。それに、生物がダンジョンを荒らしたり、トラップをめちゃくちゃにしてめんどくさいことになったりする。で、そういった生物を駆除してダンジョンの均衡を保つのがこの協会ってわけだ」
「なるほど、じゃあ今回の仕事ってなんですか?」
「それを今から聞きに行くんだよ」
建物の2階に上がり、奥から3番目の部屋に入る。
部屋には神妙な顔つきをした女性と、腕を組んだゴツい男と、フードを被って顔がよく見えない人がいた。
僕たちのためにに用意されたであろう椅子に座ると、男が喋り始めた。
「今回、レスキュー隊の方々に集まっていただいたのは他でもない、ダンジョン内のとある生物の駆除を頼みたいのです」
駆除…ってことはこの人たちは協会の人達なのか。
「とりあえず、概要を教えてもらわないと話が始まらないな」
男はごもっともといった顔つきで紙を広げる。
どうやらダンジョンのマップのようだ。
「3日前からでしょうか、ダンジョン内にて石化毒を持った生物の出現が確認されまして、被害を受けた冒険者の石像が次々と発見されているのです。出現場所が第1階層と第2階層なため、地上から侵入したものと考えられます。事実、あのダンジョンは隙間があるため、入り口からでなくとも穴を掘って侵入可能でしょう」
「なるほど、確かにこっちも3日前に救助した冒険者が石化状態だった」
「何か外傷はありましたか?」
「左手首に咬み跡があった」
「なるほど、それはどのような?」
「深めの穴が2つ空いていた」
男は眉間に皺を寄せ、女性の方へ顔を向ける。
女性は頷くと、立ち上がって言う。
「ダンジョンの隙間から侵入、石化毒を持つ、噛み跡の特徴から考えるに、その生物はコカトリスノシッポで間違い無いでしょう」
「あいつかぁ」
その場にいる僕とフードを被った人を除く全員が渋い顔をしている。
この状況で呑気に
「コカトリスノシッポってなんですか?」
とか聞ける気がしないので、ドンさんに酒場から引き摺り出される前に辛うじてポケットに突っ込めたポケカンを取り出す。
ページには既に文字が浮かび上がっている。
(コカトリスノシッポ コカトリスの蛇の部分と同じ模様を持つ蛇。コカトリスと同じ石化毒を持っている)
「蛇……?」
「えぇ、ダンジョンの中は暗いですから、地を這う蛇は視認しづらいでしょうね」
「それに、咬まれたら一発アウトときたもんだ、厄介なことこの上ないぜ」
「ヤダーーーーーっ!!」
「うおぉっ!?どうした?!」
「どうされました!?」
「石化が怖いのですか?でしたらご安心ください、術師が付き添いますので」
「そこじゃない!!」
「あ、トラン君もしかして蛇苦手?」
「はい!あんなのいて良いことないですよ!」
「そういうのは人間の身勝手な考えですよ」
「やかましい!人間は自分勝手ですよ!だから今栄えてるんです!!」
「お、落ち着いてください。気持ちはわかりますよ、私も蛇苦手ですから」
女性が僕の手を握って言う。
「えっ!?」
「私、調査員だからダンジョンに何回も訪れないといけないんです。だから、蛇がいたらとても怖くて…」
涙で潤んだ瞳に上目遣い、その手は微かに震えていた。
「さぁ、今すぐ行きましょう!」
「あ、おい、蛇大丈夫なのかよ!」
「あんなもん蒲焼にしてちょちょいのちょいのソイソースですよ!!さあ行きますよ!!」
ドンさん達を置き去りにして、僕はダンジョンへと駆け出していった。
「あいつもあいつだが、あんた、悪い人だなぁ」
「ふふ、蛇が苦手なのは本当ですよ?」
3日ぶりのダンジョン、相変わらず大口を開けて待ち構えている。
先走って来たのはいいが、1人で入る勇気は無論僕には無いのでドンさんたちの合流を待っている。
「あ、来た。あれ?」
レスキュー隊のメンバーの他に調査員の女性とフードを被った人が来ている。
「なんだ、先に入ってるかと思ったのに」
「その場合、僕の石像を拝む羽目になってましたよ」
「へっ、そうかもな」
「ところで、彼女たちも付いてくるんですか?」
「ん?あぁ、蛇の数の調査と、もし咬まれた場合の応急処置の為に来てくれるんだと」
「なるほど、じゃあ出発しましょう」
「あ、待て、俺が先頭だ。俺が発見次第、俺とトランとエリフで駆除しよう、オーニシは調査員の方々を守っててくれ」
「「「了解」」」
薄暗い道をドンさんを先頭に、調査員の人たちを中心にして歩いて行く、応急処置があるにしても油断して咬まれたら一発ゲームオーバーの緊張が体に走る。
「トランさん、気付いてますか?」
「えぇ、フードを被ってるあの人、歩き方から察するに女性、そしてフードと髪の擦れる音的に髪型はポニーテールで、アイタッ!」
「何ろくでもないこと考えてるんですか、そうじゃなくて、冒険者がまだ第1階層なのに、1人も見かけていないということですよ
「あ、ホントだ」
「蛇のことが掲示板で共有されてることも理由の一つでしょうけど、ここまで冒険者がいないということは珍しい、これは我々が考えているより深刻な状況なのかもしれません」
「つ、つまり?」
「おい、いたぞ!」
ドンさんの指さす方向へ目を凝らす。
うっすらと這いずる何かが見える上、シュルシュルと僕が嫌悪する声が聞こえてくる。
しかもかなりたくさん。
「エリフ、光!」
「はい!」
ささやかな光が通路を照らす。と同時に通路を埋め尽くしかねないほど大量の蛇が僕達の方へ向かってきている。
「キシャャァ!」
「うわあぁぁあ!?」
「お、おい落ち着け!取り乱すな!?」
人間、ガチで焦ると逆に冷静になるもので、ドンさんへ牙を剥き出しにして飛びかかる蛇を見た瞬間、僕のダガーは蛇の頭部へ突き刺さっていた。
「お……!」
「弱点に突き刺す…!弱点に突き刺す…!」
よし、この感覚だ。
幸い、練習台は沢山ある。この薄寒さと鳥肌を抑えないと…!
「くたばれぇ!この(とても聞き取れないような罵声)!」
憎らしい蛇の頭部に最初からそこにあったかのようにダガーが次々と突き刺さる。
「その忌々しい口を閉じろ!(要領を得ない罵声)野郎!」
「すげぇな、色んな意味で…」
「薄々感じてたけど、トラン君ってだいぶ激しい性格だよね」
「自身の感情に正直とも言えますね」
しばらくして
「はぁっ、はぁっ、げほっ」
「終わったかー?」
「み、、見てたんなら……手伝ってくださ…おぇっ」
「いや、加勢したらついでに刺されそうな勢いだったから」
「そ、そんなこと…」
したかもしれないな。
「ひひとまずこれで全部なのでしょうか」
「かもな、数え切れるか?」
「えぇ、なんとか」
あちこちに散らばっている蛇の死骸を彼女はとてつもなく嫌そうな顔で数えている。
僕の方は、感覚が麻痺してしまって、何も感じない。
あ、そうだ、ポケカン使ってみよう。
(コカトリスノシッポ コカトリスの蛇の部分と同じ模様を持つ蛇。尻尾の先に刃物で切り落とされたような断面が見えるため、切り落とされたコカトリスの尻尾が独立して動くようになったものと考えられていたが、断面の部分も模様であり、生まれた時からすでに切られたような形の尻尾を持っていることが確認された。なお、近縁種としてバジリスクノシッポがいるが、違いとしてコカトリスノシッポは暗いところや地下に群れで暮らし、鱗は鮮やかな色、そしてコカトリスのものと同じ石化毒なのに対し、バジリスクノシッポは地上で単独で暮らし、鱗は落ち着いた色、毒はバジリスクと同じ猛毒である。)
「ややこしっ!」
「ですよね、私も騙されました」
「石化毒とかいう必殺技があるのに何で群れるんですかね」
「石化したひとのパーツを使って住まいを作ったりするそうですよ」
「怖っ!?」
「基本一塊の群れになるから、ここにいるので全部かもな」
「そうであって欲しいですよ」
こんなにたくさんの群れがいくつもあったらたまったもんじゃ…ん?
「今…動いて?」
蛇の死骸の山から一筋の影が飛び出す。
「え?」
頭を貫かれているはずの蛇が動き、近くにいた彼女に牙を剥き飛びかかる。
全身の血が沸き立つのを感じる。
「あ!?」
「モドキだ!」
ドンさんの声がやけにゆっくり聞こえる。
腰のダガーを素早く抜く、だがこの距離じゃ間に合わない。
「くっ!」
当たれ!
僕の手から離れたダガーが蛇の尻尾を貫き、そのまま壁に突き刺さる。
蘇った蛇は己を貫くダガーに抵抗することなくブラリと垂れている。
「大丈夫ですか!」
彼女は目を開かない、間に合わなかったのか…
「外傷はない、気を失ってるだけだ」
「よ、良かったぁ」
「しかし、モドキとはなぁ、こいつが主犯か」
「なんです、モドキって?」
「コカトリスノシッポモドキ、見た目は本物そっくりだが、こいつは蛇ですらない、虫だ。それにこいつは頭と尻尾がコカトリスノシッポと逆なんだよ、頭に当たってラッキーだった」
「へ〜、虫」
壁に刺さったダガーを抜く。
確かに、よく見ると頭に見える部分には喉がない。
「虫は平気なんだな?」
「はい、ついでに蛇も平気になりました」
「そうか、じゃあ帰るぞ」
「え、第2階層の調査はいいんですか?」
「大丈夫だ。モドキは、フェロモン出して他のシッポ呼ぶんだ。だからこいつがいるってことはここにいる蛇で全部のはずだ。ついでに元凶も断てたしな。オーニシ、この人頼む」
正直、この後のことはよく覚えていない、ドンさん達と協会に行って何か報告して、ウトウトしてたらいつの間にか酒場にいた。
「はいじゃあ今回のMVPトランに乾杯!!」
「MVP私の隣で寝てますよ、乾杯」
「まぁ、1番頑張ってたし、僕たち今回何もしてないよね。乾杯」
「う〜ん、ムニャむにゃ、乾杯」
翌日、僕が全力で筋肉痛に苦しんだのは言うまでもない。
コカトリスノシッポモドキ 見た目はコカトリスノシッポに非常に似ているが、蛇ではなく虫である。頭と思われる部分が尻尾であり、尻尾と思われる部分が頭となっている。蛇の頭部を思わせる尻尾には牙のように見える針がついており、石化毒が注入できるようになっている。なお、コカトリスノシッポの毒はコカトリスと同じ物だが、コカトリスノシッポモドキの毒は石化毒を持つ蠍、スタインスコーピオンと同じ毒のため、蠍に近い種と考えられている。コカトリスノシッポモドキはコカトリスノシッポの群れに住み着く、もしくはフェロモンによって群れを作り、コカトリスノシッポが石化させた対象のまだ石化していない中身を食べる。他にも、中身に卵を産み付け、安全に孵化するための巣として利用する場合もある。コカトリスノシッポモドキが一方的に利益を受ける片利共生と考えられていたが、近年、コカトリスノシッポが自身の住まいを作る際、石像を分解しやすいようにコカトリスノシッポモドキに石像の中を空洞にさせていることからお互いに利益を得ている相利共生の関係にあることが発覚した。見分け方としてはコカトリスノシッポの尻尾の先の断面に見える部分に、コカトリスノシッポモドキは円形に歯が生えているため、群れに遭遇した際、確認を怠らないようにしよう。気づかなかった場合、油断している対象に尻尾から飛びかかったり、フェロモンを用いて他の群れを呼び、再度襲い掛かろうとする。なお、コカトリスノシッポの近縁種であるバジリスクノシッポには、モドキがいない。これは、バジリスクノシッポは単独で暮らすため、利益にあやかることができないからだと考えられている。